第273回 子どもと遊んでいるときに思い出す詩
フォトグラファーとして、お子さん連れのご家族のファミリーフォトを撮ることがよくあります。
キャッキャとじゃれ合う様子を写真に収めながら、本当に貴重な瞬間に自分は立ち会っているのだという感慨があります。
一瞬で過ぎ去って行ってしまう子ども時代。その儚さを描いた詩を思い出します。
子どもと一緒に焚き火を囲んでいる様子をイメージして読んでみてください。
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Firelight
Katherine Mansfield
Playing in the fire and twilight together,
My little son and I,
Suddenly–woefully–I stoop to catch him.
“Try, mother, try!”
Old Nurse Silence lifts a silent finger:
“Hush! cease your play!”
What happened? What in that tiny moment
Flew away?
*****
焚き火
キャサリン・マンスフィールド
焚き火を囲んで 夕暮れどきを味わう
息子とわたし
急に寂しさに襲われて 息子を抱きしめようと屈んだ
「捕まえてごらん、お母さん!」
子守り人のような「沈黙」がシーッと指を立てた
「シーッ!遊びはもうおしまい!」
何が起きたのだろう?その瞬間に
何が消え去って行ったのだろう?
*****
子どもはどんどん大きく成長していくので、無邪気に一緒に遊ぶことはすぐにできなくなってしまう。だから子どもと焚き火を囲んで過ごすようなありふれた時間は、貴重なのだ。これは切ないですねえ!
Playing in the fire and twilight together,
My little son and I,
Suddenly–woefully–I stoop to catch him.
“Try, mother, try!”
焚き火を囲んで 夕暮れどきを味わう
息子とわたし
急に寂しさに襲われて 息子を抱きしめようと屈んだ
「捕まえてごらん、お母さん!」
まず、焚き火というシチュエーションがすでに切ないですよね。
夜、周りは暗く、焚き火の明かりだけが顔を照らす。火にあたりながら、心と身体の距離が近く、親子だけの静かで濃密な時間が過ぎる。
子どもと過ごすこんなに温かく濃い時間はすごく貴重なんだ。そう思った瞬間、寂しさに襲われて、子どもを抱きしめたくなる。
子どもは無邪気なので「捕まえてごらん!」とはしゃぐ。これが一層寂しさを掻き立てるんですよねえ!
Old Nurse Silence lifts a silent finger:
“Hush! cease your play!”
What happened? What in that tiny moment
Flew away?
子守り人のような「沈黙」がシーッと指を立てた
「シーッ!遊びはもうおしまい!」
何が起きたのだろう?その瞬間に
何が消え去って行ったのだろう?
子どもはキャッキャと無邪気にはしゃいでいるけれど、自分は、一瞬、時が止まったかのように考えてしまう。
この時間は永遠じゃないんだ。子どもと過ごすこの無垢の時間は終わってしまうんだ。
そんなことを一瞬考えて、我に返る。一番幸せな瞬間に訪れた一番寂しい気づき。
焚き火という瞬間に限らず、日常のふとした瞬間に、時が過ぎる速さとその大切さに気づかされるんですよね。
ベッドでお休みの絵本を読んでいるとき、子どもの服を畳んでいるとき、子どもの写真を整理しているとき。
お子さんをお持ちの方は、これは涙なしには読めないのではないでしょうか。
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今回の訳のポイント
子どもと過ごす温かくも貴重な時間。それには終わりがあると気づいた寂しさ。
焚き火という、これまた絶妙にじ~んと来るシチュエーションを使って、その切なさを描いたこの詩。最大のポイントは、謎めいた後半部分にあります。
Old Nurse Silence lifts a silent finger:
“Hush! cease your play!”
What happened? What in that tiny moment
Flew away?
子守り人のような「沈黙」がシーッと指を立てた
「シーッ!遊びはもうおしまい!」
何が起きたのだろう?その瞬間に
何が消え去って行ったのだろう?
英語として、Silence 「沈黙」が大文字になっていて、沈黙というものを擬人化しています。
子どもと過ごす時間は永遠でない。そう考えた一瞬の間の「沈黙」が、Old Nurse「子守り人」のように「遊びはもうおしまいよ!」と語りかけてきます。
「きらきら星」や「メリーさんの羊」などの歌を含む『マザーグース』という英語の有名な童謡集がありますが、もともとは Nursery Rhymes 「韻を踏んだ子守歌」と呼ばれています。このように、Nurse というのは、看護師というよりも子守りのイメージです。
自分自身もフォトグラファーとして、ファミリーフォトを撮っていると、このような切なさを毎回感じます。
自分のテイストとして、はいチーズ!と言って撮るような記念写真というよりは、親子一緒に転げ回って遊ぶ一部始終を撮ることが多いです。
何でもない日常のありふれた瞬間の大切さと美しさと切なさを、この詩のように感じてしまうからかもしれません。