第330回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート74
今回登場するのは、現役医師のYさんです。久々のご登場となるYさんですが、実は、ここまでの間にアメリカ留学をし、有名大学院を修了し、現地のアカデミアでのお仕事を獲得されました。
もともとYさんがこの企画に参加されたのも、留学の準備で語学書を探しに書店に出かけ、その棚の近くで拙著『翻訳家になるための7つのステップ』を見つけたことがきっかけでした。その当時からの夢を、順調に叶えていらっしゃるんですね。
お仕事で忙しい日々を続けながらも、持ち込みのほうも長期戦でアプローチを続けています。編集者さんにも留学が決まったことや渡米後のアメリカの様子をお伝えし、一時帰国の際にお会いするなど、関係性が続いているのです。
そんな中、Yさんからご相談がありました。なんと、自著の出版についてのご相談です。自著を出版すれば、出版実績ができる。一冊の本を出すということがどれほど大変かも実感できるし、やり通せる人だと編集者さんにもわかってもらえる。そうすれば、翻訳書の企画持ち込みにもプラスになる……そう考えたうえで、自著を出したいというのです。
第19回 7つの魔法⑥~実績をつくるでお伝えしていたように、基本的には翻訳での実績をつくることを想定していました。だけど今回のYさんのご提案を受けて、なるほど、専門知識のほうで実績をつくる延長上に、出版という選択肢もあるな、と思いました。
もちろん、これはYさんに医師としての専門知識や実績があるからできることですし、誰もが簡単に真似できることではないでしょう。むしろ、翻訳書の出版よりもハードルが高いかもしれません。でも、本人は意識していないけれど、人から見たら驚くようなコンテンツを持っていることって、結構あるものなんですよね。「自分には到底無理!」という方ほど、実際には可能性があるのではと思います。考えたことがなかったという方も、これをきっかけに意識してみてくださいね。
さて、Yさんはすでに自著の企画書も用意していました。概要だけでなく、各章の詳細な目次もあり、すぐにでも書き始められる状態になっています。拝見した印象としては、専門書か、硬派な新書で、読みこなせる人が限られるようです。読者層として思い浮かんだのが、たとえば新聞社の論説委員をされているような方、あるいは社会課題への関心が高い若手ビジネスパーソンです。
だけどYさんとしては、広く一般に読んでもらいたい本とのこと。そこで、内容を変更できないかを考えました。
本書はYさんの専門分野についての書籍で、6章プラス特別章で構成されています。そのうち、第6章ではアメリカの現代の問題、特別章ではウクライナやガザの問題に触れています。この2章は、一般読者の目にも留まりやすい内容です。Yさんとしては、これらの章はむしろ専門外の分野になるものの、一般向けにアピールすることを意識して入れたそうです。せっかくなら最後よりも冒頭に持ってくるほうが読者の関心を引きますし、企画を出す時にもインパクトがあるので、章構成を変更したほうがいいことをお伝えしました。また、編集者さんの意向次第では、この2章をメインにして書くことも可能だと提案するのもいいでしょう。
YさんとZOOMでお話する中で印象的だったのは、本書を書きたいと思ったきっかけです。医学部にいた当時、本書のテーマがよくニュースで取り上げられていたのですが、Yさんにはわからなかったと言います。周囲の医学部生もわかっていませんでした。それが今、「当時の自分に、こういうふうに教えたらわかる」ということがつかめたのです。「ここがわかると、途端にわかるようになる」というポイントも把握していますし、わかりにくい点も噛み砕いて教えることができます。そういう本があれば、かつての自分のような人がとても助かるのではないかと思ったそうです。そんな「かつての自分に届ける本」なら、ニーズも見えていますし、書き甲斐もありますよね。自分の原点に立ち戻る試みとも言えるでしょう。
Yさんは編集者さんから、「もし、医療に関する本を書きたいという意思があるならご相談ください」と言われたことがあるそうです。医療に関する本と言っても、編集者さんが想定していたのは、「○○を食べれば元気になる!」という類の健康本かもしれませんし、Yさんが今回考えているものとはかなり違うかもしれません。でも、まずは面識のある編集者さんに見ていただくのがいいですし、自著の持ち込みを通して、翻訳書の持ち込み企画への熱意もお伝えすることができるでしょう。
まずは企画書を修正したうえで、編集者さんに連絡を取ることになりました。また進捗をレポートしますね!
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