第93回 世界経済フォーラムのレポート③
こんにちは。今回も「世界経済フォーラム(WEF)」が2025年1月に発行した世界経済の最新見通し「Chief Economists Outlook: January 2025」から取り上げます。原文はこちらからダウンロードできます。英語自体は簡単ですが、案外訳しにくいので、翻訳初心者の方もぜひチャレンジしてみてください。
前回の段落から少し進んで、欧州の経済状態について説明している部分から取り上げます。
【本日の課題】
In a September report, Mario Draghi, the former Italian prime minister and governor of the European Central Bank, spotlighted Europe’s economic challenges. Sounding an alarm for the region’s economic prospects, his report warned that annual investment equivalent to 5% of GDP would be required to revive its economic dynamism.
今回も個別に取り上げるべき英語表現はなさそうなので、意味を理解した上で、どう自然な日本語にするかを主に検討します。まずは直訳してみます。
【直訳】
9月のレポートで、前のイタリア首相であり欧州中央銀行(ECB)の総裁であったマリオ・ドラギは、欧州の経済的な課題を目立たせた。地域の経済見通しについて警告を発しつつ、彼のレポートは、国内総生産(GDP)の5%に相当する年間投資が、経済ダイナミズムを復活させるために必要となるだろう、と警告した。
●a September report
今回は単に「レポート」で済ませますが、翻訳の依頼元によっては、このa reportが何を指しているのかを調査し、固有名詞を入れるべき場合もあります。
●Mario Draghi, the former Italian prime minister and governor of the European Central Bank
ドラギ氏は2019年11月にECB総裁を辞任しており、formerはgovernorにもかかっているので注意。自分の頭の中にその情報が入っていればいいのですが、入っていない場合は、formerがgovernorにもかかるかどうか、調査が必要です。
●Sounding an alarm for the region’s economic prospects, his report warned that…..
sound an alarmとwarnはどちらも「警告する」ですけれども、当然ながら日本語では訳し分けるようにしましょう。ここは単に「強く言った」「注意を促した」という意味合いでしょうから、「警告」にこだわる必要はないように思います。
英語通りの「彼のレポートは、~と警告した」よりは、当然ながら「彼はレポートで、~と警告した」の方が自然です。
●annual investment equivalent to 5% of GDP would be required…
「GDP5%相当の年間投資が必要だろう」とするよりは、「一年間にGDP5%相当の投資が必要だろう」の方が日本語としては自然です。小さなことですが、こういった工夫の積み重ねが読みやすい訳文につながります。
さて、それでは「である」調で訳してみましょう。
【本日の課題】(再掲)
In a September report, Mario Draghi, the former Italian prime minister and governor of the European Central Bank, spotlighted Europe’s economic challenges. Sounding an alarm for the region’s economic prospects, his report warned that annual investment equivalent to 5% of GDP would be required to revive its economic dynamism.
【試訳】
イタリアの元首相で、欧州中央銀行(ECB)の総裁でもあったマリオ・ドラギ氏は9月のレポートで、欧州経済の課題について取り上げた。地域の経済見通しに警告を発し、域内経済のダイナミズム復活には年間で対GDP比5%相当の投資を行う必要があると強調した。
※どちらも主語がドラギ氏なので、2文を合わせて1文にしてしまうか、あるいは上記のように2文目には入れない方が良さそうです。誤解を招く状態はまずいですが、主語なしで通用しそうなら、日本語ではなるべくない方が自然に響きます(ただしクライアントから、必ず主語は入れてくれ、と頼まれることもあります。それはそれで楽なのですが(笑))。