INTERPRETATION

時間の有効活用3つのヒント

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 誰にとっても一日は24時間。その限られた時間内に、私たちは実に多くのことを行っています。仕事や家事、育児、勉強など、やるべきことややりたいことはたくさんあり、どうやって時間をやりくりしようかと私たちは考えながら日々過ごしているのではないでしょうか。

 今振り返ってみると、私にとって無限大の時間があったのは、実家にいたとき、社会人になって一人暮らしをしていたころ、そして結婚してから子どもが生まれるまでの時期です。当時は当時で「忙しい!」と思ってはいたのですが、今、子育てや仕事、子どもの学校関連の役員などを引き受けるようになってみると、かつての自分がいかにたくさんの時間に恵まれていたかが思い出されます。

 最近私は、自分が何かに取り組む際に心がけていることが3つあります。それは「スモールステップに分解すること」「集中すること」「完ぺきを目指さないこと」です。早速見てみましょう。

1.スモールステップに分解すること

 たとえばエージェントから通訳業務を依頼されたとします。業務の数日前になると、大量のプレゼン原稿をはじめ、関連資料や専門用語リスト、出席者名簿などがどっさり送られてきます。読むべきものがあることは分かってはいるものの、私自身、通訳者としてデビューしたころはどれから手をつけてよいか悩み、電話帳数冊分の資料を前に途方に暮れたことを覚えています。「まずはパワポ資料から読まないといけないな」と思って読み始めてはみるものの、初めての分野でそもそもの内容がわからず、「ならば専門用語リストから見ていこう」と思ってもやはり難しすぎるなど、スタート地点でつまずいてしまうことがあるのです。

 そこで求められるのが、やるべき課題をスモールステップに分けて取り組むことです。そのためにはまず、各工程をリストアップしてみましょう。たとえば上記の例でいえば、下記のような感じになります。

□資料枚数の確認

□資料を通読する

□単語リスト作成

□関連ウェブサイト検索

□関連文献の購入

□出席者の中で論文がネットで見られれば、検索・閲覧

 ざっとこうしてやるべきことをまとめてみるのです。そして自分なりに優先順位をつけて取り組んでいくことになります。もしその分野の通訳が初めてなのであれば、資料の通読よりも入門書を買って一読したほうが、内容そのものをしっかりと把握できます。ですので、「やるべきこと」と「自分の現時点での内容把握度」のバランスをとりながら準備を進めていくと、効率よく作業を進められるはずです。

2.集中すること

 実際に通訳日当日まで予習をしていると、「あ、あの内容についてウィキペディアで調べなければ」「当日、余裕を持って現地入りするには、何時の電車に乗ったらいいかしら」「昼食や休憩時間についてエージェントに確認しなきゃ」など、色々なことが頭の中をよぎります。目の前の資料を読みつつも、ひらめきのような形で「あれもやらなきゃ」「これも取り組まなくては」と思い付いてしまうのです。

 勉強を進める上で大切なのは、目の前の作業にとにかく集中することです。雑念が頭の中に残ったままでは、100パーセントの集中力を発揮することはできません。ですので、色々なことが思いつくのであれば、ぜひ手元にメモと筆記用具を用意し、思いつくたびに書き出してしまいましょう。「書いたらすぐに元の資料に戻って集中する」というスタイルを維持すれば、大切な集中力を無駄にせずに済みます。メモ用紙に書いたことは、勉強が一段落した時点で取り組めばよいのです。

3.完ぺきを目指さない

 通訳の予習をしていると、覚えるべき単語や読むべき文献など、無限にあるように思えてしまいます。たとえば金融関連の通訳の場合、配布資料の単語だけでなく、「もしかしたらアメリカの金融事情の話になるかも」「東京証券取引所の仕組みなども理解しておいたほうが良いのでは」などなど、予習の対象分野を広げようと思えば、いくらでも広がっていくのです。

 ただしその場合、ある程度のところまで予習をしたら、それで良しと納得することも大切です。なぜならば、睡眠時間を削ってまで予習をして体調を崩したり当日寝不足になったりしてしまえば、最大限の力を発揮することができなくなってしまうからです。

 完ぺきは目指さない。けれどもできる限りのことはやる。そのためにはエネルギーを均等配分することも大切です。

 通訳者になりたてのころというのは、誰もが試行錯誤を続ける時期でもあります。自分なりの勉強法、心がまえなど、失敗と成功を積み重ねていくことが、経験へとつながります。ぜひがんばってくださいね。

 (2010年2月22日)

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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