INTERPRETATION

生活の中での触れ合い

木内裕也

Written from the mitten

 アメリカ研究をテーマとして研究を行いアメリカに関する様々な知識を身につけると、日本との違いに良く気づきます。しかし先日アメリカに来た母のように、アメリカに久しぶりに訪れたり、初めて訪れた人こそ、ふと気づく日米間の違いもあります。そこに生活している人が当たり前と感じ、深く考えることの無い日常の出来事に、実は日本社会やアメリカ社会の面白い特徴が隠れています。

 アメリカに来た母が私に言ったことの1つに、店員さんとのコミュニケーションがありました。近所のスーパーや、コーヒー屋などあちらこちらに行きましたが、どこでもちょっとした会話を交わし、場合によっては数分間の会話になることもあります。こちらも店員さんの名前を知っていますし、店員さんもこちらの名前を知っています。

 近所にあるL&Lというスーパーに行くと、ChrissyやAshleyという名前の店員さんがいます。私が買い物に行く時間は大体決まっているので、彼女たちが働いている時間と丁度合っているのでしょう。Chrissyはミシガン州立大学でファッションデザインを勉強し、この夏休みも授業を取っていると言っていました。よく行くコーヒー屋では、Keegan、Amanda、Sheena、Joe、Theresaなどという人が働いています。Keeganはこの夏に大学を卒業し、将来的には自分の母親が経営しているコーヒー屋をシカゴにも展開したいと考えているようです。いつも髪を切ってくれるのはAshley。第2子を妊娠中で、将来はフロリダ州に引っ越したいといっていました。

 相手側もこちらのことを良く知っています。クリーニング屋に行けば、「お母さんはアメリカの滞在を楽しんだ?」と聞かれ、宅急便の人には「お母さんによろしくね」と声を掛けられます。機会はありませんでしたが、宅急便の人とは時間があれば母が滞在中に一緒に食事に行こう、という話もありました。

 そもそも店員さんとの関係は、スーパーであれば支払いをして商品をもらった段階でその目的が完結します。しかしこのコミュニケーションモデルは、お互いを人としてではなく、「店員」「客」という役割で扱っているという風にも考えられます。相手が「客」であれば、その相手の要求を満たしさえすれば、関係は完結するわけです。しかし相手を1人の個人として考えれば、友達と話をする時のように、「最近調子はどう?」といった風な会話が始まるでしょう。スーパーであれば、「この魚、どうやって料理するとおいしいの?」と店員さんに聞かれることもあります。もちろん、それが面倒くさいと感じる人もいるでしょうが、私はそんな風なコミュニケーションが気に入っています。

 その反面、店員さんの機嫌が悪いと、時にはそれがこちらに伝わってくることもあります。しかしこちらを気に掛けてくれるときは、マニュアルにあるから表面上を取り繕っているのではなく、本当にこちらを気にしてくれているからです。なかなか日本では体験のできない触れ合いではないでしょうか。

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記事を書いた人

木内裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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