INTERPRETATION

「防犯管理」

木内 裕也

Written from the mitten

新しいアパートに引っ越してきて約10日。先週のブログにも書きましたが、次第に部屋の中も整理され、自分のアパート、というイメージが少しずつわいてきました。そんなある日の夜、事件が発生しました。

500ページ近い翻訳プロジェクトの1ページ目訳していた、夜10時ごろのこと。突然アパートのドアを叩く(蹴る)音が5回から7回程しました。ロックをしてあったのでドアは開きませんでしたが、明らかに意図的な行為でした。ドアがガタガタといい、私は非常に不安になりました。昨年の秋には、近所に住む友人宅に銃を持った泥棒が侵入する、という事件もありました。彼は幸運にも危害を与えられることは無く、TVなどの電気製品を盗まれただけでしたが、その記憶もよみがえりました。その後、少し部屋の中で静かに翻訳をし、時間が経ったところで窓から外を確認しました。特に異変は感じられませんでした。30分くらい経過して突然、「部屋の外で人が倒れていたらどうしよう」と思い、ドアを開けて外を確認することに。しかし、なんとドアを叩いた(蹴った)影響でロックが壊れ、鍵が解除されない状況になっていたのです。かつて住んでいたオートロックのアパートでLocked outされたことは何度もありますが、自分のアパートでLocked inされるとは思いもしませんでした。

 そこでCampus Policeと呼ばれる大学の警察とアパートを管理するオフィスに連絡を取りました。両者とも数分以内に訪れ、鍵を解除してくれました。警察の調べでは、ドアに靴底の形跡があることから、ドアが蹴られた可能性が高いこと。また、ドアノブを握ってガタガタと揺らした形跡などが無いことや、部屋の中に人がいたのが明らかであることから、侵入を目的としたものよりイタズラの可能性が高いことがわかりました。夏休みが始まって羽目を外した学生による行為かもしれません。

 直後にアパートに来てくれた警察官は2人組。1人はアジア系の警察官。もう一人は白人でした。前者の警察官が基本的に私とのやり取りを行い、後者の警察官はサポート役に徹していました。Campus Policeに連絡をし、現場に直行する前にこちらの身分を確認しているでしょうから、アジア人に対してはアジア系の警察官とコミュニケーションをとらせるほうが情報の共有が図れる、という考えがあったのかもしれません。実際、ある人種の多く集中している場所には、同じ人種の警察官を配備したほうが治安は守られ、警察に対する信頼があがる、という調査結果もあります。特に白人と黒人のように、残念な過去がある場合、その点は特に重要になります。

 アパートの管理事務所で電話の応対をしてくれたのは、昨年の秋に授業を教えた学生でした。こちらの名前を述べると、すぐに思い出してくれ、迅速に対応してくれました(非常に優秀で、Aをとった数少ない学生です)。その日の夜は応急処置を行い、翌朝にはドアを修繕してくれました。写真にあるとおり、それまではドアに鍵がついているだけでしたが、スリーブと呼ばれる金属のカバーも取り付けてくれました。ドアの安全性が高まるそうです。

 この一件を例にとってアメリカの治安や安全を述べることはできませんが、迅速で効率的な対応を見ていると、「自分で自分の身を守る」というアメリカ社会の姿が垣間見えた気がしました。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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