INTERPRETATION

「ソフトボール大会」

木内 裕也

Written from the mitten

ミシガン州立大学では、博士課程の在籍者を対象としたソフトボールリーグが行われました。野球ファンの友達が構内でパンフレットを見つけ、我々アメリカ研究の学生は英文学専攻の学生と一緒にチームを作り、参加しました。5月中旬から4週間に渡って、週に2試合、熱い(?)戦いが繰り広げられました。アメリカ研究も英文学もMorrill Hallという建物に研究室があることから、Moral Panic(モラルパニック)を文字ってMorrill Panicというチーム名をつけました。参加チームの一覧表を見ると、国際政治学、心理学、哲学などを研究する学生のチームが並んでいました。運動生理学のチームはなんとなく強そうな印象でしたが、「政府からの研究費の大半が流れていく理系には負けられない」とか「一日中試験管を触っている化学専攻のチームには負けないだろう」と比較的楽観視して、シーズンを迎えました。私はボストンに住んでいた事があるため、「ボストンから日本人の野球選手が来た」などというチームプロフィールも作り上げました。しかし私を含め、チームの大半はソフトボールの経験はゼロ。試合の日の朝になって、近所の大きなスーパーにグローブを買いに行くほどでした。

 初戦は心理学専攻のチーム。試合の途中まで健闘しましたが、終わってみれば大きな差をつけられていました。「前回の試合は、心理戦で負けたから仕方ない。今度は勝つぞ」と臨んだ2試合目は物理学のチーム。このチームには、最初から手も出ませんでした。それでも「物理学の知識を利用して、どれくらいの力と角度でボールを打てばいいか、計算して来たに違いない」と慰め合いながら、3試合目の数学チームとの試合に向かいました。しかしこの試合も、4試合目の化学チームにも敗退。開幕4連敗で、「もしかすると相手が強いのではなく、自分達が弱いのではないか?」と気づき始めました。確かに、自分達の攻撃は短いのに、なぜか相手チームの攻撃はなかなか終わらない、ということが多々ありました。結局、8試合を戦って1勝7敗。全敗は免れましたが、当初の予想とは大きく違った結果でした。

 週に2日のペースでしたが、友達と集まる時は図書館か研究室(もしくは近くのバー)ということが多い中で、皆で外に出るのもとてもよい気分転換になりました。パートナーや息子、娘を連れてくる友達もいましたし、アメリカ研究の教授が応援に駆けつけてくれることもありました。そして試合が終わると皆で「反省会」に向かうのは日本もアメリカも変わりません。アメリカ研究の学生が集うPeanut Barrelというバーでは、反省会に向かうたびに「今日は勝った?」と聞かれ、唯一の勝利をしたときには、ウエイトレスも祝杯に参加しました。

 友達と集まると、BBQでも、バーでも、ただ図書館で顔を合わせた時でも、どうしても研究の話が中心になってしまいます。たまにはこのように、普段の生活からは全くはなれた環境で友達と楽しく過ごすのもいいなあ、と強く感じました。次のソフトボールリーグは来年の5月。それまでにアメリカ研究チームはきっと強くなっているはずです。

Written by

記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

END