INTERPRETATION

道具にこだわる

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 通訳者にとって、現場でなくてはならないものといえば、資料、電子辞書、筆記用具、メモ用紙といったところでしょう。他にも水、栄養補給のためのチョコレート、携帯電話、タイマーなどいろいろなものが挙げられます。自分が使いなれた道具を持ち込めば、あわてたり焦ったりせずに済みますので、どの通訳者もこだわりの一品を持っているはずです。

 私はビジネスバッグ、手帳や化粧ポーチを入れるバッグ、ペンや手帳など、お気に入りのものに行き着くまでずいぶん時間がかかりました。今なお、「もっと使いやすいものはないだろうか?」と考えています。良かれと思って購入しても、使っているうちに「ここがこうだったら、うんと使いやすくなるだろうな」と考えてみるのです。このようにして、次回購入の際には自分が求めている特徴が具体化され、買い物がしやすくなるよう、心がけています。機能面を重視するので、衝動買いはほとんどせず、なるべく妥協しないでとことん探すほうです。

 さて、最近私が見つけたお気に入りのアイテムをご紹介しましょう。

 まず筆頭に挙げられるのが「筆記用具」です。私が使っているのは、ゼブラのSARASA 3-Sという三色ボールペン+シャープペンシルです。価格はわずか600円ですが、大いに気に入っています。というのも、芯が透明なのでインキの残量がわかり、通訳現場でも「もうすぐインキが切れるな、そろそろ新しいのが必要だな」と心構えができるからです。以前、中身の見えないボールペンを使っていた際、突然インキ切れを起こして焦ってしまい、通訳内容を忘れてしまうというハプニングがありました。以来、筆記用具は「中身が見えるもの」というのが私のこだわりです。さらに、このアイテムの優れている点は、3色備わっているので、一色が切れても別の色をすぐに使えるということです。また、本体が太いので握りやすく、インキ自体もジェル状なので力を入れずに書くことができます。私は筆圧が強く、ペンを握るだけで疲れてしまうので、こうしたタイプはとても助かっています。ちなみに私は新しくペンを購入する際は、一緒に替え芯も一式買うようにしています。

 もうひとつのこだわりアイテム。それはトートバッグです。現在はこれをビジネスバッグとして使っています。これまで私は多種多様のビジネスバッグを使い、通訳用資料の重みで消耗しては買い換えるということを繰り返してきました。ただ、どんなに本体が軽いビジネスバッグでも、大量の資料を入れればやはり重くなってしまうのです。しかも私はいつも右手にビジネスバッグを持つため、常に右肩の筋肉痛に悩まされていました。そこでようやく落ち着いたのが、「底のマチが厚いトートバッグ」です。子育て中のお母さんが使う「マザーズバッグ」のようなタイプなのですが、これが実に優れモノで、とにかくたくさん入る、しかも肩にかけられるので肩と腕でしっかり重みを支えられるという長所があります。おかげで大量に物を入れても重くならず、お弁当を入れても崩れないので今はこのバッグが手放せません。ちなみに色は黒なので、ビジネスシーンでも違和感なく使えています。

 最後にご紹介する一品。それはステンレス製30センチの物差しです。ジャーナリストの千葉敦子氏や、「読書は1冊のノートにまとめなさい」の奥野宣之氏がステンレス製の定規を勧めており、ようやく私も最近購入しました。それまではプラスチックの物差しを使っていたのですが、ステンレス製に換えたことで、時間の短縮につながっています。というのも、ステンレスは重みがあるため、線を引く際に紙の上でブワブワと浮き上がらないのです。また、新聞記事を切り抜く際も、ステンレス製なら記事の横にあててピッと破るだけで、実にきれいに切り取ることができます。「たかが定規」と私は思っていましたが、今はあえて買いかえてよかったと思っています。

 自分にとって使いやすいものというのは、必ずしも高額なものである必要はないと思います。むしろ自分がそのアイテムを使うことで幸せな気分になることの方が大切だと思うのです。使っていて幸せになれれば、自信も出てきます。みなさんもぜひお気に入りの一品を見つけてみてくださいね。

 (2009年1月26日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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