INTERPRETATION

効率的な学習法とは

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 通訳学校などで指導していて思うのは、「どのような勉強をしたら通訳者になれるのか」と悩んでいる方が多いという点です。世の中には勉強法に関する書籍もたくさんあり、グーグルで「通訳 勉強法」と検索すれば山のように出てくるのですが、やはり学習者というのはそれでもなお、直接の体験談や効果的・効率的な学習法を追い求めているのだろうなと私は感じます。

 結論から言うと、「これさえやれば飛躍的に実力が上がる」という勉強法は、残念ながら存在しないのが実情です。オリンピック選手が地道な筋トレや練習を積み重ねてメダルを獲得するのと同様に、通訳者というのも一朝一夕にしてプロになれるわけではありません。やはり、毎日毎日コツコツと作業を続けること。これが結局は一番の近道なのです。実際、現役で活躍している通訳者のみなさんは、そうした地道な作業をいとわないどころか、むしろそれに喜びを見出しながら、日々訓練に携わっているとさえ思います。表からは決して見えない、こうした地味な作業の中にモチベーションを見つけ出せるかどうか。それがプロとして問われることだと私は考えます。

 では、限られた時間の中、どのようにすればより効率的な学習ができるでしょうか?私は主に以下の三つに集約してみました。

 まずは、与えられた状況を最大限活用することです。たとえば通訳学校で学んでいるのであれば、授業をフルに利用するのです。講師がコメントしたことや参考になりそうなことはすぐにメモする、クラスメートの訳文がすばらしければ、それを次は自分が応用してみる、不明な単語が出てきたらすぐに辞書で調べるといった作業です。クラスメートが訳しているときも、自分は小声で訳文を唱えたりするのも効果的です。要はこうして自発的に手や口・耳などの五感を使うことが肝心だと言えるでしょう。講師というのは、生徒の目の輝きを見ればその真剣度がすぐにわかります。「この人は本気で通訳者になろうとしているな」ということが即時に感じ取れるのです。本当に伸びたいと思っている人は、それぐらい授業においては積極的に臨んでいます。

 効率的な学習法2点目。それは、すべてを勉強に結びつけるということです。たとえば読書をする際もただ漫然と読むのではなく、目的意識やテーマを持って読んでみるのです。私は今年200冊の本を読むという目標を立てたのですが、一冊をじっくり読むというよりは、かなりの乱読です。その代わり、「こういう情報を得たい」という気持ちを抱きながら読み進めるので、必要と思える部分の活字はすぐに目に入ってくるのです。その本に参考文献が紹介されていれば、すぐに入手し、知識を深めるようにしています。こうして読書と知識力増強を結びつけたいと考えています。

 最後に挙げたいのは、最優先課題からすぐに取り組むという点です。たとえば私の場合、9時に就寝し、毎朝4時に起床しているのですが、家族が起きだすまでの2時間が私の勉強時間です。起きてすぐにでも本当はメールをチェックしたり、ネットのニュースを読んだりしたいのですが、どうしても急ぎの仕事があれば、メールやネットはあえて開かず、その仕事をまずは終了するようにしています。手帳を見て、締め切りが迫っている原稿や、目前の通訳や授業準備こそ、今やるべきことなのです。もちろん私も人間ですから、気分がどうしても乗らず、「やりやすい仕事・楽な作業」から取り組みたいという気持ちはあります。「やっぱりメールのチェックの方が大事」と思うこともしばしです。けれども、結局あとで自分が苦しむことになるので、とにかく順番どおりにこなすしかないと最近は思うようになっています。これは仕事にしても、苦手分野の勉強にしても、同じように当てはまると思います。

 人間というのは、ややもすると「楽な方へ、楽な方へ」と向かってしまいます。そういう習性である以上、それは仕方ないことでもあり、それが原因で自分を責めることでもないのでしょう。むしろ、目の前のことを淡々と一つずつこなしていくこと。そういう地道なステップをいとわない人間になりたいと私は思っています。

  (2009年2月23日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学非常勤講師。 上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。 ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。 ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。

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