INTERPRETATION

少し一段落

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 前回のコラムで、目が回るような日々が続いていると書きました。スケジュールを十分管理しない中、仕事を受けてしまったり、得意分野ではないのにやろうと決めてしまったりと、私なりの反省点も見つけることができたので、こうした基準は今後の仕事をする上で、大いに指針となりそうです。

 しかしその一方で、「そもそもどうしてこんなに忙しく感じるのだろう?」という疑問も出てきました。いろいろ考えてみた結果、「忙しさ」は「内的な理由」と「外的な理由」から成っていると思い至ったのです。具体的に見てみましょう。

 まず「内的な理由」としては、忙しくなるとすぐ舞い上がってしまうことが挙げられます。冷静に対処すればスムーズに事が運ぶはずなのに、「わー、あれもやらなきゃ!これもまだ残ってる!」と本人が勝手にヒートアップしてしまうケースです。そういう心理状態になってしまうと、新しい業務が発生するたびに、まるで自分がどんどん追い込まれていくように思えてしまうのです。するとますます「自分ができていないこと」に目がいってしまいます。たとえば私の場合、仕事で忙しくなればなるほど、家の中の汚れが気になってきます。「ホコリがたまってるなー、換気扇も洗わなきゃ」という具合です。本来であれば、仕事そのものに集中すべきなのに、自分の心の中で追加の仕事をさらに生み出してしまうのです。

 一方、「外的な理由」は、自分の考え方や作業の進め方とはまったく別のところで発生します。たとえば「学期末試験の実施、採点および成績表つけ」などは、通常の指導に追加される業務です。あるいは、「4月から誌面を刷新するので、今までとは違った書式で原稿執筆をお願いします」と出版社が言ってくれば、これまでとは異なる書式をまずは覚えなければなりません。つまり、「今まで慣れ親しんできたやり方とは違うことが発生する・あるいは追加でやらなければならない」というのが忙しさの「外的理由」です。

 こうした観点からとらえると、忙しくなってしまったことにパニックしても仕方ないのかもしれません。新しい方法を覚えるには時間がかかるので、最初から完璧にやろうと言うよりは、どうやってしっかりと仕事を覚えていくかに集中した方が効率的です。また、「わあ!仕事がいっぱい!どうしよう!?」と思いがちなのであれば、まずは仕事の締め切りをすべてリストアップして、喫緊の課題からコツコツとこなしていくしかありません。渦中にいるときというのは、とにかく出口が見えなくて焦ってしまいますが、淡々と進めれば必ずや終わりが見えてきます。忙しさに精神的に押しつぶされている暇があったら、まずは頭と手を動かして目の前の仕事に取り組む。結局はこれが多忙から身を守る最善策なのかもしれません。

 (2009年2月16日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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