INTERPRETATION

普段読まない分野もぜひ

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 毎学期、通訳学校で私は「みなさん、新聞を読んでいますか?」と必ず問いかけるようにしています。すると大半の生徒さんが下を向いてしまうのです。今の時代、ニュースはテレビやネットで十分知ることができますので、そもそも新聞自体購読していない、という方も少なくありません。

 通訳者をめざすのであれば、新聞を読むことも立派な仕事です。私は紙の新聞を読むメリットとして、「(1)鳥瞰図的に記事を見渡せる、(2)見出しの大きさによって何が重要な記事かすぐわかる、(3)ページをめくることで、普段なじみのない内容にも接することができる」の3つを掲げています。

 さて、新聞をパラパラめくることで、普段なら読まない記事にもお目にかかれるわけですが、それでは読書においてはいかがでしょうか?私を含め、多くの方が自分の興味のある本を読むことを優先しているのではと思います。

 読書というのは、通訳業を営む上で、避けて通れない作業ですので、もちろん読まないよりは本そのものを読んだほうが良いのです。けれどもやはり大切なのは、知識の引き出しを増やすうえでできるだけ新しい分野にも踏み込んでみることだと私は思います。

 たとえば日頃、同じ雑誌を買っているのであれば、たまには未知の分野の雑誌に手を伸ばしてみるのも一案です。最近私が買った雑誌では「ユリイカ」「文学」「思想」「軍縮問題資料」「小一教育技術」などがあります。書店でパラパラとめくって面白そうだなと買ったものもあれば、新聞の広告で見て入手したものなど、さまざまです。「読みたいのは記事一つだけ」というときも、惜しまずに買ってみると結構他の記事が面白く、参考になることがあるのです。

 通訳者にとって必要なのは幅広い知識です。一般常識、歴史、それこそどんな話題が出てきても即座に対応できなければならないと思います。表面的でも良いので、知っているにこしたことはありません。実際問題、「一度読んだけれど忘れてしまったこと」と「全く知らないこと」の違いは大きいと言えます。たとえ忘れていても、一度でも頭に入れたことは、案外覚えているものだからです。

 今の時代、インターネットで書籍を注文すれば、在庫状況もわかりますし、すぐに届けてもらえます。けれども定期的に書店に出向き、いろいろな分野の本や雑誌に触れることで、たくさんのインスピレーションを受けられるのです。ぜひみなさんも、お気に入りの書店に時々足を運んでみてくださいね。

 (2009年3月2日)

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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