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翻訳者インタビュー 第一線でご活躍されている翻訳者の「仕事」「自分らしい生き方」
「プライベート」など、生の声をご紹介します。

Vol.48 「霊媒師のように」翻訳したい

【プロフィール】
M.Kさん
早稲田大学を卒業後大手出版社に就職。その後書店での勤務中より本格的に英語の勉強を始める。米国に留学し、帰国後はメーカーや官公庁等様々な業種にて社内翻訳に携わる。現在はフリーランス翻訳者としてファッション分野から契約書まで様々なジャンルにてご活躍中。

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Kさんにはテンナインに2013年よりご登録頂き、いつも迅速なレスポンスと正確で丁寧な仕上がりの翻訳で大変ご活躍頂いています。硬い文章からやわらかい文章まで、自由自在に英語と日本語を表現されるKさん。今回はご多用の中、快くインタビューをお受け下さいました。

Q1:英語は昔からお得意だったのでしょうか?
 いいえ(笑)学生時代、私は本当に英語が苦手だったんですよ。大学4年のときに英検2級に落ちてしまって、友達に「大丈夫?」と言われるくらいできていませんでしたね。ただ、外国の方とコミュニケーションをとることには昔からとても興味がありました。私は以前書店で働いていたことがありまして、当時はほとんど英語が話せなかったのですが、外国人のお客様がご来店されたらいつも私が対応しに行かせてもらっていましたね(笑)

Q2:書店に勤務されていたのですね。本がお好きだったのですか?
 そうですね、本は好きでしたね。特に書店が大好きでした。読書好きが高じて新卒では出版社に入社しました。そこでやった雑誌編集の仕事はとても楽しかったです。ただ、編集者にはいい意味でのこだわりと柔軟性が必要だと思うんですけど、私の場合は頑固で優柔不断でしたので(笑)、あまり向いていなかったかもしれないですね。

Q3:英語はどうして勉強するようになったのですか?
 編集の職を経て書店で働いていたときに、外国人のお客様への対応などで必要になり英会話や読み書きの勉強を少しずつやり始めたのが最初のきっかけでした。まずはわかりやすい目標があったほうがいいかなと思いまして、英検やTOEICの勉強をしていました。あとは同時にマンツーマンでの英会話レッスンも受けていました。自分がまだ話せなかったので、リスニング能力ばかり鍛えられていましたが(笑)
 その後、実は離婚をしまして。そのまま書店で働くという選択肢ももちろんあったのですが、これからのことをもう一度きちんと考えなければと思ったんですね。そのときに、自分自身興味があって、それを勉強しながら仕事にできる――そういうものが自分には英語しかなかったんです。その当時ちょうど英検2級をとったくらいだったと思いますが、英語だったら、仕事をしつつ力をつけていけると思ったんですね。初めて英語を使ってした仕事はテレビ局のオペレーターでした。その後も一般企業の事務スタッフとして英語を使って働いていくうちに、翻訳に興味を持つようになり、夜間学校に通って翻訳の勉強を始めました。

Q4:翻訳にはどうして興味を持たれたのでしょうか?
 昔から日本語でなにかを書きたいという思いはありました。大学のときにはバンドをやっていて、自分で歌詞を書いていたのですが、当時はなんかこう――自分の中から湧き出るものがありました。今は年齢を重ねまして、そういう湧き出す感情というのはないんですけど、それでもなにかを書きたいなと思うんです。
 翻訳というのは、まずは誰かが誰かに伝えなきゃいけないことがあるわけですよね。それをその「誰か」が理解できるように書くっていう作業がすごく自分にはいいかもしれないと思ったんです。なにかを書きたいのに書きたい内容はないという今の自分に。
 私は実は昔は精神科の医者になりたいと思っていました。人間に興味があって、人が何を考えているのか、どうしてそれを言っているのかを考えるのが好きで。だから言葉に興味があるのだと思います。ただ、最近は人それぞれでいいのではと思うようになり、分析癖はだんだんと抜けてきましたが(笑)

Q5:翻訳の勉強はどのようにされましたか?
 しばらくは昼間働いて夜間翻訳学校に通うという生活を送ったあと、思い切って一年間アメリカのオレゴンに留学しました。私はずっと英語のスピーキングに自信がなくて、それをいつも「留学してないから」だと自分に言い訳をしていたんですね。それなら留学してしまえばいいと思ったんです。そうしたらもう言い訳できませんから。
 留学中に基本的な翻訳の通信講座も受講しまして、帰国後は派遣で翻訳の仕事を本格的に始めました。とにかくまずは翻訳スタッフとしての実践を重ねたかったので。とはいえ、最初はどれも翻訳専任のスタッフではなく、事務も行いつつでしたね。精密機械の会社や中央省庁、環境系の団体などで経験を積みました。正直に言って私の場合は専門分野というものがなかったので、まずは色んな分野の仕事をやってみて、その上でこれから自分がどうしていきたいかを考えていこうと思っていました。私は職場にとても恵まれまして、翻訳の実践的な技術などもそこでかなり教えて頂きましたね。
 そのようにして当初の希望どおり、10年ほど「仕事兼勉強」期間を経まして、自分にある程度自信を持てたタイミングでそろそろかな、とフリーランスとして独立を決めました。

Q6:出版翻訳者としての道もお考えになりましたか?
 出版翻訳も少しは考えましたね。ただ出版翻訳は、自分の生活の糧としてやっていくのがすぐには無理ですので、当時は正直まずは「食べていく」ことを考えて、実務翻訳をしようと決めました。
 今は実務がメインではありますが、出版のお仕事としては、主に本を読んで概要を書くリーディングを中心にやらせて頂いています。分野は実用書ですね。出版翻訳は終わりがないというか、「落としどころ」をどこで決めるかが本当に難しいなと思いますが、とても楽しくお仕事させて頂いています。ノンフィクションやエッセイの翻訳に興味があり今後やってみたいと思いますが、小説は二の足を踏んでいます(笑)余裕があれば勉強してみたいのですが、今はまずは実務の方を頑張らなければいけませんので。

Q7:お得意なジャンルはありますか?
 現在、定期的に頂いているお仕事はファッション関係ですね。ファッション系のトレンドなどが多いです。ファッション分野の翻訳は、トレンドだけではなく、素材やスタイルの名称など専門知識が必要になるので、今でも難しく、一番時間のかかる分野です。専門用語はカタカナのままで良いのか、日本語に直さなければならないのかなどの判断も必要になりますので、逐一確認、調査しながら作業を行っています。私は特に前職などでアパレル関係の経験があるわけでもなく、そういう意味では私の経歴って現職に全然役に立っていないなと思うのですが(笑)、やっていてとても楽しいですし勉強になりますね。

Q8:翻訳という仕事の一番の面白さは何ですか?
 誰かが書いたものがあって、それを伝えたいけれどそのままの言葉では分からない人がいるから翻訳する――その状況自体が私には面白いと思います。実際には無理なのですが、私の一番の理想は「機械」のようになることなんです(笑)自分が素晴らしい「変換機」のようになって英語が自分の中を通り過ぎて、正確で最適な日本語にして出したいと思っています。
 イメージは霊媒師ですね。他のエージェントさんに登録する際に、どういう翻訳者になりたいですか?という質問に対して「霊媒師みたいになりたい」と答えてびっくりされたことがあります(笑)つまり原文の意味や書いた人の気持ち、伝えたい内容を100%出せたら1番いいなということなのですが。伝えたいけれど自分では伝えられないという状況を、何とかしてあげたいなって思うんですよね。おせっかいかもしれないのですけど。

Q9:難しいことや苦労されていることはありますか?
 発想や文化が全く異なる方が書かれた文を考えて翻訳しなければいけないところですね。自分が受けた英語教育や1年間の留学経験だけでは、やはり心の底から英語的な発想はできません。どうしても「学校英語」に引きずられがちなんです。そこが楽しいところでもあり、難しくもありますね。たぶんずっと悩み続けると思います。
 あとはリアルな話で申し訳ないのですが、税金ですね(笑)フリーランス2年目に対する住民税が、途中まで給与所得者だったその前年の20倍になっていまして、とてもびっくりしました。翻訳者はあまり経費がかからないのですが、これはもうどうにか経費を増やして税金対策をするしかないですね(笑)

Q10:プロの翻訳者として心掛けていらっしゃることは何ですか?
 お仕事のお問い合わせを頂いたら、その仕事を引き受けるにしても受けないにしても素早くレスポンスをしています。皆さん毎日たくさんのメールを受けると思うのですが、私は逐一返していかないと気になってしまって仕事が進まないんです。1時間に1回など、ある程度まとめて返信するほうが効率が良いという方もいらっしゃいますが。
 あとは丁寧な調査ですね。わからないことはもちろん調べますが、簡単な単語でも意外に知らない言い回しが未だにあったりするので、簡単な単語ほど調べます。二度手間、三度手間になることもありますが、きちんと見直しをしないで納品するのは有り得ないですね。
 それから、皆さんそうだとは思うんですけど、私納期に遅れるのは絶対に嫌なんですよ。遅刻とかも嫌いで、遅刻するくらいだったら休んじゃう、というくらい。なので、納期は絶対に守るというのを常に心掛けています。

Q11:どうもありがとうございます。フリーランスですとスケジュール管理が大変ではないですか?
 きっちりやること自体は嫌ではないです。自分を追い込むのもけっこう好きだったりします(笑)時間管理は結構得意です。早いときは朝6時くらいから仕事をしていますが、家事などがあるので16時から20時までは仕事はしないと決めていて、仕事があるときはその後またやります。外出するときもあるので時間は変わったりもしますが、基本的にはこのようなスケジュールですね。最初の3年までは夜や土日も関係なく仕事しようというのは決めていましたが、睡眠時間だけはさすがに何日も削り続けられないですね。

Q12:最後に今後の目標、やってみたいことをお伺いさせて下さい。
 自分で納得のいく翻訳ができた、という実感をさらにもてるようになっていきたいですね。もちろん今も納得したものを出してはいるのですが、もっと違う形があるかもと思うこともありますので。そのためにも、最近はどうしても英語の文章ばかりで、日本語を読む機会が減ってしまったので、もっと日本語を読んでいきたいと思っています。どうしても自分が書きがちな日本語の癖というものがあるので、もっと違う表現を学んだり、自分が知らない言葉を覚えたりしていきたいですね。
 あとは、私はやはり「人の言葉」を訳すのが好きなので、その人の気持ちになって訳したり、色々と想像して訳したりできるお仕事を今後はもっとしてみたいです。今は趣味で行っているだけの歌詞の翻訳なども興味がありますね。主語がわからなかったりしますのでとても難しいのですが、とても楽しいです。先日頂けた脚本翻訳のお仕事もとても面白かったので、今後さらに手掛けてみたいですね。

Q13:これから翻訳者を目指す方に一言お願いいたします。
 皆さん、初めはどうしていいかわからないと思うんですね。トライアルを受けるにしても未経験者はNGという場合もありますので、まずは派遣で翻訳を経験してみるのがいいと思います。経験してしまえばトライアルも受けられますので。トライアルを受けるタイミングもあまり気にしなくて良いと思います。不合格が多いのであればまずは経験を積んでいけばいいですし、学校などに通うより仕事してしまったほうが個人的にはいいと思います。それぞれの業界特有の言い方が覚えられますし、周りの方からのフィードバックももらえますし。それが今後役にたつかどうかは別にして、色々なものを見ておいたほうが良いかと思います。もし既に興味のある分野があるなら、まずはその分野の会社に入ってしまって、その会社内で「翻訳ありませんか?」と自分を売り込んでもいいと思います。まずは行動あるのみ!ですね。

【編集後記】

 とても独創的で面白い考え方をされるKさん。お話を伺えば伺うほど聞き入ってしまい、大変長いお時間を頂いてしまいました。「好きなことを日々勉強して、それを仕事にしたい」というずっと一貫した思いと、それを有言実行していらっしゃる人生がとてもかっこよかったです。書きたい、きちんと伝えたい、「霊媒師のように」書いた人の気持ちを翻訳したい――そういう思いで日々翻訳されているKさんをテンナインはこれからも応援し続けていきます。


Vol.47 ビジネスとしての翻訳

【プロフィール】
H.Sさん
明治大学経営学部を卒業後、半導体関連の商社に就職。その後翻訳コーディネーターなどを経て音楽配信会社の法務部で8年間英文・和文契約書の作成や審査の経験を積んだのち、フリーランス翻訳者として独立。
現在は契約書などの法律文書や金融・経済などの分野を中心にご活躍中。

2010年にテンナインにご登録いただいて以来、常に迅速かつ丁寧な翻訳で定評のあるSさん。特に契約書の翻訳は抜群の安定感でいつも頼りにさせて頂いています。お若いながらベテランさながらのお仕事ぶりの秘訣を伺ってきました。

Q1:どのようなきっかけで英語に興味をお持ちになったのでしょうか?
 最初に興味を持ったのは、高校生のときにアメリカへの交換留学から帰ってきたクラスメートがいて、英語を流暢に話す姿を見てかっこいいなと思ったときです。それで僕も、大学4年生のときに1年間休学してニュージーランドに語学留学に行きました。そこでは、日本で留学前に勉強したアメリカ英語と全然違うので、簡単な単語でも聞き取れなくてショックを受けたのを覚えています。例えば"airline"の"air"が"ear "にしか聞こえなくて分からなかったり。さすがに1年近くいたのでそこそこ話せるようにはなったのですが、そのときは英語を職業にしようとかそこまでは考えていなくて、将来役立てればいいなくらいにしか思っていなかったです。

Q2:翻訳という仕事を意識し始めたのはいつ頃からでしたか?
 かなり後になってからです。元々独立したいなとは大学時代から漠然と思っていたのですが、就職してからは日々の仕事に追われてそんなことは記憶の彼方に飛んでいました。最後に正社員として働いていたときに、法務部で英文契約書を審査する機会が結構あり、そこで100ページ近くある長い契約書を読んで訳したり直したりしているうちに、「これは商売になるのではないか」と思い、独立を決めました。
 翻訳コーディネーターの仕事をしたこともありました。コーディネーターは1年くらいしかやっていないので、そんなにベテランでもないのですが、翻訳会社内の事情やコーディネーターの苦労はよく分かります。お客様と翻訳者の板挟みみたいな立場で、どちらからも文句を言われて厳しいなと思うこともあったので、その辺の内情が分かるというのは今の財産になっています。

Q3:フリーランスに転向された時、悩みや不安などはありましたか?
 そうですね。皆さんそうだと思いますが、最初は仕事がたまにしか来ないので、納品した後にしばらく話がないと「切られたのかな?もうずっと仕事は来ないのかな?」というプレッシャーのようなものはありました。仕事が来ないときは勉強をしてスキルを上げる努力をしなければいけないのですが、それも正直あまり手につかなかったです。
 時間があるときにトライアルを受けたりはしていたのですが、あまり受けすぎるとそれなりに実力がついたときにもう受ける会社がなくなってしまうのではないか、という要らぬ心配をして、たくさん受けるのが憚られたりもしました。僕は全部で30社くらい受けましたね。合格率は6~7割くらいです。合格ラインに達していても、その分野に既に人がたくさんいたら不合格を出している場合もあると思います。今も、20社ぐらい登録はあるのですが、そのうち1回でも発注になった実績があるのは半分程度、コンスタントにやり取りがある会社は7~8社ぐらいです。ですので、インタビューを読まれる方も、トライアル自体はどんどんチャレンジしてもらっていいと思うし、落ちてもあまり気にしないようアドバイスしたいです。

Q4:翻訳の勉強はどのようにされていましたか?
 まずは翻訳の勉強というより、英語力を伸ばすために一般的な英語の勉強をしました。何をやったかというと、英字新聞をひたすら読んでいました。ひたすら辞書を引いて、大量に書き込みをして、1日中やっても1面も読めないくらいのスピードで、一文一文の意味を正確に把握する。いわゆる精読ですね。TOEICも受けましたが、翻訳の勉強としてはTOEICは入口にしかならないと思います。TOEICで高得点が取れたからと言って翻訳ができるとは限りません。でも翻訳を第一線でやっている方は必ずそれくらいの点数は取れると思います。
 翻訳者になろうと思ってからは翻訳学校で学びました。インターネット上の評判なども参考にしながら、通学講座を2つ、通信講座を1つとりました。通学は、自分と同じように勉強している人から刺激が受けられたり、先生と直接会話できたのが良かったです。一方、通信の場合はテキストと同時に解答も送られてくるので、つまずいたらすぐ解答を見てチェックでき、一瞬で解決できるのが良かったです。僕は課題だけじゃなくて、全部翻訳していました。月1回の課題だけでは全然足りないと思いますね。通信を始めたときは既に仕事も始めていたので、いつでも自宅でできるというのも魅力でした。個人的にはどちらの方が力が伸びたかと聞かれれば通信だと思いますが、人によると思います。自分を甘やかしてしまうと課題がたまってしまうという難点もありますが、そこさえコントロールできれば通信は有効だと思います。
 僕の勉強方法で意外と役に立ったのが、大学受験参考書です。英文解釈系の参考書はおすすめです。詳細な解説が書いてあるし、発行部数が多いから値段もお値打ちですし。なかには相当難しい参考書もあって、TOEICで良い点をとって天狗になっている自分の鼻を思いっきり折ってくれたといいますか(笑)、自分の実力を思い知らされたりしましたね。

DSCN0087.jpg※左の男性がH.Sさん

Q5:今はどのように勉強されていますか?
 基本的に仕事を真面目にやっていれば色々なことを調べるので、それが勉強になっていますが、それ以外にはここ2年くらい、月に2回程度ネイティブの先生にマンツーマンで英語を習っています。英会話を学ぶわけではなく、自分が英訳した一般のニュース原稿やWEB上の規約を、先生と会話をしながら目の前で添削して頂いています。そしてそれを自宅に持ち帰って自分でも再度チェックします。地味なのですが、英語を書く力がかなりつくと思います。2年間通い続けていると、直される箇所も激減してきて、自分の力が伸びているという自信にも繋がります。今は安い英会話学校もあるのでおすすめなのですが、真似されるとライバルが増えるのであまり商売敵に情報は与えたくない気もします(笑)

Q6:翻訳という仕事のどこに面白さややりがいを感じていらっしゃいますか?
 色々ありますが、自分の好きなことを仕事にしてしまったというところがあるので、好きなことをやりながら生活の糧を得られるというのが一番の醍醐味です。あとは、仕事を数多くこなすことで能力がついてきていることを実感できるところ。それから、僕が得意としている契約書の出資関係や上場関係の分野でスピードをもって安定してこなせる翻訳者さんはあまりいらっしゃらないという自負がありまして、そこで自分の翻訳者としての持ち味を出しているという感覚があるのでやっていて楽しいです。自分が翻訳したことでクライアントさんのビジネスが進んでいるということを考えると、社会貢献や社会との関わりを感じるのも面白さのひとつですね。

Q7:逆に大変だと感じていらっしゃることはありますか?
 英文を日本語に訳すときですが、必ずしも英語原稿をネイティブが書いているとは限りません。そういうときは原稿の質によってはかなり苦戦することがあります。普通なら2時間で終わる内容が4時間経っても終わらないという場合もあります。
 それから体調管理ですね。自分の翻訳スピードはだいたい把握しているつもりですが、内容がことのほか難しかったり、原文の英文に問題があったりして、予想以上に時間がかかることがあります。そうすると、例えば夜中の12時に終える予定の仕事が3時くらいまでずれ込んでしまって、また次の日も朝から仕事が入っている、というようなときは寝不足で臨まなければいけないので辛いです。あとは、やはりとにかくずっと座って仕事をしていると運動不足になるので大変です。先日健康診断を受けたのですが、血圧が高いだの、お腹周りがやばいだの、メタボ予備軍だのと散々言われてしまいました(笑)

Q8:お仕事をされる際に心掛けていることやモットーはありますか?
 フリーランス1~2年目のころは、ある1社から主にお仕事を頂いていたのですが、ある時から依頼数が減り、その1社に収入を依存していたのでそれが激減してしまい困ったことがありました。なので、その反省を生かして今は7~8社から依頼を頂き、1社に偏らないようにしています。4~5社くらいで充分な仕事量はあるのですが、社会人としてスケジュールに空白を作りたくないので、10社くらいまでは確保しておいて良いのではないかな、と思っています。その分お断りする仕事も出てきてしまいますが。
 それから、不当に安い単価では仕事は受けないようにしています。翻訳会社によってはあまりにも翻訳単価が低かったりするところもやはりありますので。不利な立場で、安い金額でやってらっしゃる翻訳者さんもライバルではありつつも同業の人なので、これからも自分だけじゃなくて翻訳者全体の地位向上には微力ながら貢献していきたいと思っています。

Q9:基本的な生活リズムを教えて下さい。
 普段は10時くらいに起きて、まずはメールチェックをします。仕事がひっ迫しているときはそのまま仕事を始めますが、スケジュールに結構余裕があるときはもう一眠りしたりするときもありますね(笑)そこからお昼ご飯を食べて、仕事を始める、という流れが多いです。そのあとは適当にお休みを取りながら、ひたすら深夜12時くらいまでお仕事をしています。気分がのっているときは3時くらいまでやってしまう時もあります。僕は夜のほうが集中できるので。
 土日は少し気を抜いたりもしますが、基本的には仕事の依頼が来れば受けますので、あんまり平日と変わらない日を送っているときが多いですね。長い休みもだれてしまうので、休みたいって心から思うとき以外は基本的には必要ないかなと思っています。3日位休めばもう、仕事がしたくなってしまいますね。まだ翻訳者としては割と若手の部類に入るので、若いうちは仕事を一生懸命やりたいなと思っています。

Q10:趣味やリフレッシュ方法はありますか?
 音楽教室がやっているビッグバンドに入っていて、そこでアルトサックスをやっています。6年半くらい続けているので、実はフリーランス歴よりちょっと長いんです(笑)大勢で合奏するのがとても楽しいし、楽器演奏は普段と全然違う頭の使い方なので、気分転換にもなります。楽譜はいまだに読むのが得意じゃなくて、ドとかレとかルビを振ったり(笑)、四苦八苦しながらやっています。

Q11:今後の目標や、やってみたいことがあれば教えて下さい!
 まずはこの仕事をどんどん発展させていきたいです。とはいっても人を雇ったりとかは全然考えていなくて、自分のスキルを向上させていきたいなと思っています。例えば3時間かかることを2時間半、2時間でできるようになればそれだけ多くの仕事が引き受けられて収入も増えます。僕はビジネスとしてやっている以上はもっと成功して収入を上げたいと思っていますし、大きな仕事もやってみたいですね。いわゆる「売れっ子」になって、次から次へと仕事が舞い込んでくるみたいな、そういう翻訳者になりたいなって思います。小さい目標なんですけど(笑)
 分野は法律をコアに、金融・経済とか、環境とかもやってみたいと思っています。徐々に対応可能な分野を増やしていきたいと思っていますが、あまりにも関連がない科学技術とか医学系の分野に足を突っ込むと足元をすくわれそうな気もするので、その辺は慎重にいこうと思っています。

Q12:最後に翻訳者を目指す方へのメッセージをお願いします。
 基本的には商売敵になるポテンシャルを持った人たちなので、あんまり迂闊なことは言えないんです(笑)もしこれを読んでいる方で、翻訳者になられる方がいたら、その時はお手柔らかにお願いしますね。

DSCN0092.JPG※H.Sさんと翻訳部スタッフ一同

編集後記

 社会貢献、翻訳者の地位向上、ビジネスとしての翻訳。そういった言葉がインタビュー中何度もSさんの口から聞かれ、Sさんのプロの翻訳者としての意識の高さ、視野の広さに改めて感銘を受けました。翻訳という「ビジネス」に誇りをもって、そしてとても楽しみながらやっていらっしゃるのが文章からも伝わればいいなと思います。「この記事を読んで、皆さんがやる気になれば」とお話し下さったたくさんのアドバイスや経験談を、皆さんぜひご参考にしてみて下さい。


Vol.46 知的好奇心を満たしてくれる翻訳は一生の仕事!


和文英訳翻訳者
カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(U.C.L.A.)文理学部スペイン文学科卒業。
大手電機メーカーの関連会社にて技術翻訳、コンサルティング会社にてアニュアルレポートの作成・翻訳、そしてまた大手電機メーカーの関連会社にて半導体・技術・IT関係の翻訳に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。
約21年の実務経験を持ち、現在半導体・技術・IT・コーポレート・コミュニケーションを中心に、書物の翻訳を含めて様々な翻訳・編集プロジェクトに携わっている。

再三の(いや、執拗?!)ラブコールを送った末、やっとのことでご登場いただけたNさん。端正な顔立ちをみなさんにご覧いただけないのが残念ですが、お話しいただいた内容からその片鱗が窺えるのでは、と思います。ITの英訳と言えばNさんにお願い!という安定感たっぷりの翻訳に行きつくまでのご経験をいろいろ語っていただきました。

Q. Nさんが翻訳を仕事として目指すようになった時期ときっかけを教えてください。
A. 大学を卒業する2年前の夏に日本語講座を取ったらすごく面白かったんです。私は父が日本人、母がドイツ人なのですが、興味はありつつも自分から日本語を学ぼうとしたことはそれまでなかったんですね。その講座がきっかけで日本語をもっと勉強するために1年間日本へ留学しました。それが今に至るのですが(笑)その1年間は文法や漢字などを集中的に勉強しました。
その後、契約社員として印刷会社に勤務しました。英文のチェッカーとして雇われたと思っていたのですが、実際の仕事内容は仮刷りの校正で、元の原稿がそのまま忠実に移っているかどうか確認する作業でした。「ん??英語が違う??」という箇所があっても訂正不要、というロボットのような仕事内容でモチベーションを維持するのが難しかったんです(笑)

その会社には別に翻訳部署がありましたので自分にも翻訳ができるかな?と思って休憩時間を利用してその部署とコミュニケーションをとるようにしました。
ある日、今から考えるとトライアルだったかもしれませんが(笑)そこから頼まれた翻訳をしてみると・・・・数日後には翻訳部署へ異動になりました。
そこではほとんどマニュアルの翻訳をしました。
それが私を今現在に導いた最初の「翻訳」でしたね。
1年間の契約社員だったのでその次はコンサルタント会社へ1年間派遣で行きました。そこではアニュアルレポートの作成が主な仕事でしたが、これがすごく楽しかったです。
内容の半分は翻訳、残りの半分は実際にクライアントへインタビューをし、その内容を英語でライティングしたものでした。私は5~6社担当していたのですが、ここでの経験は社会人経験の浅かった私にとっては社会勉強と翻訳を同時に学べた場所でしたね。
ここで一番実感したことは、「情報処理能力」を養うことが大変重要だということでした。お客様から膨大な情報を得、翻訳に必要な情報を選別していく訓練はかなりできました。
アニュアルレポートの繁忙期である半年間を過ぎると、すごく暇な時期がありまして、その時はクライアントでもあった、ある会社の会長の自叙伝の翻訳を担当しました。それも含めてここでの1年間は翻訳に対してずいぶんと自信がついた時期でした。
ここでは2人1組のペアを組んでお互いの翻訳をチェックしていたので非常に効率よく、翻訳者としてレベルアップすることができました。こういう会社で経験を積むことは本当にお勧めです。
そこでの1年間の契約社員を経て、次はメーカーで半導体、技術とITについての翻訳を多く経験しました。
メーカーではトライアルに合格したものの、半導体や技術についての知識は皆無でした。そんな自分でも務まるのかな?と不安だらけでしたが先方からは「大丈夫です」と(笑)
原文を作成した方と直接コミュニケーションをとりながら翻訳することができたので知識もどんどん増えていき効率良く仕事ができましたね。このメーカーには最終的に5年間勤務し、コンピューターシステムや半導体の翻訳をかなり経験しました。これが1998年ごろです。このころ、結婚と子どもの誕生をきっかけにフリーランスへ移行することを真剣に考え始めました。朝早く出勤し、夜遅く帰宅する生活だったので寝ている子どもしか見ることができなかったからです。また収入アップという意味もありましたし(笑)
ただ、いきなりフリーランスになるにはあまりに何もわからないため、まずはエージェントに登録しました。平日帰宅後や週末はエージェントからくる小さめの仕事を受け、会社では今まで通り翻訳をするという生活を1年以上続けました。それをやるうちにフリーランスでやっていける自信がつき、現在に至ります。

Q .Nさんにとって翻訳の面白さはどこですか?
A.知的好奇心が強い人間には翻訳の仕事はお勧めです。翻訳を通していろんな業界を垣間見ることができますし、世の中や企業の中で起こっていることを知るのは本当に楽しいです。

Q .印象に残った仕事があれば教えてください。
A. 特定の仕事が印象に残っているというよりも、翻訳するときに色々と調べていくうちにその内容に詳しくなっていき、最終的にいい翻訳が出来上がる、そのプロセスを味わえる喜びがいつも心に残るという感じです。この喜びは何回も経験したことがあり、きっとこれからも何度も経験できると思います。この発見のプロセスと喜びが翻訳の大きな魅力の一つであり、私にとっては毎回印象に残ることです。

Q .リフレッシュ方法はありますか?
A. 翻訳という仕事は本当に体を動かさないので(笑)やはりスポーツすることですね。
ボクシング、テニス、自転車、ウォーキングを楽しんでやっています。ボクシングやテニスの仲間とたまにハイキングと飲み会もやって楽しんでいます。忙しい日々でなかなか暇がないですが、こういう風にできるだけ体を動かして、人に会うようにしています。体を動かさない(笑)気分転換は写真撮影と読書ですね。

Q 今後の目標があれば教えてください。
A. 常日頃思っていることですが、本当にいろいろな知識を増やしていきたいです。また、自分の得意分野のITでは翻訳だけでなく、プログラミングに挑戦したいですね。それができるともっと深みのある翻訳ができると思っています。
そして、これは目標というか自分の課題なのですが、フリーランスとして営業活動を積極的にやっていかなくては、と思います。リーマンショック後、仕事が減った実感があるので安定した仕事量を確保するのは課題ですね(苦笑)

Q .これから翻訳者を目指す方へアドバイスがありましたら是非お願いします。
A .たくさんありますが(笑)5つに絞ります。
まず、ひとつめはオンサイトで経験を積むことは絶対にお勧めします。自分の興味がある分野や、好きな分野ならなおいいのではないでしょうか。また、2社以上経験することもいいと思います。フリーランスになればいやでも一人で仕事しなければいけませんから(笑)多くの会社でたくさんの社会経験を積んでおくに越したことはないですね。

2つめは、勉強することです。専門知識を深く、一般知識を広く、身につける。そして、表現力を鍛える。書く人の観点から原稿を読んでみる。英語ネイティブでも英文を書く力はまた別のスキルだと自覚しておいたほうがいいですね。

3つめは・・・これはさきほどの自分の課題でもあると言いましたが、フリーランスであればビジネスマンの要素を磨くことは絶対に必要だと思います。特に「自己をアピールする力」です。仕事は勝手に舞い込んでこないことがありますからね(笑)

4つめは横のつながり、つまりほかの翻訳者さんとコミュニケーションをとることも大切です。要は他者とのコミュニケーション力ですね。思わぬ情報を得ることができたり、仕事の依頼がきたりします。

最後は、最新の翻訳ツールなど、作業を手助けるテクノロジーにアンテナをはることだと思います。使いこなせるようになるならなおいいのですが(笑)これも私にとっては今後の目標ですね。

あげればいくつでも出てきますがこのくらいにしておきます(笑)どうかがんばってください。


~Nさんの七つ道具~
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Nさん「一つ目はREALFORCEシリーズのキーボードです。今まで9つくらい試しましたがこのキーボードが一番気に入っています。最高のキータッチ感ですし、押す場所によってキーの重さが違うんです。例えば小指で押すキーは軽くなっていて、長時間タイピングをしてもなかなか疲れません」
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Nさん「2つ目はこの『Cats Paw(猫の手)』です。穴に指を入れて、掌を開ける運動をするものです。タイピングはどちらかというと掌を閉じる運動なのでこれをやると手のストレッチになります。翻訳の仕事をしているとタイピングのし過ぎで手首を痛める人が多いですよ。簡単に言えば腱鞘炎ですね。これはそれを緩和するために使います。私も一時期ちょっとだけ手首が痛かったんです。その時に毎日これを使ったら痛みがなくなりました」

3スマイル.jpgNさん
Nさん「3つ目はポストイットです。紙原稿を翻訳する際、文章が沢山並んでいると自分が今どこにいるか分からなくなります。そういう時は翻訳している所にポストイットを貼って、翻訳が終わったら1文ずつポストイットをずらしていきます。そうすると画面を見て原稿に戻ったときに、自分がどこの翻訳をしていたのかがすぐに分かります。探す時間のロスが減らせますし訳抜けも防げます。
あとは仕事のペースを掴むために、一時間で出来る文量毎にポストイットを貼っていきます。ポストイットには目標とする時間と実際に完了した時間を書いていきます。上手くいったときや、時間がかかったときは写真のようにマークを印します。それを机に貼っていくと一日にどれくらい翻訳することが出来たのかを『見える化』することが出来ます」
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Nさん「4つ目はマーカー&ペンです。マーカーは文章中に出てくる括弧を色別でハイライトすることで効率アップを図ります。ペンも、1つの文章ごとにアンダーラインを引きます。そうすると、どこで文章が終わるのか把握しやすいです」

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Nさん「5つ目は『Dual Monitor』です。これが私の職場ですがこのように画面が2台あります。翻訳するときは、原文はここ、辞書はここ、インターネットはここ、メールはここ、他の参考資料はここ、と位置が決まっています。そうするとすべてが見えるのでポンっとクリックするだけで出てくるので、それがかなりの時間短縮になりますよ。最初、翻訳をしていた時はノートパソコンでしたけど、今はもう戻れないです。
6つ目は原稿台です。これ便利なんですけど、前の会社にいたときは誰も使っていなくて、それが不思議でした。角度も高さも調整できるので首をひねることもないし、原稿を見やすく出来て効率アップにもつながりますね。
最後はiPadです。稀ですが、私が愛用しているブラウザーのせいかPCで見られないサイトがあったときにiPadだと見ることができる場合があります。あとは今2つPCの画面を使っているけれど、もう1つ画面が欲しいって時に写真のようにiPadを配置して使っています。あとはいろいろアプリを使っています。例えば仕事をしている時にいろいろ調べますよね。そこで面白そうな記事を見つけた時に「もっと読みたい、だけど今は時間が無い」という時に「Instapaper」というアプリを使っています。面白い記事を見つけた時はPCのブラウザでInstapaperに保存すると、その記事はiPadやiPhoneでも見ることが出来るので、あとで好きな時間にゆっくりと読むことが出来ます。翻訳者にとっても良いアプリだと思いますよ。あとは辞書とか使っています。PC版がないものもあってたいていお値段が安いのでお勧めです」


編集後記
穏やかな口調で、ひとつひとつ丁寧にこちらの質問にお答えする様子はいつもいただく翻訳内容さながら、でした。翻訳者になるとは夢にも思っていなかったそうですが、その言葉とは裏腹に、翻訳に対しての想いや貪欲なまでの向上心は聞いているこちらにはすごく伝わってきました!これからもよろしくお願いします。


Vol.45 ~金融分野の翻訳を極めたい~


土川裕子 Yuko Tsuchikawa

英語・スペイン語翻訳者
愛知県立大学外国語学部スペイン科卒業。
英文テクニカルライターとして輸出車用自動車の取扱説明書作成に携わった後、スペイン語・英語のフリーランス翻訳者として独立。
経済・金融翻訳を中心に約17年の実務経験を持ち、通信翻訳講座講師、翻訳セミナー講師等歴任する。共著に『スペイン語経済ビジネス用語辞典』(カシオ EX-word XD-D7500搭載)がある。

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弊社に登録して間もない土川さんに、年に数回東京にいらっしゃるというタイミングをつかまえてインタビューの申し入れをすると「いいですよ」と快諾!していただきました。
翻訳仲間と発行されているメルマガを読んで絶対に楽しいやろな~とすごく期待していたのですが案の定、それを絶対に裏切らなかった(笑)笑いにつつまれたインタビューになりました。

Q 土川さんが語学と深く関わるようになったきっかけは何ですか?

A 英語の「音」がきっかけです。
中学生のときに英語の授業で教科書を朗読するカセットテープを聞いて「音がかっこいい!」と感じたのがきっかけです。スペイン語も音がきっかけです。昔、NHK-FMで「世界の音楽」だったかな、そんなラジオ番組で南米の音楽を聞いたのがきっかけでした。主に好きだったのはサンバなのですが、ブラジルだからポルトガル語でしょ。でも当時はスペイン語だと思い込んでいましたので(笑)。それで「よし!スペイン語やろう!」と強く惹かれていきました。結局勘違いだったわけですが、スペインのギターも好きだったから、いいんです(笑)。

高校生の頃には大学ではスペイン科へ行こうと決めていました。でも、翻訳するほどにまで深くかかわるきっかけが何だったかは記憶がないんです。

大学時代はスペイン語で演劇をやっていました。そのときに「自分の作品を人に見せる」ということを意識し始めたように思います。翻訳も最終的には「人に見せる」ものを作る仕事ですから、自意識過剰とかそういうことではなくて(笑)、「人の視線を気にしてモノを書く」ことの基本を知らず知らず身に付けたのかなと思います。いま、翻訳者仲間と組んでスペイン語翻訳のメルマガを発行していますが、あれもすごく役に立っています。翻訳者の方にはお勧めです(笑)。原文に縛られずに日本語を書けるので、自分の本当の日本語力を確認できますし、人の目を気にしながら書くという意味でも訓練できます。

それで、とにかく英語の音が好きでしたので・・・洋楽は黄金の80年代ど真ん中世代で、たくさん聴いて、一緒に歌っていましたし、あとセサミストリート(笑)あれも大好きでした。
(ここで同世代がゆえ、ビリー・ジョエルの思い出の曲が話題にあがったのですが・・・・肝心の曲名を誰も思い出せず、翌日全てを思いだした土川さんからYouTubeとともにメルマガさながらの爆笑メールが届きました!)
セサミストリートを録音して、大好きな箇所をつないで延々と聴いていましたね。それを聴いて情感たっぷりに真似て声に出していました。アーニーとバートの一人二役とか(笑)。今思えば我流のシャドウィングですね(笑)でもあれで、英語のリズムが身体に染み込んだのかなあと思います。翻訳でリズムって必要?と思うかもしれませんけれど、スペイン語等に比べると、英語は特にリズム感で感覚的に理解するところが大きいように感じます。いまでも、どうしても理解不能なところは何度も声に出して読んで、著者の意図を探ったりします。わかるかどうかは別ですが(笑)。

中学高校時代はそんな感じで英語に触れ、大学時代はスペイン語にどっぷりつかっていました。一年生の頃は意味もわからないのに脚本を覚えて、演劇なので当然ながら身振り手振りを加えて(笑)でもあれもスペイン語の基礎を固めるには役に立ったかなと思います。

卒業後に入社した会社では英語のマニュアルの制作をしましていた。英語以外にも得るものがすごく多くて、編集者目線で仕事をするという姿勢が身につき、今でもその時の経験がすごく役にたっていますね。3年くらい勤めて辞めてしまったのですが、少しもったいなかったな、という気もしています。でも、時に月間120時間の残業もある激務だったので・・・(笑)。この頃にはもう自分は翻訳をやっていこう!と決めていました。

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退職後は、スペイン語の講座を4〜5年受けて、その後、通信講座の講師や翻訳のお仕事を少しずついただくようになり、1999年にスペイン語の辞書を作成するという大きなプロジェクトに加わりました。結局その辞書の仕事に6年ほど従事しました。何もないところからの地道な仕事で、朝から晩まで辞書漬けの日々。苦労をすぐに忘れる人なので、記憶はすでにおぼろですが(笑)。

それが終わったときに今後の自分の進路を改めて考えました。スペイン語の辞書は作ったものの(笑)、スペイン語翻訳の需要というのはやはり少ないんですね。そう考えたときにやはり英語もやるべきなのかな、と。もともとどちらの言葉も大好きですし。それと、辞書の仕事をしたことによって金融分野に特に興味が向いたので、それ以来まっしぐらです(笑)。

最初、ビジネス英語の講座をやってみたのですが・・・経済辞書は作っても、そんな広く浅すぎる知識では金融の専門翻訳ではまったく歯が立たないことがわかり(笑)、2年かけて証券アナリストの資格をとりました。資格取得はそこそこ大変で、これまたすでに記憶はおぼろなのですが、お金と時間がかかったことは確かです(笑)。金融翻訳をするのにアナリストの資格が絶対必要というわけではありませんが、資格をとる過程で得た知識は本当に役に立つので、迷っている方にはお勧めしたいです。

Q 土川さんにとって翻訳の面白いところはどこですか。

A まず・・・私自身は何でも楽しい人なので、どこと言われても困るのですが(笑)。ありきたりかも知れませんが、やはりあぁでもない、こうでもない、と訳を考えているときですね。ぴたっとくる訳文を考え出したときは、「これでしょこれ!!」と大声あげてしまいます(笑)。

原文の内容ということで言えば、英語とスペイン語を比較してみても、同じ事件や問題を扱っているのに、その問題にあてている焦点が全然違うことが面白いですね。言語によってまったく違う見出しがついていたり、なんでこの内容でこのリード文???と驚かされたり(笑)。結論がそれですか?みたいな。辞書を作ったときに、スペイン語、英語、日本語のありとあらゆる文章をほんとにたくさん読んだがゆえの話かもしれません。そうそう、辞書を作るときは大量の原文を読まざるをえないので、これまた翻訳者の方にはお勧めです(笑)。

Q 印象に残った仕事を教えてください。

常に今やっている最新の仕事でしょうか。その時々の仕事がどれも印象に残ります。

Q リフレッシュ方法はありますか。

A 今はちょっとした豪雪地帯に住んでいるので(笑)インドアでのリフレッシュ方法が主です。でも、天文関係者の夫も私も皆既日食を見るのが大好きでして(笑)新婚旅行で行ったメキシコで皆既日食を見ました、というか・・・・それにあわせて式を挙げて旅行したと言ったほうがいいかもしれません(笑)。今まで5回ほど皆既日食を見に行ってますが、もう止められなくて。地球上の行きやすい場所で見られるとは限らず、これまたお金がかかるので、そのために仕事しているようなものかもしれません(笑)。

あとはなにせ田舎に住んでいますので(笑)年3〜4回の上京でリフレッシュしています。都会の人とは逆に、満員電車を珍しがったりして、それがリフレッシュになったりするんですよ(笑)。

Q 土川さんの今後の目標を聞かせてください。

Aやはり金融分野を極めたいですね。金融の専門家じゃないと翻訳できないよ、といわれるものを訳していきたいです。

仕事以外ですと、宇宙に行くことかな(笑)家なんかいらないから宇宙に行きたいですね。家1軒買うなら宇宙2回行けるかな、と(笑)。

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Q フリーランス翻訳者を目指している方へアドバイスをお願いします。

Aまず、ここまででだいたいおわかりと思いますが、辞書の制作を除けば私は特別なことは何もしていなくて、自分で言うものなんですが、純粋培養です(笑)。留学しなきゃだめかとか、仕事で海外に行ったことがないとだめかとか、そういう疑問をよく聞きますけれど、そんなことはまったくない!と断言できます。そういう経歴がなくていまいちいじいじしている方も(笑)、ぜひがんばってください。あ、あと、ど田舎暮らしでもいまはまったく関係ありません(笑)。

それから、以前、通信講座の講師をしていたときから感じていたことがあります。それは自分をみくびらないでほしいということです。十分実力が備わっているのに、「いや自分なんてまだまだです・・・・」という言葉を聞くと、じつに歯がゆいです。もうあと一歩踏み出せば立派な翻訳者になれるのに、と思います。もっと自分に自信を持って、「質の高い努力」と言いますか、もっと上の目標を目指してほしいなと。あとは経験だけ積めばいいのに、なぜか積まずに(苦笑)「永遠の学習者」になってしまう人がいます。自ら一歩踏み出せば、プロとの距離はグッと縮まります。それは誰かに背中を押してもらうのを待つのではなく、自分でやらなければいけないことだと思います。思い切って一歩踏み出してください。


Vol.44 アフリカの本当の姿を多くの人に知ってもらいたい

宇野みどり Midori Uno

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スワヒリ語翻訳・通訳者、法廷通訳、大学講師
青年海外協力隊タンザニア初代隊員として任地に赴任。
その後NHKラジオジャパン・スワヒリ語、翻訳・アナウンスに長年従事
日本初の日本語―スワヒリ語の辞書を作成、スワヒリ語―日本語辞書と共に出版。
「タンザニアのママたち」など著書多数。

大使館でご紹介いただいたことがきっかけで弊社からもお仕事を依頼するようになったスワヒリ語の第一人者、宇野みどりさん。
いつもご多忙な方でメールでしかやりとりをしたことがなかったのですが「スワヒリ語のことしか話せませんがそれでもよければ」とインタビューを快諾していただきました。こんな機会は滅多にないので「なんでスワヒリ語???」「スワヒリ語って何???」とストレートな質問をたくさんぶつけてみました!

Q. 宇野さんがスワヒリ語と深くかかわるようになった時期ときっかけを教えてください。

1967年,青年海外協力隊に参加したことがきっかけです。
小学生の時から両親の影響でボランティアに興味がありました。ガールスカウト隊員やボーイスカウト年少隊リーダーとして、在日アメリカのスカウトとの交流を持ったりしていた頃、時のJ.F. ケネデ・アメリカ大統領が平和部隊を始め、「日本にもそんなのができたらいいな」と思っていた時に新聞で、青年海外協力隊がタンザニア派遣の洋裁隊員を募集していることを知り、洋裁を教えていた私はすぐに応募しました。
採用後の派遣前訓練では、英語のほかタンザニアの国語・スワヒリ語をNHKラジオジャパンのスワヒリ語放送担当者から1週間教えていただきました。
それが私とスワヒリ語との最初の出会いでした。でも出発時期が予定より3ヶ月も延びてしまい、その期間独学でスワヒリ語の勉強を続けました。今振り返るとそのときの独学がすごく役に立ったのかもしれません。
タンザニアは英国植民地だったので、授業は英語でよいと言われていたのですが、生徒は一般家庭の主婦たちだったので,英語があまり分らず通訳の助手がついてくれました(笑)
でも現地の人たちと親しくコミュニケーションが取りたいという気持ちが強くなり、昼間は仕事なので、夜に2年間、大学の外国人向けスワヒリ語コースに通い勉強しました。

帰国後はNHKラジオジャパンでスワヒリ語の翻訳、アナウンス、DJなど何役もこなす職に就き、結局それを20年以上続けました。ニュースを始め、色々な番組ではあらゆる分野の内容を扱いましたので、本当にたくさんのボキャブラリーが身につきました。
そんな時、大学のスワヒリ語のスピーチコンテスト審査員を頼まれ、NHKのケニアやタンザニア人招聘アナウンサーと一緒に審査員を務め、そんなことから大学で教鞭をとることになったのです。
こうやって話してみるとずっとスワヒリ語と関わってきていますね(笑)


Q.スワヒリ語翻訳通訳の仕事の面白さについて教えてください。

"あなたにしかできない"、と私を頼ってこられる人や現場との出逢いでしょうか。
昨年の3月、皇太子殿下ケニア御訪問の際、"スピーチをスワヒリ語で"との殿下のご要望で外務省からご連絡頂き、東宮御所で御進講させていただきました。歓迎会での殿下の御立派なスピーチは大好評だった、との現地の新聞報道や日本のTVニュースを見て、大変うれしく思いました。
また、これは翻訳通訳の仕事とは直接関係ないのですが、BBCやドイツ連邦国際放送局のような海外メディアからスワヒリ語での電話でインタビューされることがあります。時差があるので夜中に電話がかかってきて(苦笑)例えば日本の地震やオバマ大統領の選挙戦時代と当選後に、彼のルーツのこともあり私のコメントがほしい、というようなことです(笑)夜中にたたき起こされてすぐに頭が働くわけがないのに、ね! 今年の地震の時など、アメリカ在住の地震学者、日本在住のケニア人タンザニア人、そして私の4人とアナウンサーで一時間も電話回線を使ったパネルディスカッションもやり、それに東アフリカの聴取者からの質問も入り、面白かったです。でもその番組を聴いたという、海外の友達からの連絡もあり、こんな経験ができるのはスワヒリ語ならではの醍醐味でしょうか。

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Q. これまでに一番印象に残ったお仕事をお聞かせいただけますか?

たくさんあり過ぎて何を話そうか迷いますね(笑)
2006年のことですが、タンザニアのキクウェテ大統領ご夫妻が来日の折、ご夫人の通訳をしました。動物園その他一日中あちこち回り、最後に非公式ディナーに同行しました。主催者はある財団だったのですが、当時の扇千景衆議院議長やNHK局長その他、そうそうたる顔ぶれの中で、大統領夫人の自国での女性のための活動の話になったとき、主催者が感激し、その場でポンッ!!!と寄付金を下さるとおっしゃり(笑)横で通訳をしていた私は思わずゼロの数を数え直しましたね(笑)まぁそれはそれはものすごい額でした。あの時は本当に驚きましたし、すごくインパクトがあった現場でした(笑)

他にもノーベル賞や「MOTTAINAI」で一躍有名になられた故マータイ博士の通訳を大パーティでした時のことです。ケニア人は公の席では英語を話す方が多いので、原稿を頂いたわけでもないので、当日お会いするなりスワヒリ語でとお願いしたら、キクユ語で話し ましょうか?などと冗談を言われていたのですが、ケニア大使が開会スピーチを英語でなさった!(苦笑)続いたマータイ博士も英語で長い長いスピーチを始め、結局私は英語の通訳をする羽目になってしまいました(笑)その時は「あー嫌だ、やりたくない」、と思ってもその場から逃げられない。仕方がない。やりましたよ。
ま、そういうことはよくあるのですが(笑)その後の来賓、日本人のスピーチはスワヒリ語に訳せばよかったので本当に気楽でした。

(これ以外にも本当にびっくりするような面白い話、逆に悲しい辛い話など本当にたくさんたくさんお話いただいたのです!!全部書きたいのですがオフレコも多いのもまた事実でして(笑)一貫して宇野さんの懐の深さを感じるものばかりでした。)

Q. お仕事の合間のリフレッシュ方法などはありますか?

大学で教えたり、夜に語学学校で社会人を教えたり、法廷裁判、TVや映画の翻訳もあり、
いただくお仕事の内容が毎回毎回違うのでそのたびにリフレッシュできているんですよ(笑)でも、仕事がリフレッシュなんて回答にならないですね(笑)
だからやはり旅行です。世界のあちこちに親戚や親しい友人たちが沢山いますし、タイ人やタンザニア人の結婚式にも招待されたりし「いらっしゃいよ!」と誘われると「あら、楽しそう!」と思ってつい海外でも行ってしまいますね(笑)
あとは、外務省で外交官にスワヒリ語を教えているので、他言語の外国人の先生方とのお付き合いや、ホームパーティは本当に楽しくて大好きな時間です。又東アフリカ各国外交官のご自宅に招かれ御馳走になるアフリカ料理もとても美味しく、楽しいひと時です。

Q.宇野さんの今後の目標などをお聞かせください。

やっぱりアフリカのことを、アフリカの本当の姿や文化を一人でも多くの日本人にもっともっと伝えていくことです。スワヒリ語の文法書や民話の絵本なども出版していますが、アフリカの現状はまだあまり知られていないので、話すだけでなく、本も出したいです。

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(宇野さんの著書の数々をズラッと並べさせていただきました)

Q.長年翻訳通訳をなさっている宇野さんから翻訳通訳者を目指している方に向けてのメッセージ・アドバイスを是非お願いいたします。

仕事をやるからには、引き受けるからには「きちんとした翻訳通訳」をするべきだと思います。分らないことはごまかさず、言い訳はしないことも必要ですね。
そして、これはラジオ放送の仕事を長くしていたので特に思うことなのですが、「わかりやすい、美しい、簡単」な日本語を使うことです。
他の人の通訳を聞くこともすごく勉強になりますね。でも何より上辺だけでなく「心のこもった通訳をする」ことが一番大事だと思います。
最後はやはり・・・・翻訳通訳の両方に通じることですが、一般教養や世界情勢は常に勉強し、それに加え、その言語の国のバックグラウンドをよく勉強することが必要だと思います。それでなければ正しい翻訳はできません。そして何より美しい日本語を忘れてはいけないと思います。



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