INTERPRETATION

「サンディエゴ日帰りツアー」

木内 裕也

Written from the mitten

先日、カリフォルニア州サンディエゴでNational Council for Black Studies(NCBS)というアフリカ系アメリカ人を対象に研究している学者の集まりが開催されました。私も論文を発表しに参加しました。スケジュールの都合で木曜日の早朝にミシガンを出発し、お昼頃現地に到着、夕方に論文発表をして夜のフライトでミシガンに戻る、という強行軍になりました。翌朝ミシガンに到着し、そのまま学部の授業を3つ教えなければならず、非常に厳しいスケジュールでしたが、つかの間のカリフォルニアを楽しんできました。当日のミシガンは雪。デトロイトの空港へ車で向かっている途中から雪が激しくなり、場合によっては飛行機が飛ばないのではないか、と不安になるほどでした。予想外の降雪で、飛行機の除雪作業にも手間取り、乗り換え地であるダラスへのフライトは大幅に遅れました。ダラスに到着したのは、サンディエゴに向かうフライト出発時刻。偶然にも乗り換え便が機体トラブルで遅延していたため、問題なく乗り込むことができましたが、朝からハラハラする1日となりました。

 ミシガンは雪でも、サンディエゴは晴天。氷点下の世界から突然20度近い気温のカリフォルニアへ向かい、真夏のような暑さに感じました。写真にあるとおり、椰子の木が街中に生え、快晴のサンディエゴ。たった6時間の滞在でしたが、できれば1週間でも滞在してゆっくりと過ごしたくなりました。

 学会での発表は無事に終了。1980年代のケーブルテレビとデトロイトのアフリカ系アメリカ人に関する論文を、合計4名のパネルで発表しました。質疑応答では有意義なディスカッションも行われ、強行軍でもカリフォルニアまで訪れた価値が十分にありました。

NCBSはアフリカ系アメリカ人やアフリカに焦点を当てている学会ですから、必然的に出席者もアフリカ系の人が多くなります。私が他に参加しているアメリカ研究学会などは白人の出席者が多数を占めますが、NCBSでは少数です。アジア系の出席者は数百人の参加者の中で、場合によっては片手で数えられるのではないか、というほど僅か。しかしこのように分野が絞られているだけあり、ディスカッションは「狭く深く」行われます。他に私が参加したパネルでは、ハリケーン後のニューオーリンズを対象にしたパネルもありました。公立学校が閉鎖され、貧困層が非常に厳しい生活を強いられている現実などが再確認されました。またハリケーン前から実はニューオーリンズの教育に問題があった例として、2001年に使われていた社会科の教科書が数十年前に出版されたものの使いまわしのため、大統領が「リチャード・ニクソン」と書かれていた、というエピソードもありました。また公立高校の退学率が70%近くあるというデータも紹介されました。ハリケーン直後にはメディアで取り扱われていたニューオーリンズですが、最近ではそのような取り扱いも限られ、まだ生活に苦しんでいる人がいる現実が忘れかけられています。そんな中、NCBSのような集まりで問題が再認識され、さまざまな対策が講じられているのは数少ない希望の1つであると感じました。

  たった6時間のカリフォルニア滞在の後は、ミシガンへとんぼ返り。デトロイトの空港を出ると寒さが和らいだとはいえ、氷点下の世界が待っていました。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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