INTERPRETATION

聞き流しても上達しない、聞き流さなければもっと上達しない

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 4月も最終週に入りました。もうすぐゴールデンウィーク。新生活が始まった方はここで一段落つけそうですね。

 さて、ずっとお伝えしているフランス語学習ですが、何とか続いています。ただし、3週目にして早くもペースが乱れてきました。一番大きいのが、「NHKのラジオ講座が時間通り聞けない」という悩みです。

 この講座は毎朝7時半からと午後1時35分から、それぞれ15分間放送されています。テープに録音するとたまってしまいそうなので、できる限り放送を生で聞こうと頑張ってきたのですが、子どもたちの学校や幼稚園が始まるや、朝のこの時間帯は一番多忙なとき。さらに私も仕事が本格的に始まったので、聞けなくなってしまいました。

 幸いフリーランスなので、昼間自宅にいるときはお昼の放送を聞くようにしているのですが、家にいる日というのもあまりなく、テープ録音もしていないため、講座を全く聞かない日が何日も出てきてしまったのです。ただ、NHKのウェブサイトには前週の講座が丸ごと聞けるようになっています。これでかろうじて追いつこうとしてはいるのですが、やはり遅れてしまっているのは事実です。

 では完全に学習ができていないのかというと、そうではありません。というのも、フランス語ニュースのポッドキャストは毎日自動的に更新されるので、毎朝ジョギングをしながらこのニュースだけは聞き続けているからです。私にとって、朝走りに出かけることは、健康維持という目的ももちろんありますが、一人になり、ほんの10分でも良いから勉強に充てられる貴重な時間でもあるのです。

 語学学習には実にいろいろな方法があり、「CDを聞くだけで上達する」というタイプのものもあります。単に聞き流すだけで語学力アップに至ればこれほど楽なことはありませんが、やはり地道な努力は必要でしょう。個人的にはラクして語学力の向上はあり得ないと考えていますので、そうした「お手軽学習法」には懐疑的です。

 しかし、「聞き流すだけでは上達しない」ということと同じぐらい、「聞き流さなければ上達しない」とも思っています。私の場合、ラジオ講座に挫折したからと言ってフランス語学習すべてをあきらめようとは思いません。しぶとくポッドキャストを聞き流すだけでも続けようと思い、毎朝i Pod片手に走り続けているのです。つまり、どんな学習法であれ、やらないよりやった方が必ず実力として反映されると信じて歩み続けるしかないわけです。

 語学学習にせよ、習い事にせよ、新たに始めるということは、今までの自分の生活の中に、そのことに費やすための時間を捻出することになります。「よし、始めよう!」と決めたときは時間があったのに、だんだん忙しくなってしまったということは誰にでも起こり得ます。そのときにすぐあきらめるのではなく、できないものはできないと割り切りつつも、できることだけを辛うじてでもよいからしぶとく続けること。これが大事だと私は思っています。

 (2009年4月27日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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