INTERPRETATION

「オバマ大統領」

木内 裕也

Written from the mitten

 オバマ大統領就任から数週間が経ち、一時期ほど彼の話題で持ちきり、ということはなくなりましたが、また就任後100日に近づくと、また彼に関する報道が増えることと思われます。やや加熱した報道が一段落したところで、アメリカの姿を見て私が感じるところを少し書きたいと思います。

 

 まずはオバマ大統領に対する期待。「変化」や「希望」をキーワードに見事勝利を収め、その期待にこたえられるか、など批判がなされていますが、私は抽象的なイメージを作り上げれば大統領にもなることができるアメリカという国と、それを可能にする国民の様子を改めて目にして、感覚的な魅力に弱い国民性を再確認させられた気がしました。インターネット社会などもそうですが、アメリカで非常に人気の仮想現実は、まさに感覚に訴えるもので、大衆がそれに熱狂し、流される、ということがアメリカの歴史では繰り返されてきました(ウッドストックもある意味では仮想現実と言えたでしょう)。もちろん彼の勝因には、それ以外の部分もたくさんありますが、「オバマ大統領が期待にこたえられるか」だけではなく、「期待感だけで4年間の大統領任期を与えるアメリカ国民の心理は何か」も考える必要があるでしょう。

 国民の心理を考えることの重要性は、国民がオバマ大統領のパフォーマンスを正確に判断できるかを評価するうえで重要です。期待が大きければ、失望が大きいのは確かです。しかし漠然とした期待感しか持たずに大統領を選んだということは、明確な評価基準が定められていないということでもあります。「経済をよくして欲しい」というのは明確な基準ではありません。同時に、熱狂していた国民はオバマ大統領の政策を十分に理解していなかったとも思われます。先日米軍の増兵を決めたオバマ大統領に対し、落胆の様子がアメリカの中に見えました。しかしオバマ氏はずっと「アフガニスタンには増兵する」と言っていました。オバマ候補(当時)の声にどれだけ国民が耳を傾けていたのか、疑問です。

 問題だけではなく、明るい点もあります。草の根のつながりが希薄になっているアメリカで、オバマ陣営は人と人のつながりを協調しました。地元のコミュニティーで人々が集まって選挙活動をする姿がよく見られました。11月の上旬に選挙が終わると、そのつながりが薄れた感じもありましたが、1月の就任式典にあれだけの人が集まったのは、やはりつながりを求める人が多いからでしょう。社会を変えるためのボトムアップの運動を引き起こすのには非常に有効な土台が生まれたのではないでしょうか。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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