INTERPRETATION

今、一番やるべきことを考える

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 2週間前のこのコラムで、「いつ、何をやるかを決めておく」という内容の文章を書きました。今回はもう少し、具体的にお話していきましょう。

 誰にとっても一日は24時間。その中で効率よくやるべきことをこなしていくには、いろいろと工夫が必要です。世の中には時間管理に関する本がたくさん出ていますが、どれにおいても共通して言えるのは、「目標設定」「優先順位をつける」「実践」という3点です。私も時間術には興味があるので、そうした本は大量に読んできました。

 それぞれの本において著者が勧める方法はどれも魅力的です。しかし、私の今のライフスタイルに合うものもあれば、物理的に実践できないものもあります。結局のところ、一冊の本から一つでもヒントとなるものが見つかればそれでよしと考えるようになりました。すべてのノウハウを実践するのは不可能だからです。

 さて、私が日々の生活で心がけているのは、効率的な時間の使い方ももちろんですが、やはり一番大事なのは「目の前のことに集中すること」だと感じています。目の前のことを丁寧にミスのないようにやれば、結局は時間のロスを防げます。たとえばこの原稿を打ち込む際も、雑な気持ちで打ち込んでいると私の場合、必ず入力ミスをします。適度なところで変換をしないと、とんでもない漢字が表示されてしまい、再びすべてを打ち直すことになってしまうのです。ですので、ミスをできる限り避けながら進めるということが大事だと感じています。

 けれども最近になって、さらに大切なのは、「今、一番やるべきことを常に考えながら行動すること」だと感じています。私は毎日、その日のやるべきこと・やりたいことをすべて書き出しており、前夜の寝る前にざっと目を通してから就寝します。頭の中で「明日はこういうことをやるのだな」と意識した上で眠りにつくわけです。翌朝、起きてすぐに再度このリストに目を通し、このときにはどれが一番重要課題かをじっくり考えます。「考えるよりも早く実践した方が時間の節約になる」と以前の私は考えていたのですが、まずは全体像を把握した上で、どういう順序で実行していけばもっとも生産的になるかを考えながら一日の流れをシミュレーションするようになりました。

 私の場合、外での通訳や指導業務がないときは丸一日家で過ごすことができます。そのような日は一日を大まかに4つに分けています。まず午前4時の起床から6時まで、次が子どもたちを送り出した午前8時半から昼食まで、3つ目は昼食後から4時ぐらいまで、最後は子どもたちの帰宅後です。

 上記の4つの時間帯のうち、生産的に使えるのは早朝の2時間と、午前中の時間帯だけです。夜明け直後の数時間は周囲も静寂なので、執筆活動をするには最適です。午前中も比較的静かなので、原稿書きやメール送受信など、「頭で考える仕事」をこの時間帯に持ってきています。

 昼食後は午前中の疲れもあり、満腹感も手伝って、あまり生産的にはなれません。午後3時過ぎになると近所からの音やセールスの電話なども多いため、この時間帯は機械的な作業をするようにしています。たとえば私の場合、フランス語学習のドリル、授業予習(単語調べ)、シャドウィングあるいは買い物などです。じっくり考える作業の代わりに手や口、体を動かすことで、眠気防止にも役立っています。以前、フランス語ドリルは早朝にやっていたのですが、CD音声のリピートやディクテーションなどの作業は機械的にできることがわかって以来、午後の時間帯に行うようになりました。

 子どもたちの帰宅後は、なかなか仕事ができません。さらに、入浴後や就寝直前にパソコン画面を見ると、せっかくリラックスしていた脳が再び刺激されてしまうそうなので、あえてPCは開かないようにしています。その代り、子どもたちの話を聞いたり、一緒にぬり絵や絵本を読んだりすることで、右脳を使って徐々に就寝できるようにしています。

 大事なのは、やみくもにやるべきことをガンガン実行するのではなく、自分の体調に合ったやり方を見つけ、それを実践していくことだと思います。これからもいろいろと工夫を重ねながら、限られた時間を有効に活かしていきたいと思っています。

 (2009年6月8日)

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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