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治験翻訳入門- 医薬品開発と治験翻訳 -

 最近、翻訳業界で「治験翻訳」という分野が注目されています。「治験翻訳」とはどんなものを指すのでしょうか?治験翻訳者になるためには、どのように勉強したらいいのでしょうか?
 この講座では、新しく「治験翻訳」を始めたい方を対象に、次のような内容について解説いたします。

 1.医薬品開発と治験
 2.医薬品開発に必要な試験と作成する文書
   1)非臨床試験
   2)臨床試験
   3)新薬承認申請とCTD
 3.臨床試験の用語、文例
 4.翻訳のための調査、情報収集
 5.翻訳する上での留意事項

第7回 臨床試験(3) 「治験の総括報告書」(1)

 前回までに治験の実施の基準や臨床試験の方法論についてお話しました。これらの基準や指針に従って、製薬会社や医療機関そして多数の被験者が関わって治験を実施しました。さて、その結果はどのような形にまとめられるのでしょうか。添付の表1は「治験の総括報告書」の目次です(表1)。
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表1 治験の総括報告書の項目.jpg
「これを訳すとなると、大変!」と思うような膨大で詳細なものですが、これでも小項目は省いてあります。
 このような報告書作成のための指針が「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン」です。このガイドラインもICHのガイドライン"Structure and Content of Clinical Study Report"に基づいており、本ガイドラインに従って作成された総括報告書の中核部分はICH参加地域の全ての審査当局に受け入れられます。ただし、日本の治験結果を用いて海外で申請する際は英文の報告書が求められ、一方、海外の英文報告書を用いて日本で申請する際は、日本語の要約を添付します。日本語の要約は主に英文の総括報告書のSynopsis(「概要」)部分の訳に基づいて作成されます。このためsynopsisはよく翻訳されますが、実際には治験実施医療機関の関係者の参考資料として、また製薬会社内での開発業務の参考のために、本文全文を訳すことも多いのです。このように「治験の総括報告書」は英訳・和訳とも翻訳の仕事の多い文書です。
 「治験の総括報告書のガイドライン」*はメディカルライターや開発担当者が報告書を作成するための指針であるため、臨床試験の科学的方法論や統計解析に関する技術的な記述がかなりの部分を占めます。しかし、翻訳者は報告書を自ら作成するのではなく、作成された報告書を訳すことが仕事です。そこで、技術的な詳細についてはガイドライン本文(http://www.pmda.go.jp/ich/efficacy.htm)を必要に応じて直接読んでいただくこととし、この講座では今回と次回の2回に分けて、総括報告書を訳す際に参考になる事項を中心にお話します。

*「治験の総括報告書のガイドライン」は主にフェーズIIとIIIの治験を対象に書かれていますが、その大部分がフェーズIの試験にもあてはまります。

1.治験の総括報告書の構成

 治験の総括報告書は個々の治験についての臨床及び統計上の記述、提示及び分析内容を一つの報告書に統合したもので、表1で見たように膨大な項目の詳細が設定されています。このように膨大になるのは、治験がGCPに従って科学的に実施され、得られた結果が当該品目の有効性、安全性を立証して開発の次の段階、又は申請に進むのに十分な根拠となっていることをもれなく示すためです。したがって、本文の構成内容は大別すれば、GCP遵守(compliance to GCP)関連の陳述、治験の計画(investigational plan)、有効性の評価(efficacy evaluation)、安全性の評価(safety evaluation)、考察と結論(discussion and overall conclusion)となります。
 本文のほか、本文中または本文末尾に表及び図を含み、さらに付録(appendix)として「治験実施計画書(protocol)」「症例記録用紙(case card)の見本」「治験責任医師(investigator)等に関する情報」「治験薬(被験薬、有効成分を含む対照薬またはプラセボ)[study drugs (the investigational drug, active control/comparators or placebo)]に関する情報」「技術的統計的文書(technical statistical documentations)」「関連する刊行物(publications)」「患者データ一覧表(patient data listings)」「技術統計的な詳細(計算式、コンピュータ処理、分析、コンピュータ出力など)」などの重要な文書が添付されます。

2.総括報告書の翻訳と治験実施計画書(参考資料と用語辞書)

 このような多岐にわたる内容の「治験の総括報告書」を翻訳していく上で専門分野の辞書は欠かせません。しかし、科学の進歩は日進月歩で、専門用語辞書の作成は学会でも追いついていないのが現状で、インターネットや成書などで調べて自分の辞書を作っていくことが重要です。このような中で、治験総括報告書の翻訳では「治験実施計画書」の英文と日本文があれば、大変参考になります。開発の経緯や被験薬の特性に関連した特殊な用語など、他で調べてもわからないものでも、治験実施計画書の英語と日本語を対比すればわかることが多いのです。また、クライアントが社内用に用語リストを作っている場合もあります。
 このように治験実施計画書、あるいはクライアントが持っている用語辞書その他の関連情報は翻訳者にとって貴重です。翻訳会社を通して翻訳する場合は、翻訳会社の窓口を通して、個人で直接クライアントと契約している場合は直接クライアントにお願いして、できるかぎりこれらを入手して下さい。製薬会社側は守秘性の観点から翻訳を外注する文書以外のものを外部に出すのを避ける傾向がありますが、新規性のあるプロジェクトほど、情報は製薬会社内にしかなく、用語等も確立されていません。よい翻訳結果を得るためには、情報が必要であることをクライアントにわかってもらって下さい。そのための機密保持契約なのです。
 さらに、製薬会社では「治験の総括報告書」はテンプレートを用いて作成しています。このテンプレートを使わせてもらえると書式も一定で、訳漏れも防げて便利です。これは製薬会社と翻訳会社、あるいは翻訳者個人との信頼関係によりますので、日頃からそのような関係を築いておき、共通のテンプレートを使って翻訳も行えば、結果的にはクライアント、翻訳会社、翻訳者いずれにとっても便利で、省エネになります。
 また、余談になりますが、治験は「治験実施計画書」に従って行われますので、当然のことながら、「治験の総括報告書」の項目や記述内容(主に「方法」の項)は「治験実施計画書」に類似しています。中にはコピーペーストで使える部分もあるくらいです(そうであれば、ラッキー!)。しかし、総括報告書は治験の実施過程で生じた様々な問題を踏まえて作成されますので「治験実施計画書」と比べて何が問題で、どう違うのか、「総括報告書」の記述をよく読んで訳を進めることが重要です。
 なお、治験総括報告書は本文だけでも100ページを超えるものが多いので、納期の関係から、何人かで手分けして訳すこともあると思います。その場合の用語の統一に関しても、クライアントの用語リストがあれば助かります。ない場合はどうするか、翻訳会社と話し合っておきましょう。まずは治験総括報告書中の略語・用語リストや、一般的な用語についてはガイドラインの用語に従います。
 では、総括報告書の主な項目について、翻訳の観点から見ていきましょう。

3.治験総括報告書の項目ごとの注意点

1) 標題ページ(Title page)
このページを見れば「どのような治験であるか」が手っ取り早くわかります。ここには、以下のような治験の基本的な情報が標題やその補足として記述されます。これらの用語を自分の用語リストに加えましょう。
・ 治験の標題(study title)
・ 被験薬名(name of test drug/investigational product)
・ 対象とした適応(indication studied)
・ デザイン(並行群間比較、クロスオーバー、盲検化、無作為化など)[Design (parallel, cross-over, blinding, randomized)]、比較(プラセボ、実薬、用量-反応)[Comparison (placebo, active, dose/response)]、期間(duration)、用量(dose)、患者母集団(patient population)
・ 治験依頼者名(name of the sponsor)
・ 治験実施計画書の識別コード(又は番号)[Protocol identification (number or code)]
・ 開発のフェーズ(相)(development phase)
・ 治験開始日(study initiation date)、早期中止日(date of premature/early termination)、終了日(study completion date)
・ 治験総括(調整)医師又は治験依頼者の医学責任者の氏名と所属(name and affiliation of principal or coordinating investigator(s) or sponsor's responsible medical officer)
・ 治験依頼者側署名者(Name of company/sponsor signatory)、総括報告書責任者の氏名(the person responsible for study report)、電話番号、ファックス番号
・ GCP遵守に関する陳述(statement indicating whether the study was performed in compliance with GCP, including the archiving of essential documents
・ 報告書の日付(date of the report)
 では、標題の例を挙げますので、訳してみて下さい。

(例)A multicenter, Double blind, Randomized, Parallel, Dose-Response Study to Assess the Efficacy and Safety of ABC123(10, 25, 50mg b.i.d) compared to Placebo in Patients with Type 2 Diabetes

(訳) 2型糖尿病患者におけるABC123 (10, 25, 50 mg 1日2回投与)の有効性と安全性を評価する多施設無作為化二重盲検並行群間比較用量-反応性試験

 これだけの文字数の中に、治験薬の開発コード、その用法・用量、比較(プラセボ対照、用量-反応性)対象患者、治験実施施設、デザイン(盲検性、無作為化、並行群間比較)、治験のタイプ、治験の目的等多岐にわたる情報が網羅されていることがおわかりでしょう。

2) 概要(Synopsis)
「概要」は当該治験の概略を示す部分です。添付のような書式が用いられ(別添1概要、Annex 1 Synopsis参照)、
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別添1 概要.gifSynopsis Annex 1.gifannex.cont.gif
各項目数行から20数行位でその項目の内容が要約され、全体で3~10ページ位です。開発段階で治験全体の構成や問題点を把握するため、また、日本語要約を作成するため、治験総括報告書のこの部分だけ数報~数10報まとめて翻訳が発注されることがあります。
 「概要」中のObjective(治験の目的)の項の記載例です。これも短い中に情報が詰まっています。訳してみましょう。

(例)To evaluate effects of ABC123 on fasting blood glucose, fasting insulin, C-peptide, HOMA-b, HOMA-R, lipids (TG, TC, LDL-C, HDL-C, and FFA) (changes from pretreatment levels) in patients with type 2 diabetes mellitus, as compared with placebo serving as a control.

(訳) 2型糖尿病患者における空腹時血糖、空腹時インスリン、C-ペプチド、HOMA-b、HOMA-R、脂質(中性脂肪, 総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール及び遊離脂肪酸)(基準値からの変化)に対するABC123の効果をプラセボと比較して評価すること。

3)目次 (Table of contents)
総括報告書ガイドラインの目次の項目に対応しますが、当然のことながら、取り上げる項目は試験の目的、対象母集団、デザイン、解析方法などによって、変わってきます。余裕のある時にガイドラインの目次の項の英語、日本語を対比して辞書を作っておくと便利です。

4)略号及び用語の定義一覧 (List of abbreviations and definition of terms)
報告書中で用いられる略語一覧表及び専門用語、一般的でない用語又は測定の単位の一覧表及び定義を示したもので、他では見つからない用語や、その試験に限ってクライアントが用いている用語もあるので、必ず参考にします。この表に訳語が入っていない場合には、治験実施計画書の英文と日本文の略語表、用語リストを参照できると便利です。

5)倫理 (Ethics)、6)治験責任医師等及び治験管理組織(Investigators and study
administrative structure)
GCP遵守に関連した事項です。詳細についてはガイドライン本文及び本講座第5回のGCPについての記述を参照して下さい。

7)緒言 (Introduction)、8)治験の目的(Objectives)
緒言には被験薬の開発における当該治験の位置付け、治験実施の根拠と目的、対象母集団、治療法、期間、主要評価項目などが要約されているので、その治験の把握に役立ちます。治験の目的も同様です。

今回はここまでとし、次回は「治験の計画」「有効性の評価」「安全性の評価」「考察と結論」について解説します。


第6回 「臨床試験の一般指針」に見る臨床開発の進め方

 前回は治験を主に倫理的に適正に行うための手順を「臨床試験の実施の基準」(GCP)に則して述べました。今回は治験を科学的に適正に行うための方法論を定めた「臨床試験の一般指針」に沿って臨床開発の進め方を見ていきましょう。
 臨床試験のガイドラインには、臨床試験全般の方法論を述べた「一般指針」のほか、臨床試験を様々な側面からみた指針があり、例えば「統計的原則」、「用量-反応関係」、「対照群の選択」などに関する指針、報告書のまとめ方に関する「治験の総括報告書」のガイドライン、さらに国際共同治験やブリッジングに関わる「外国臨床データの受け入れ」など多様です。また「抗不整脈薬」「鎮痛消炎薬」「抗高血圧薬」など個々の薬効群別に試験のデザインや注意事項などを述べたガイドラインもあります。
 これらのガイドラインは日・米・欧3極間で協調して臨床開発を行い、データの相互受け入れを可能にするためにICHで合意されたものです。日本のガイドラインもこれに基づいていますので、ICHの英文も参照して下さい。(http://www.pmda.go.jp/ich/e/e8_98_4_21.pdf)
 今回は主に「一般指針」に基づいて臨床試験の「相」という段階的な概念と各相で行われる試験の種類について見ていきましょう。関連する法律や用語については「治験ナビ」(治験メニュー→法律、ガイドライン、又は治験用語集など)も参照して下さい(時々誤字などがありますので、注意してください)。 (http://www.chikennavi.net/index.htm)


1. 臨床開発の進め方(4つの段階=相phase)

 臨床開発は便宜的にI、II、III、IV相(phase I, phase II, phase III, phase IV)と4段階に分けて考えられています。治験は、各段階の目的に適うようにデザインされた治験実施計画書(protocol)に基づいて実施され、結果が解析され、それに基づいて治験総括報告書(clinical study report)が作成されます。つまり、いきなり大規模な比較試験を行うのではなく、前段階の結果を踏まえて試験の目的が設定され、課題が一つずつ、順にクリアされていきます。開発段階ごとに求められている試験を表に示します(文末の表入る)。試験の種類は開発される薬の性質や適応によって変わりますので、どの薬でもこの全てが実施される訳ではありませんが、その数は相当なものになります。
 また、試験には「このように想定してこのような方法で行うとこのような結果が得られるはず」というパターン、すなわちデザインが必要です。試験目的にあわせて、デザインを選びます。治験実施計画書や治験総括報告書の標題部分などは、どのような試験であるかが、まるで「ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ...」といった調子で羅列されています。例えばA phase I open-label, single-dose treatment in healthy male Japanese subjects to determine bioavailability of XXXなど。治験の「相」とそこで行われる試験やデザインについて理解していると、このようなタイトルもどの相のどのような試験なのか、ある程度推測することができます。それでは、各相で行われる試験を見ていきましょう。

2.第I相(Phase I)で行われる試験(主に臨床薬理試験)

 第I相は治験薬を初めて人に投与する段階で、通常、治療効果の確認はしません。まず、被験薬の忍容性(tolerability)と安全性を確認するために、少数の健常人や患者に被験薬を単回、次いで反復投与し、どこまで投与に耐えられるかを調べ、また予期される副作用の性質を判断して安全性を確認します。
 次に薬物動態(pharmacokinetics)、薬力学(pharmacodynamics)、薬物相互作用(drug-drug interaction)などの基本的な問題点を確認して、これらの結果を次の段階の用量設定の根拠とします。薬物動態試験では、血中の薬物濃度や尿、糞などから被験薬(investigational drug)の体内動態(biological fate)(すなわち、吸収、分布、代謝、排泄)を推測し、クリアランスから未変化体又は代謝物の蓄積がないかを検討します(蓄積があると、薬効が強く出すぎたり、副作用が出たりします)。また、薬物は血球や目的外の組織と結合していると、目的とする組織で効果を発揮できませんので、投与量のうちどれくらいが血中にあって遊離(free)薬物として利用できるか生物学的利用率(バイオアベイラビリティ(bioavailability)も調べて、用量設定の参考とします。また、薬物は代謝されると、本来の作用を失うものが多いため、薬物代謝試験(drug metabolism study)で、血中・尿中等の代謝物の同定・測定から代謝経路や代謝の程度を調べます。中には体内で代謝されて初めて有効成分となる薬(プロドラッグprodrug)もあります。一方、薬物代謝酵素は民族によって異なる場合があり、民族差(ethnic difference)の有無を調べてその後の試験で海外データが利用できるかを検討します。これはまた、国際共同治験(global study)が可能かどうかの根拠ともなります
 同じ薬物受容体に結合する複数の薬を同時に投与すると、受容体との結合部位で競合が起こり、その結果薬理効果が減少する場合があり、これを薬物相互作用といいます。そのような薬物の併用が予想される場合にはこの試験の実施が必要です。また、食事の影響が考えられる場合には食物との相互作用を検討する場合もあります。
 薬によって、また治験のエンドポイント(治験行為の意義を評価する「評価項目」)によっては、被験薬による薬理反応の強度を生体内薬物濃度と関連付けて検討する薬物動態/薬力学試験(pharmacokinetic/pharmacodynamic study = PK/PD study)を健常人または目標疾患の患者を対象に行い、薬物濃度とともに臨床的指標(真の/代替エンドポイント、又は臨床効果や副作用との関係が確認された臨床薬理学的指標)を評価します。
 通常第I相で行われる薬物動態や薬力学の試験をひっくるめて臨床薬理試験(clinical pharmacology study)といいます。しかし、既に述べたように「相」という概念は便宜的なもので、ここに述べた試験でも場合によっては第II相で行われることもあります。例えば第II相で新たな併用薬が候補に上がれば、その時点で薬物相互作用試験の必要性が生じます。

3.第II相(Phase II)で行われる試験(主に探索的試験)

 第II相では患者における治療効果を探索する探索的試験(exploratory study)を開始します。探索的試験では、まず同時対照群(並行比較群ともいう、parallel control)や投与前の状態(baseline)との比較を行い、次に特定の適応(indication)に対する有効性(efficacy)と安全性(safety)の検討を比較的均質な少数の患者を対象に、無作為化同時対照比較(randomized parallel control)により行います。
 ところで、対照(control)とは何でしょうか。これは言葉で、被験薬(新薬候補として試験する薬、investigational drug)と比較する対象をいいます。対照薬(control, control drug)にはプラセボ(外観は被験薬と同じで有効成分の入っていない薬。通常、乳糖などplacebo)と実薬(有効成分の入っている薬、多くは市販薬、active drug)があります。被験薬と対照薬を合わせて治験薬(study drug)といいます。対照薬使用の有無、対照薬の種類、投与方法、評価方法などによって試験のデザインが変わってきます。
 また、無作為化(randomization)とは、いくつかある治療法のひとつに被験者を無作為に(ランダムに)割り当てることによって、恣意的に特定の治療群に割り当てる(例えば治療効果の高そうな被験者を被験薬群に割り当てる)バイアスを避けることをいいます。
 第II相の主な目的は第III相試験の用法・用量を決定することで、初期には用量漸増デザイン(dose-escalating design)、次いで並行用量反応デザイン(parallel group dose-response design)が用いられます。それぞれの試験で使われる主なデザインはその試験のガイドライン(例えば「用量-反応関係の検討のための指針」)に詳しく解説されています。デザインについては「治験ナビ」の用語集にも簡単に解説されています。
 また、第II相では、その後に実施される第II相や第III相試験において用いられる見込みのあるエンドポイント・治療法(併用療法を含む)・対象患者群 (重症度severityによる分類など)などの評価も行われます。用語は、治験実施計画書や治験総括報告書の目次の次にglossaryがついていることが多いので、それを参照することもできます。

4.第III相(Phase III)で行われる試験(主に検証的試験)

 第III相では、通常、治療上の利益の証明または確認を目的とする検証的試験(verification study)試験を行います。つまり第II相で蓄積された予備的な証拠(preliminary evidence)「被験薬は意図した適応及び対象患者群において安全で有効である」ということを検証します。ここではかなり大規模な患者数(場合によっては数千人)で、市販薬を対照として、想定される臨床使用状況を考慮して試験が行われます。ここで得られたデータがこの薬の承認の根拠となります。
 また、場合によっては、用量-反応関係のさらなる探索、より広い対象患者や病態の異なるステージでの被験薬の使用、他剤との併用(combination therapy)などが検討され、長期投与の予想される薬では、長期試験(long-term study、場合によっては延長試験extension study)、高齢者への投与が想定されている場合は高齢者を対象とした試験も行われます。また、妊婦・授乳婦、小児への投与が予想される薬物では、これらの集団(population)を被験者とした試験を考慮します。
 第III相試験で得られるこれらの情報はその薬の正式な製品情報として、後に添付文書(package insert)に記載されます。

5.第IV相(Phase IV)で行われる(治療的使用)

 第IV相の試験は、その薬の承認後に(つまり市場に出てからpost-marketing)行われる試験です。開発段階で安全性、有効性が確認され、用量が設定されてはいるが、実際の治療環境でそれ以上の知見を得るために行います。
 これは定期報告が求められている承認販売後調査を除く全ての承認販売後臨床試験が含まれ、追加的な薬物相互作用試験、用量-反応試験、安全性試験、承認された適応疾患における使用を支持する試験などが含まれます。
 新効能、新用法・用量、新投与経路、追加の患者集団での試験は新たな開発計画のもと、別途行われます。

 治験の各相でどのように試験が行われるかが下図に示されています。(図入る)これを見ると、開発が進むにつれ、その時点での必要性、目的に応じて試験が選択されることがわかります。どの試験は必ずどの相でと決められているものではないのです。初めに「相」は便宜的な概念だと書いたのは、このように「相」があって開発が行われるのではなく、それぞれの薬に応じて必要な試験が選択されるからです。相はむしろ概念なのです

 次回はこのようにして行われた臨床試験の結果をどのような形にまとめるのか、「治験の総括報告書」を中心にお話します。
目的による臨床試験の分類.gifのサムネール画像開発の相と試験の種類の関係.gif


第5回 臨床試験(1) GCPと治験の実施手順

 今回は人を対象とした試験、すなわち臨床試験に入ります。サイエンスとしての「臨床試験」という用語と薬事規制上の用語である「治験」については第1回で説明しました。以下で「臨床試験」という時、もちろん「治験」もここに含まれるとお考えください。
 治験の目的は人を対象として薬の有効性と安全性を確認することですが、その実施にあたって、最も留意すべきことは何でしょうか?それはまず、被験者の人権が保護され、倫理的で安全、なおかつ、科学的に妥当な方法で試験が実施されることです。倫理性と科学的妥当性は車の両輪のようなもので、科学的に斬新であっても、倫理的に妥当な方法で試験が行われなければ、被験者の安全や人権は守られず、人を対象とした科学の方法としては適切とはいえません。一方、真に科学的な方法で試験が行われなければ、その結果は偽りとなり、被験者の協力も無駄となります。
 治験に対する法規制には、主にその手続き面を定めた基準と、科学的方法を定めたガイドラインとがあります。今回は「臨床試験の実施の基準」(GCP)を通して、治験の手順を見て行きましょう。

1. 医薬品の臨床試験の実施の基準

 新薬の製造販売承認申請には、その品質、有効性、安全性を確保するための多方面の資料が求められ、そのための試験が行われます。臨床試験もそのひとつですが、その適正な実施のための「手続き面」を定めたものが「医薬品の臨床試験の実施の基準」(Good Clinical Practice = GCP)です。詳細は下記を参照して下さい。ICHのGCP(英文)も参照できます。
GCP: http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09F03601000028.html
http://www.pmda.go.jp/ich/e/e6r1_97_3_27e.pdf
 *基準としてはGCP以外に、分野によって「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準」(Good Laboratory Practice = GLP)、「医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(Good Manufacturing Practice = GMP)、「製造販売後の調査及び試験実施基準」(Good Postmarketing Study Practice = GPSP)などがあります。

 臨床試験は過去にナチスや日本軍による人体実験や、自由意思を表明できない囚人等を被験者にするなど、倫理面での負の遺産が多数ありました。これらの反省に立って、2度と非倫理的な臨床試験を行わないことを医師達が誓ったものがヘルシンキ宣言(Declaration of Helsinki) ( http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/gijiroku/04090601/010.pdf)です。GCPはその精神に則り、患者の自由意思に基づいた倫理的で科学的な臨床試験を行うための手続きを定めたものです。倫理的・科学的妥当性は当然個々の試験の治験実施計画書に盛り込まれ、治験依頼者や医師が精神としてそのような治験実施を心がけることは当然ですが、GCPはここに定めた手続きを踏むことによって、システムとして適正な治験の実施を目指すものです。GCPと治験に関しては、上記サイトのほか、関連の法令、用語集なども含めて参照できるものとして治験関連サイト「治験ナビ」があり、翻訳者にとって参考になります。(http://www.chikennavi.net/i_gcp_index.htm)

2. GCPと治験の手順

 治験はどのような人や組織によって、どのような手順で実施されるのか、GCPの記述に基づき、治験の流れをごく大まかな図にしました。○の数字を追っていくと、主な手順がわかります。ここには主にピンク色で「治験実施」業務の流れ、緑色で「監査」業務の流れ、青色で「有害事象発現の場合」の業務の流れが示されています。治験はこのように様々な人や組織が関与する壮大で総合的なプロジェクトなのです。
治験の流れ概略.jpg

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上記手順の主な登場人物・組織とその業務、及びそこで作成される文書等を以下に記述します。用語はICHのGCPの英語に日本の治験で従来使われていた日本語を対応させているため、考え方や医療環境の違いから、英訳・和訳ともに直訳では思い浮かばない表現が多く、要注意!です。詳細はICHのGCPと日本のGCPを対比して見てください。ここでは企業主導の治験について説明します。(ほかに「医師主導の治験」があり、「治験依頼者」の代わりに医師が自ら治験を実施する点で、責務、手順等が異なります。)

1)治験依頼者(Sponsor)

 多くは製薬企業で、業務手順書(standard operation procedure=SOP)に基づき、治験実施医療機関及び治験責任医師を選定し、治験実施契約を結ぶ。製薬企業には通常、臨床開発 (Clinical Development) 部門、治験実施 (Clinical Research Operation) 部門、安全性情報 (Drug Information) 部門、監査部門等があり、以下の業務を担当する。
 臨床開発部門:開発計画の策定、治験実施計画書(protocol)・治験薬概要書(investigator's brochure)の作成・改訂、症例報告書(case card)書式の作成。症例報告書データの確認・入力・統計解析(statistic analysis)とこれに基づく治験総括報告書(clinical study report)の作成。

 治験実施部門治験薬(study drugs=被験薬investigational drug + 対照薬control drug)の管理(出庫・回収・保管・記録)とモニター(monitor)による交付・回収、治験実施中の被験者の人権・安全等の保護及び治験実施計画書への準拠・GCP遵守等についてのモニタリング、症例報告書 (case report form) データとカルテ等の原資料(source data)との照合・検証(validate)。

 安全性情報部門:通常の治験実施には関わらないが、有害事象(adverse drug event)
発現の場合、治験薬との因果関係(関連が否定できなければ、有害反応adverse drug reaction=副作用)などを検討し、有害事象報告書を作成。

  監査部門(Audit):会社自体の監査部門と区別して、信頼性保証(Quality Assurance)部門とも呼ばれ、上記の諸部門とは独立の立場で、治験に関わる全ての業務活動及び文書をGCPその他の規制要件に照らして監査(audit)する。

 なお、実施部門又は開発部門の業務の一部を外部の治験業務受託機関(contract research organization=CRO)に委託することがある。

2)治験実施医療機関(Institution, 個々の施設についてはtrial site, stationともいう)
 十分な臨床観察・試験検査を行う設備と人員を有し、被験者に対する緊急措置が可能で、治験審査委員会(investigational review board, IRB)が設置され、十分数の治験責任医師および治験協力者(薬剤師、看護師、治験コーディネーターclinical research coordinator=CRC)等を有する医療施設。
 なお、日本では治験依頼者と治験実施医療機関が契約を結ぶが、海外では治験依頼者と治験責任医師が直接契約を結ぶので、手順が異なる。

3)治験責任医師(Investigator)
 治験実施にふさわしい教育・訓練を受け、十分な臨床経験があり、治験実施計画書・治験薬概要書に定める治験薬の使用法に精通している医師を治験依頼者が選定。治験分担医師、治験協力者と業務分担する場合の責任者。治験について被験者に説明し、参加同意を得る。治験実施計画書に従って治験を行い、症例報告書を作成。有害事象を治験依頼者に報告。

4)治験審査委員会(Institutional Review Board)
 治験実施の適否を評価するため、実施医療機関ごとに設置される委員会。治験について倫理的・科学的見地から審議する。第3者委員を含み、医療・臨床の専門家以外の者を含むこと。

次回は臨床試験のガイドラインに沿って、治験のデザインや相(フェーズ)について解説いたします。


第4回 非臨床試験(3) 薬物動態試験


 今回は薬物動態試験(pharmacokinetic studies)についてお話します。薬物動態は薬の効果や副作用と深く関わっています。その試験方法は動物とヒトとでは多くの点で異なるものの、「薬物動態」という考え方の基本や用語などは同じで、ここで述べることの多くはヒトにもあてはまります。タイトルは非臨床試験(3)となっていますが、動物の薬物動態試験から入って、ヒトでの問題にもふれていきたいと思います。

 体内に入った薬は効果を発揮する部位(作用部位site of action)まで血流によって運ばれ、薬物分子がその部位の受容体(receptor)と結びついて相互作用を起こすことにより初めて効果を示します。
 内服(経口oral)、注射(injection)、外用(topical application)など様々な投与経路(administration route)から体内に入った薬は、投与した用量(dose)のうちどの位の量が、どのような経路で、何時間かけて作用部位に到達するのでしょう?また、薬はどのような形(元のまま=未変化体unchanged drug、あるいは化学的に修飾された形)で効果を示し、さらに、仕事を終えた後、どのように分解(代謝metabolize)されて、どの位の時間で体外に出て行く(排出eliminate)のでしょうか?
 薬物動態試験はこのような、薬の生体内での動き・運命を調べる試験、いわば体内旅日記です。日本臨床薬理学会のHPの「市民のための薬と病気のお話」に「薬物動態」の分かりやすい説明がありますので、読んでみて下さい。(http://www.jscpt.jp/kusuri/q03_0.1.html)
 ガイドラインは「非臨床薬物動態試験ガイドライン」(医薬審第496号、平成10年6月26日) (http://www.nihs.go.jp/mhlw/tuuchi/1998/980626/980626.html)、「反復投与組織分布試験ガイダンスについて」http://www.pmda.go.jp/ich/s/s3b_96_7_2.pdf 及び「トキシコキネティクス(毒性試験における全身的曝露の評価)に関するガイダンス」を参照して下さい。
(http://www.pmda.go.jp/ich/s/s3a_96_7_2.pdf)

 非臨床薬物動態試験の目的は動物を用いて被験物質の体内動態を明らかにすることによって、ヒトにおける体内動態を予測し、有効性と安全性の評価に役立てることです。薬の体内動態(体内の旅)には、吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)の4つの相があり、この過程の総称として、これらの頭文字を組み合わせてADMEと呼ばれます。薬物を体外に出す過程で代謝と排泄が行われ、合わせて消失(elimination)の過程と言われます。それでは、これらの過程をそれぞれ見ていきましょう。

1. 吸収の過程 薬には塗り薬のように、直接作用部位に投与されるものや、静脈内注射のように、直接血管内に投与されて作用部位に運ばれるものもありますが、多くの薬は口から投与され、胃で溶解(dissolve)され、小腸へと移行してそこで吸収(absorb)されて全身を循環している血液(circulating blood)中に入り、そこから作用部位に運ばれて薬効を示します*。
 吸収過程の問題としては、胃で溶解される際に、胃酸で分解されて本来の働きが失われてしまう薬物もあり、ヒトに用いる時に、錠剤にコーティングして小腸に行ってから溶ける腸溶錠にするなどの工夫がなされます。また、小腸から吸収後、全身循環に入る前に、門脈を経て肝臓を通過する際に代謝されて活性(activity, 効力)を失ってしまう薬もあります(初回通過効果 first-pass effectという)。これを避けるため、口腔粘膜から吸収させて直接循環血に入る舌下錠(sublingual tablet)というものもあります。
 注射剤、ことに静脈内注射(静注intravenous injection, i.v.)の場合は、薬が直接循環血液中に入るため、直ちに作用部位に到達し、効果を現します。筋肉内注射(筋注intramuscular injection, i.m.)や皮下注射(皮下注subcutaneous injection, s.c.)の場合は、効果発現は静注後よりはやや遅れますが、経口投与後よりはるかに早くなります。

*余談:薬の旅では、血管がいわば街道のようなもので、そこには「血液‐脳関門(blood-brain barrier, BBB」や「血液-胎盤関門」という関所もあって、体にとって異物である薬が重要臓器である脳や胎盤に直接入らないような仕組みになっています。ですから、脳や胎盤に作用する薬は逆に、ここを通過できる物質を選ぶか、通過できるような分子設計上の工夫が必要です。

2. 分布の過程
 肝臓での代謝を免れた薬物は肝静脈・大静脈を経て心肺系に入り、全身を循環して、その薬を必要とする部位に分布(distribute)し、受容体と結合します。しかし、薬物は作用部位の受容体だけでなく、血液中の蛋白(アルブミンなど)とも結合します。薬物が血液中の蛋白と結合すると、分子が大きくなりすぎて血管壁を通過できないため、作用部位の受容体と結合できません。したがって、蛋白と結合していない遊離型(free)の薬の濃度が重要です。
 薬の血中濃度は投与直後には0ですが、吸収され、循環血に入る量が増えるに従い上昇して、一定時間後(最高血中濃度到達時間Tmax、薬によって異なる)に最高血中濃度(Cmax)に到達し、その後徐々に、あるいは薬によっては急激に、減少していきます**。これをグラフで表したものを血中濃度-時間曲線(blood concentration-time curve)といい、身体が利用できる薬物濃度の推移を表します。この曲線と縦軸(血中薬物濃度)、横軸(時間経過)で囲まれた範囲を血中濃度-時間曲線下面積(area under curve, AUC)と言い、循環血中に入った薬物の量の指標です。静脈内投与後のAUCを投与量とみなしてこれに対する経口投与後のAUCの割合を表したものを生物学的利用率(バイオアベイラビリティbioavailability)**といいます。
  *投与した薬は一定時間後に何%が血中に、何%が目的とする組織中に、さらに何%が他の組織(消化管、肝臓、心臓、腎臓、膀胱など)中に分布し、それは時間の経過とともにどう変化するのか。これをヒトで直接調べることはできませんが、動物では全身オートラジオグラフィー(whole body autoradiography)で調べることができます。これは放射標識した(radio-labeled)薬物を動物に投与し、決められた時間ごとに殺処分して、その凍結切片における放射能の組織分布を画像で示すもので、この画像を比較することにより薬物の経時的な体内分布がわかります。
  **生物学的利用率= 経口投与のAUC/静脈内投与のAUC x 100 (絶対的バイオアベイラビリティ)

3. 消失の過程-代謝と排泄 さて、薬の旅も道半ばを過ぎ、ある者は首尾よく作用部位に到達して役目を果たしましたが、ある者は血中蛋白に捕らえられて目的地に達せず、さらに別の者は早々と肝臓で代謝されて元の姿を失ってしまいました。しかし、目的を果たした者も果たさなかった者も、体外に出て旅を終えなければなりません。生体は異物である薬を体内から排除しようとするからです。血液や組織から薬物が出ていくのが消失(elimination)の過程です。消失速度の指標のひとつとして、血中薬物濃度が1/2になるのに要する時間を(消失の)半減期(half-life)といい、t1/2で現します。
 消失の過程で、薬は体外に出しやすい形に姿を変えられます。水溶性(water-soluble)の薬物であれば、腎臓がこれを尿に溶かして排泄(腎排泄renal excretion)します。腎臓の能力を超えた量の薬物は体内に蓄積(accumulate)し、血中濃度が高くなります。腎機能が低下している場合には、排泄できなかった薬物によって副作用が出やすくなりますので、ヒトに使う際は投与量を調整します。薬物が血漿中から尿中へどの程度排泄されるか、という指標が腎クリアランス(clearance)です。
 水に溶けにくい脂溶性(fat-soluble)の薬物の場合は、肝臓で代謝し、水に溶けやすい方向へ変換(極性化)した後、この代謝物(metabolite)を胆汁中に溶かして、糞中に排泄、あるいは尿中に溶かして排泄します。
 肝臓が薬物を代謝する際に重要なのが薬物代謝酵素(drug metabolizing enzyme)です。これは動物とヒトでは一部異なりますが、特に重要なのがチトクロムシトクロムcytochrome)P-450と呼ばれる電子伝達系の一連の酵素で、細胞内の酸化還元に重要な働きを示します。P-450は15種類のサブファミリーから成るスーパーファミリー(分子種)を形成しています。そこでcytochromeを表すCYPの後にファミリー〈数字〉、サブファミリー(アルファベット)、サブファミリー内の連番を付記して分類します。CYP3A4、CYP2D6のように。大親分CYPの下に子親分1、2、3、孫親分A、B、C、子分1、2、3でしょうか。
 同じ代謝酵素で代謝される複数の薬物を併用すると、互いに代謝を阻害することがあり、このような現象を薬物相互作用といいます。これによって副作用が現れることがあるので、薬を併用する際はその組み合わせに注意が必要です。
 薬物代謝酵素には個体差があり、特定の薬物代謝酵素が欠けている場合(遺伝多型polymorphism)には、その代謝酵素によって代謝される薬物が代謝されず、体内に蓄積します。ヒトの場合、個体差だけでなく、民族差(ethnic difference)もあるため、薬の開発において、他地域〈例えば欧米〉のデータが日本には当てはまらない場合があります。ICHでは3極(tripartite日・米・欧)間で調和を図り、相互にデータを提供したり、国際共同試験(global study)を行ったりしていますが、この民族差のために支障が生じる場合もあり、これをどのように扱うかは国際共同開発の課題です。

では、最後に例題を訳してみましょう。

(例題)
1. Absorption of XYZ123 after oral administration is rapid, although the amount absorbed varies widely.
2. XYZ123 is highly bound to serum protein (94-97%), mainly serum albumin.
3. Of the absorbed dose, 70% is excreted in the feces and 30% in the urine, mainly as unchanged compound.

(訳)
1. 経口投与後のXYZ123の吸収は、量的には広範囲に亘るが、速やかである。
2. XYZ123は血清蛋白、主として血清アルブミンに高度(94-97%)に結合する。
3. 吸収された用量のうち70%は糞中に、30%は尿中に、大部分が未変化体として排泄される。

次回はいよいよ臨床試験に入ります。


第3回 非臨床試験 (2)毒性試験


 今回は非臨床試験のうち、毒性試験についてお話します。

 毒性試験とは、動物に被験物質を投与して有害な作用(毒性)の有無を検討することによって、薬物としてヒトに投与した時の安全性を確保するために行う試験です。主なものは単回投与毒性試験、反復投与毒性試験、生殖発生毒性試験で、そのほかにがん原性試験、遺伝毒性試験、免疫原性試験、トキシコキネティクスなどがあります。
 毒性試験の多くはICHで様々な段階の合意に達しており、国内のガイドラインはICHのガイドラインにおおむね対応していますので、翻訳の参考にできます。(医薬品毒性試験法ガイドラインの改正ほか)(http://www.pmda.go.jp/ich/safety.htm)。
毒性試験関連の用語集としては「トキシコロジー用語事典」(株式会社じほうhttp://www.jiho.co.jp/shop/goods/goods.asp?goods=31381)があります。

1.単回投与毒性試験(Single-dose toxicity study)

 この試験の目的は、被験物質を哺乳動物に1回だけ投与した時の毒性(単回投与毒性 single dose toxicity)(急性毒性acute toxicityともいう)を明らかにすることです。 2種(species)以上の動物(主にマウス、ラット、少なくとも1種は雌雄)を用い、原則としてヒトに用いる予定の経路 (administration route)で投与します。毒性の徴候(signs)を把握でき、しかも、用量反応関係(dose-response)(用量に応じて毒性徴候が強まっていくこと)が認められるように用量段階(dose level)を設定します。  試験期間中(通常、14日間)、毒性徴候の種類、程度、推移及び可逆性(reversibility)を用量との関連で観察・記録します。観察期間中の死亡動物及びげっ歯類(rodents、ネズミ、リスなど)は試験終了時に全生存例を剖検(autopsy解剖)します。剖検時肉眼で異常が認められた場合は病理組織学的検査(hystopathological examination顕微鏡などで組織を観察)を行います。  試験結果から被験物質の概略の致死量(lethal dose)を求め、ヒトに投与した時の毒性予測の参考にします。

2.反復投与毒性試験(Repeated-dose toxicity study)
 

反復投与毒性(repeated dose toxicity)(chronic toxicity慢性毒性ともいう)試験の目的は、被験物質を哺乳動物に繰り返し投与後の毒性変化(徴候など)を記録すること、及び毒性変化を起こす用量(毒性量toxic effect dose)と起こさない用量(無毒性量non-toxic effect dose)を検索することです。
 2種以上の動物(げっ歯類では1群雌雄10匹以上、非げっ歯類では雌雄3匹以上)に、ヒトの予定投与経路で、その予想使用期間に応じげっ歯類で6ヵ月、非げっ歯類で9ヵ月間投与します。
 用量段階は毒性量と無毒性量を含む少なくとも3段階で、かつ用量反応関係が見られるように設定します。また被験物質を投与しない(溶媒投与vehicle又はmedium)対照群(control group)を設けて比較対象とします。
 観察及び検査項目は一般状態(clinical symptoms)、体重、摂餌量(feed consumption)、飲水量、血液検査(hematology)、尿検査(urinalysis)、眼科的検査(ophthalmology)その他の機能検査などです。なお、毒性変化が可逆性であるかを見るため、回復性試験(recovery study)を行うことがあります。
 投与期間中の死亡及び極度の衰弱例(debilitated animal)は途中で剖検を行い、さらに、投与期間終了時に全例の剖検を行い、病理組織学的検査も行います。

ここで少し目先を変え、上記の説明を参考に以下の英文を和訳してみてください。(出典:Duration of Chronic Toxicity Testing in Animals (Rodent and Non Rodent Toxicity Testing http://www.pmda.go.jp/ich/safety.htm)

1. OBJECTIVE

The objective of this guidance is to set out the considerations that apply to chronic toxicity testing in rodents and non rodents as part of the safety evaluation of a medicinal product. Since guidance in not legally binding, an applicant may submit justification for an alternative approach.
〈中略〉

3. BACKGROUND
During the first International Conference on Harmonisation in 1991, the practices for the testing of chronic toxicity in the 3 regions (EU, Japan, and US) had been reviewed. Arising from this it emerged that there was a scientific consensus on the approach for chronic testing in rodents, supporting the harmonized duration of testing of 6 months. However, for chronic toxicity testing in non-rodents, there were different approaches to the duration of testing.

The lack of harmonized duration led to the need for pharmaceutical companies to perform partially duplicative studies for both 6 and 12 months duration when developing new medicinal products. As the objective of ICH is to reduce or eliminate the need to duplicate testing during development of medicinal products and to ensure a more economical use of material, animal and human resources, while at the same time maintaining safeguards to protect public health, further scientific evaluation was undertaken.

(訳例) 1.目的
本指針の目的は、医薬品の安全性評価の一部としてのげっ歯類及び非げっ歯類における反復投与毒性試験に適用する留意事項を設定することである。指針には法的拘束力はないため、申請者は別の方法の妥当性を提起してもよい。
〈中略〉
3.背景
1999年のICHにおいて、3極(EU、日本、米国)における反復投与毒性試験の実施方法を再検討した。これに基づき、げっ歯類への反復投与試験の方法について、投与期間を6ヵ月とすることを支持するという科学的な合意に至った。しかし、非げっ歯類の毒性試験の期間については異なる提案が出された。 投与期間に関して合意に達しなかったため、製薬会社では新医薬品の開発において6ヵ月と12ヵ月の部分的に重複する試験を行わざるを得なくなった。ICHの目的は医薬品開発における試験の重複を軽減もしくは削減し、実験材料、動物、人材のより経済的な使用を保証し、同時に医療サービスを守ることでもあるため、さらなる科学的評価が行われた。

いかがでしたか?これはガイドラインで、試験報告書ではありませんが、内容を理解し、その分野の用語に慣れておくことは、どの分野の翻訳にも必要なことです。

3.生殖発生毒性試験 (Reproduction toxicity study)

 

この試験の目的は、被験物質が哺乳類の生殖発生に及ぼす影響を検討し、その知見を他の毒性試験結果、薬理試験結果などに照らして、ヒトの生殖発生に対する危険性の判断材料を提供することです。
 親動物にさまざまな段階で被験物質を投与して、親世代の生殖機能(reproductive function)と子世代への影響を検討します。投与期間によって3種の試験、すなわち、投与期間を着床時点までとする「受胎能(fertility)及び着床までの初期胚発生に関する試験」「出生前(prenatal)及び出生後(postnatal)の発生並びに母体の機能に関する試験」及び投与期間を器官形成期終了までとする「胚・胎児発生に関する試験」に分けられます。
試験に応じて、以下の項目を観察します。
A.交尾前(premating)~受精(conception)[親世代の生殖機能、配偶子の発生及び成熟、交尾行動
(mating behavior)、受精]
B.受精~着床(implantation)[親の生殖機能、着床前発生(preimplantation development)、着床]
C.着床~硬口蓋閉鎖[親の生殖機能、胚発生(embryonic development)、主要器官の形成]
D.硬口蓋閉鎖~妊娠終了[親の生殖機能、胎児発生と成長(fetal development)、器官発生と成長
  (organ development, organogenesis)]
E.出生~離乳(weaning)[親の生殖機能、新生児(neonates)の子宮外生存(extrauterine life)への適応、
  離乳前の発生と成長]
F.離乳~性成熟(sexual maturity)[離乳後(postweaning)の発生と成長、独立生存への適応、完全な
性機能の獲得]

ヒトと実験動物では、妊娠期間も薬の代謝も異なり、また動物種によって特徴的な奇形もあり、動物での結果がそのままヒトに当てはまるわけではありません。さまざまな条件を考慮して、ヒトの生殖に対する影響を検出しやすいように、投与経路、用量、投与期間、観察項目などを設定して動物試験を組み立てます。動物で影響の見られた用量がヒトではどのくらいに相当するのかを、動物試験結果をヒトに外挿する(extrapolate)と言います。

4.その他の毒性試験

 上記のほかにがん原性試験(動物への長期投与により、ヒトでの発がん性を検討)、遺伝毒性試験(培養細胞などに被験物資を添加して、細胞の変異を検討)、免疫原性試験(免疫機能に対する影響の評価。過敏性、アレルギーなどを含む)などがあります。これらの試験の実施は、被験物質の投与期間や薬物の特性によって、求められる場合と、必要ない場合があります。また、トキシコキネティクス試験は様々な毒性試験の用量と毒性の関係を薬物濃度との関連で検討し、ヒトでの安全性評価の参考にするものです。これらの試験の詳細は関連ガイドラインなどを参照してください。(http://www.pmda.go.jp/ich/safety.htm)




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プロフィール

横田晴子

横田晴子さん:Seiko Yokota
国際基督教大学を卒業後、株式会社医学書院にて内科雑誌の編集を担当。その後サンド薬品株式会社にて、医療機器開発、医薬品開発関連の翻訳を担当。合併によりノバルティスファーマ株式会社となってからも、医薬品開発関連の翻訳および翻訳外注管理を担当。2003年には同社にてメディカルライティング部署創設に参画。退職後は外部委員として社内治験審査委員会に参加し、また、フリーランス翻訳者として医薬品開発関連の翻訳に従事。