INTERPRETATION

「アメリカ大統領選挙」

木内 裕也

Written from the mitten

日本でも選挙が話題になり、街中では選挙カーや街頭演説を目にする時期ですが、アメリカでも大統領選挙が大きな話題です。4年に一度の選挙の本番は、まだ来年にならないと始まりませんが、既に候補者を集めてディベートも行われ、CNNが生中継しました。また両党でどの候補者が一番人気であるとか、誰が一番選挙資金を集めたとか、様々なメディアを通して、熱い戦いが繰り広げられています。日本でも話題になるアメリカ大統領選挙ですが、意外とその仕組みは知られていないようです。そこで今回は選挙システムを紹介し、同時に来年の選挙がどの様に行われるかなど、基本的な情報をお伝えしたいと思います。

 そもそもアメリカは二大政党制で、共和党と民主党が存在します。特に規定があるわけでもありませんし、第三政党の大統領候補者も得票しますが、この2つの政党がほとんどの票を得ます。ブッシュ大統領の属する共和党の基本的理念として”equality of opportunity(社会の公正とは平等に機会を与えること)”があります。従って20世紀前半は違いましたが、ここ数十年の傾向として、アフリカ系アメリカ人など社会的弱者からの人気に欠け、富裕層や産業から大きな支持を得ています。民主党は”equality of outcome(社会の公正とは、結果の平等である)”と考え、移民や労働組合などを支持基盤とし、政府の強化を目指します。

 これらの2つの政党がぶつかり合う1つの機会が大統領選挙です。大統領の任期は8年間ですから、確実に2009年1月からは新しい大統領がアメリカを引っ張ります。その大統領が選ばれる選挙戦は、来年の1月に正式にスタートします。それぞれの州で予備選挙と呼ばれる候補者選びが行われます。最終的には夏までに各党の正式な候補者が決定します。そして大統領選挙が11月に行われます。

 今回の選挙では何人かの目玉候補者がいます。共和党では9・11で活躍したジュリアーニ前NY市長がいます。彼の活躍は未だにアメリカ人の心に残っていますが、離婚暦が多い点や、宗教的基盤の弱い点が保守層の支持を得られないのではないか、という推測の原因となっています。他にもロムニー氏というマサチューセッツ州の知事も候補者です。レーガン大統領のように、俳優出身の大統領広報もいます。トンプソン氏はLaw and Orderというアメリカの人気番組に出ている俳優です。民主党ではイリノイ州のオバマ上院議員が初の黒人大統領を目指します。献金の総額では全候補者中トップです。インターネットを利用した草の根の活動が強みです。またヒラリー・クリントン上院議員(NY州)が人気の点ではオバマ氏を抜いています。しかしオバマ氏を嫌がる国民が少ないのに対し、クリントン候補は国民の好き嫌いがはっきりしているのが弱点とも言われます。また、ゴア前副大統領が土壇場で出馬表明するのでは、という憶測も消えません。

 今回の選挙の焦点は、特に民主党のオバマ対クリントンです。どちらが選ばれても、アメリカにとっては初の黒人大統領か、初の女性大統領。このように歴史の新しい1ページを作る準備がアメリカに出来ているのか、興味深いところです。表面上は平等を理想とするアメリカですが、未だに非白人も女性も差別を受けています。昔のように明らかな差別が行われない代わりに、社会システムの一部として今では差別が存在し、その結果として差別している人も、されている人もその事実に気づくことが出来ない、という状態にあります。大統領が生まれたからといって、大きく変化が起こるとは思えませんが、前進の1歩となるはずです。

 まだ予備選挙まで約半年、本選挙まで一年以上あるので、それぞれの候補者が慎重に活動をしています。ジュリアーニ氏のように、既に様々な政策を明確に表明している人もいますが、オバマ氏もクリントン氏も直接の対決を避けている様相があります。そのため、国内のニュースではいつどちらかの候補がアクションを取るのか、様々な予想がされています。また、今回の選挙では選挙人の数で重要な州で短期間に予備選挙が行われます。そのため、大量の選挙資金を集め、一気に投資することも必要です。従って現状では人気の点で勝るクリントン氏と、財政面で優れたオバマ氏の争いも興味深いことろです。

 今週の写真は、アメリカの議会とホワイトハウスの写真です。それぞれ、正面と裏から写真を撮ってみました。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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