認知症を抱える人の立場になって、その人に合ったケア(パーソンセンタードケア)をしていくためにはどうすればよいのか、日本の介護業界でも注目が高まっています。本書は介護職・家族介護者向けにパーソンセンタードケアの理念をわかりやすく紹介した初の入門書であると同時に、日常の介護の場面でどう対応すればいいのかを具体的に教えてくれる頼れる実用書でもあります。
●翻訳中の苦労話
介護職・家族介護者が対象なので、普段扱っている翻訳とはかなり勝手が違いました。外資系企業での翻訳ならば「スキルが求められる」と言えば通じますが、年配で英語に縁のない方を念頭において「技がいる」という表現に変えてみたり。また、介護者はただでさえ「自分は十分に介護ができているんだろうか?」と自分を責めてしまうものです。介護者を傷つけることがないようにたとえば、「よいケア・悪いケア」とする代わりに「よいケア・よくないケア」という表現を用いるなどかなり注意を払いました。
●実際に翻訳してみて
ビジネス文書などの既に読み手が待っているものを翻訳するのと違い、本の場合は読み手にこちらからアプローチしていかなければいけないという意味で、発想自体が異なります。ただ訳すのではなく、どんな読み手に読んでほしいのか、そのためにはどう伝えればいいのかというバックキャスティング的な思考が求められます。たとえば、目次も当初はそのまま訳して「問題を見てみよう」としていたのを「徘徊やおもらし、攻撃・・・認知症の『困った!』にどう対応すればいいの?」と変更するなど、こちらから潜在的な読み手に働きかける翻訳という意味で学ぶところが多かったです。 |