INTERPRETATION

USAカップ

木内 裕也

Written from the mitten

 毎年7月になるとミネソタ州にて全米最大のユースサッカー大会、「USAカップ」が開催されます。約10日間に渡って行われる大会には世界各地から数千チームが参加し、そのイベントを支えるスタッフやボランティアの数も数千人に上ります。日本からも東北地方のチームが参加していましたし、1000名近いレフェリーの中にはJリーグのレフェリーを含む3名の審判員も参加していました。私はそのレフェリーを評価・指導するレフェリーアセッサーとして今回の大会に参加しました。

 アセッサーは全部で8名。写真にあるのは、欠席者が1名いたものの、ディナーの席での1コマです。私のほかにミシガン州から1名、イリノイ州から1名、元国際審判員でミネソタ州在住が1名、スコットランドとイングランドから1名ずつ、そしてそれを統括するチーフが1名でした。

mitten-187.jpg

 アセスメントにはいくつかの目的があります。もちろん審判技術の向上は大きな目的の1つ。しかしそれに加えて、大会が優秀審判賞を準備しているので、その受賞者を決めるのも重要な仕事です。賞には大会全体を通して1番優秀だった男性レフェリーと女性レフェリーに送られるもの、19歳以下の最優秀レフェリー(男女1名ずつ)、ミネソタ州出身の最優秀レフェリー(男女1名ずつ)などがあります。毎朝その日の1試合目が始まる50分前に会議室に集合し、誰がどのフィールドにいるレフェリーを担当するか決めます。同時に50試合が進行していますから、1人で4フィールドから8フィールドを90分以内に見て回ることもありました。もちろん細かいアドバイスや評価はできませんが、この方法をとればそれぞれのレフェリーの弱点や長所を見極め、複数のアセッサーが1人のレフェリーを観察することができます。1日に20名近くのレフェリーを見て、そのパフォーマンスをまとめ、1日に2回、大会本部に提出します。1日の終わりには再度会議室に集まり、その日に目立ったレフェリーをリストアップし、翌日の計画を立てます。朝6:10に集合してから、19:10キックオフの試合が終了して会議に向うと、夜も遅くなっています。1日中フィールドに出向き、ゴルフカートで移動する10日間でした。

 レフェリーも1日に3試合、4試合と行いますし、私たちも休憩時間がほとんどない状況でアセスメントを行いますが、USA Cupの醍醐味は様々な国のレフェリーやアセッサーと意見交換し、知り合いになることです。私は2年前にも参加していましたから、2年ぶりにあう人もたくさんいました。また夜遅くに部屋に戻った後にも、近くのバーやレストランに一緒に繰り出して食事をしたり、ビールを飲んだりもします。他の大会以上にレフェリー間の友好関係が深まる大会でもあります。

 さて、大会最終日の前夜には私たちのアセスメント結果をまとめた賞を送るセレモニーがディナーの時間に行われました。最優秀審判員と19歳以下の最優秀審判員には日本のレフェリーが選ばれました。イングランドでプレミアリーグの1つ下のレベルで審判をしている数名の優秀なレフェリーや、ブラジルのプロリーグを担当しているレフェリーなどがいる中、どちらもアセッサー全員が賛成してスムーズに決まりました。イングランドのアセッサーでさえ、「この2つは自分のところのレフェリーに受賞してもらいたかったけれど、フィールドでのパフォーマンスを見たら、日本のレフェリーに賞を送るしかない」というほど。私にとっても非常に嬉しいひと時でした。

Written by

記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

END