ENGLISH LEARNING

第155回 初恋を思い出すときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

初恋。

この言葉だけで、甘酸っぱい記憶がよみがえりますよね。

あの横顔が、気になって気になってしょうがなかったとき。

ちょっと話をしただけで、胸が躍るほどうれしかったとき。

そんなことを考えていると思い出す詩があります。

あのときめきを思い浮かべながら読んでみてください。

*****

The Look
Sara Teasdale

Strephon kissed me in the Spring
Robin in the fall,
But Colin only looked at me
And never kissed at all.

Strephon’s kiss was lost in jest
Robin’s lost in play,
But the kiss in Colin’s eyes,
Haunts me to this day.

*****

まなざし
サラ・ティーズデイル

ステファンとのキスは春のこと
ロビンとのキスは秋のこと
コリンはと言うと見てるだけ
キスなんてなかった

ステファンとのキスは有頂天のうちに消え
ロビンとのキスも気まぐれ
でもコリンはと言うと
そっと唇に触れるような彼のまなざし
それが今でも心から離れないの

*****

おおー!これは、甘酸っぱさ100%!

青空の下で飲み干した清涼飲料水のように、身体の隅々にまで染み渡る爽やかな気持ち!

島崎藤村の「まだあげ初めし前髪の/林檎のもとに見えしとき/前にさしたる花櫛の/花ある君と思ひけり」に匹敵する爽やかさですね!

*****

Strephon kissed me in the Spring
Robin in the fall,
ステファンとのキスは春のこと
ロビンとのキスは秋のこと

好きだと言ってくれる子には、なんとなく心を許してしまうものです。移ろう季節のように、若いころのあの移り気な自分。

But Colin only looked at me
And never kissed at all.
コリンはと言うと見てるだけ
キスなんてなかった

いったいなぜどうして、本当に好きな子には近づけないものなのでしょうか。こちらを見つめてくる視線にも、何か特別なものを感じるのに。

Strephon’s kiss was lost in jest
Robin’s lost in play,
ステファンとのキスは有頂天のうちに消え
ロビンとのキスも気まぐれ

若いうちは、好きという気持ちをあまり理解もできないままに、熱しては冷めたり、イチャイチャごっこをしてみたり。

But the kiss in Colin’s eyes,
Haunts me to this day.
でもコリンはと言うと
そっと唇に触れるような彼のまなざし
それが今でも心から離れないの

お互いの視線に、お互いの気持ちに、何か特別なものを感じながらも、ふたりの間には何もなかった。

でも、それでも、心の奥がじーんとするような思いが、今も胸を焦がす。

それを「初恋」と呼ばずして、何と呼べばいいのでしょうか!

*****

今回の訳のポイント

この詩の中でも、もっとも胸が熱くなるのは、この箇所ではないでしょうか。

But the kiss in Colin’s eyes,
Haunts me to this day.
でもコリンはと言うと
そっと唇に触れるような彼のまなざし
それが今でも心から離れないの

言葉には出さないけれど、まなざしに宿る好きの気持ち。

昔見た、ある小さなカップルのことを思い出します。

ある春の暖かな日に都電に乗っていたとき、途中で乗車してきた小学生のグループの中に、珍しく手を握り合っている男の子と女の子がいたんです。

男の子は他のみんなとずっとはしゃいでいるのですが、女の子と結んだ手は決して離さずにいて、優しい子だなあと思って見ていたんです。

その結ばれた手の先を見ていくと、女の子がじっと男の子のことを見つめているんです。

そのまなざしのやさしさと言ったら、世界中を幸せにしてしまうぐらいの甘さと幸せに満ちていて、時間が止まってしまうのではないかと思うほどでした。

*****

さて、そんなときのまなざしを、この詩ではこう言っています。

But the kiss in Colin’s eyes,
Haunts me to this day.
でもコリンはと言うと
そっと唇に触れるような彼のまなざし

直訳すれば「コリンの瞳の中のキス」となりますが、それでは意味がありません。

キス、口づけ、接吻、、、何でもいいのですが、瞳の中には入らないので、まなざしを形容する言葉にする必要があります。

つまり、名詞でなく形容詞的に、動詞を使うということになります。

「キス」=「唇に触れる」

これで完璧!

恋は、名詞ではなく、動詞でするものですね!

 

【英語力をアップさせたい方!無料カウンセリング実施中】
これまで1700社以上のグローバル企業に通訳・翻訳・英語教育といった語学サービスを提供してきた経験から開発した、1ヶ月の超短期集中ビジネス英語プログラム『One Month Program』
カウンセリングからレッスンまですべてオンラインで行います。
One Month Program

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END