INTERPRETATION

この夏の反省

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 子どもたちの夏休みも今週いっぱいで終わりです。今年の夏は息子にとって入学後初めての夏休み。娘はあと2年間幼稚園に通いますが、親子で出かけられるのも今のうち。そう思って今年はできる限り一緒に色々体験しようと計画を組みました。

 まずは毎年恒例の鳥取旅行。親戚がいるので、年に一回は出かけています。今年はインターネットで見つけた農家ステイも体験しました。8人家族のお宅に滞在し、子どもたちはそこのお嬢さんと仲良くなり、子どもたちなりの世界ができたのです。畑でとれたての野菜をいただいたり、お料理のお手伝いをしたりと、家族の一員として温かく迎えていただき、とても楽しい滞在でした。

 他にも初めてのキャンプ、帰省、そして夫の運動合宿に家族で付き添うなど、子どもたちにも私にとっても盛りだくさんでした。私自身、家にいるとどうしても仕事モードになってしまうので、物理的にメールやインターネットから解放され、新聞も読まずに過ごせたのは大いにリフレッシュできました。

 とは言うものの、今年は4月以降とても慌ただしく、すべてギリギリ状態で仕事が進んできました。そんな中、そのまま夏休みに突入してしまったのも事実です。今回、オフの取り方で大いに反省すべき点がありました。

 まず大切なのは、「勇気を持って休む」ということです。私が通うスポーツクラブでは店内アナウンスでこんなメッセージが時々流れます。

 「体調が悪かったり、気分がすぐれなかったりするときは、無理をせず、勇気を持って運動を休みましょう。」

 これは通訳業にもまさに当てはまります。というのも、私のようにフリーランスだと、基本的にスケジュールが空いていて、自分で対応できる内容であれば、仕事の依頼はすべて受けます。特に自分がやりたかった内容だったり、新しい依頼主であったりすれば、せっかくのチャンスなのでぜひ受けようと思うのです。「仕事を断ってしまうと、依頼が来なくなるのでは?」という潜在的な恐怖心ももちろんあります。

 しかし今年の夏の私の稼働傾向は、「旅行前日まで仕事→当日朝にメモを見ながらダーッと荷物をそろえて慌ただしく出発→帰宅すると郵便・新聞がてんこ盛り→パソコンを開けば大量のメール、でもその大半は迷惑メール→翌日からまた仕事」という具合だったのです。

 これがもっとひどいときは、「出発日の午前中まで仕事→午後発のフライトで目的地へ」などということもありました。これは極端ですが、むしろ私自身反省しようと思ったのは、「旅行から帰宅した翌日は調整日にあてる」ということでした。

 というのも、たまっていた大量の新聞・郵便物やメールに目を通すだけで、かなり時間がかかるからです。しばらく留守にしていたので、家の中もホコリだらけです。旅行の疲れも出ています。そうした状況を回復する一日があれば、かなり立て直しができますし、むしろ立て直してから次の仕事を頑張った方が、精神衛生上も良いでしょう。

 ドイツ人は毎年4週間休暇をとるとも言われています。最初の一週間は肉体疲労の回復にあて、次の2週間はバカンス、そして最後の一週間を立て直しにあてて、再び仕事に精を出すのだそうです。私の場合、さすがに4週間も休むのはむずかしいですが、これからは少なくとも勇気を持って旅行翌日は「回復デー」にあてようと思っています。

(2008年8月25日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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