INTERPRETATION

第687回 お悩みQ&A

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

新年度開始から早2カ月。夏休みまであと数週間ですよね。6月は国民の祝日も無く、寒暖差や湿気・梅雨もあり、体調もイマイチになりがち。そのような中、学習相談も増えています。そこで今回は「お悩みQ&A」と題して、通訳や学習に関するご相談を見ていきましょう。

1 どのようにすれば単語力がアップしますか?

日英・英日の通訳をする上でカギを握るのが単語力。いくら聞き取れても、目的言語にできなければ通訳は務まりませんよね。となると業務に備えて単語力を増強する必要があります。私の場合、通訳依頼があった瞬間から単語リスト作成を始めます。最近はAIで関連単語リストも作ってもらえるそうですが、私は今なお自分で考えたい派。よって、手渡された資料や文献を通じて自分なりの単語リストを作っていきます。

一方、日常生活でも単語を増やすことは大いに可能です。それこそ街中を歩きながら目にする単語をすべて日本語・英語で口にしてみるのです。たとえば「傘をさす」を瞬時に英訳するとどうでしょうか?「さす」にとらわれて言葉に詰まってしまいませんか?この場合、「傘をさす→傘を開く→open an umbrella」で良いわけです。あるいはuse an umbrellaでも構いませんよね。目の前のことばに左右されず、まずは日本語を別の日本語に脳内変換してみると、結構訳すことができます。

2 朝型にするにはどうすればよいでしょうか?

確かに朝型の効用は色々と言われていますよね。「頭が冴えている、周りが静かなので集中できる」などなどです。でも、「そのような利点を謳う人自身が朝型であるに過ぎない」と考えれば、別にそれに左右されなくても良いのではというのが私の意見です。つまり、自分自身が元々夜型で、その方がはるかに集中できるなら、それでも構わないと思うのです。夜は夜で静かですし、文筆業の方で完全に夜型という人は結構います。なので、あまり世間の価値観に縛られなくても良いと思います。

ただ、それでも朝型にしたいというのであれば、まずは「早寝」よりも「早起き」をしてみるのがオススメ。数日続けていると夜に眠くなるようになり、自然と早寝の習慣になります。私はこの方法で朝型になりました。

3 通訳現場で失敗したことはありますか?

ハイ、あります!あまり声を大にすることはできませんが、勘違いから来る誤訳や言い間違いなど数知れません。ただ、大事なのは失敗に気づいたらなるべく早く修正すること。同時通訳中であれば早めに言い直す、逐次通訳であれば「先ほど○○と訳しましたが、正しくは△△です」など正直に言います。言い間違いも同様です。

あとは再発防止策を考えること。誤訳の理由は色々ありますが、私の場合、脳内疲労ゆえということも少なくありません。よって、睡眠をたっぷりとって当日に備えるのが先決となります。一方、言い間違いに関しては、その単語が自分にとってカミカミになりやすい語であったりもします。よって、別の表現で訳せるならそれを考えて、メモしておきます。

 

いかがでしたか?今週は代表的なご質問を3つ取り上げてみました。読者のみなさまで何かご不明点やモヤモヤなどありましたら、ぜひハイキャリア経由でお寄せ下さいね。本コラムでお答えしてまいります!

(2025年6月24日)

【今週の一冊】

「はじめてのヘリテージ建築 絵で読む『生きた名建築』の魅力」宮沢洋著、日経BP社、2023年

建築関連の本は世に沢山出ています。数か月前、乃木坂にあるTOTOギャラリーを訪ねた際、ショップにはテーマ書籍が多数。建築好きにはたまりません。

今回ご紹介するのは建築関連の絵を多数描いておられる宮沢洋さんの一冊。宮沢さんはもともと日経BPの社員だったのですが、2020年に独立されています。本書の帯に「“古い”って面白い!」とある通り、建築というのは古いものほど味わい深いと私も思います。

さて、「ヘリテージ建築」という言葉ですが、heritageはWorld Heritage (世界遺産)でもおなじみですよね。一方、宮沢さんの「ヘリテージ建築」の定義は、

「完成から長きにわたって人々に愛され、今も心地よく使われている建築物。築年数にかかわらず、利用者の記憶を継承し、つくり手の思いや業績を伝えるもの。」 (p2)

とのこと。なるほど、今なお使い続けられているというのが大事なのですね。

本書の中でも印象的だったのが、名古屋テレビ塔。随分前に見学したことはあるのですが、2020年に改修されてホテルがタワーの中にできていました!部屋の中に鉄塔の柱がむき出しで存在しているのが何とも味わい深いです。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者、獨協大学および通訳スクール講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2024年米大統領選では大統領討論会、トランプ氏勝利宣言、ハリス氏敗北宣言、トランプ大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラム執筆にも従事。

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