TRANSLATION

Vol.58 読みやすい訳文を目指して

ハイキャリア編集部

翻訳者インタビュー

【プロフィール】

ブリーン・ニコラス Nicholas Breen

 

2022年7月ごろにテンナインへご登録。洗練された英語表現で、半年も経たない内に売れっ子翻訳者となった日英翻訳者のブリーンさん。その表現力を会得するまでにはどのような経験をされてきたのか。翻訳部の本多がお話を聞いてきました。

イラスト作成者:ota さん

 

本多:幼い頃からお母様と日本語で会話されていたことも一つかと思うのですが、ブリーンさんが日本語に興味を持たれたきっかけからお伺いできますか?

 

ブリーン:はい。生まれはイギリスなんですが、父親の仕事の関係で、幼稚園の1年間だけ札幌にいたんです。多分そこから2~3年ぐらいは日本語しか喋ってなかったと思います。

その後イギリスに帰って小学一年生から小学六年生までずっとイギリスだったので、日本語をいったん忘れてしまった感じなんですよ。母親は日本語で話してくれるんですけど、日本語で返すのがちょっと面倒くさくて、ずっと英語で返事していました(笑)

そうすると、やっぱり忘れてしまうんですよね。聞き取りは問題なくできていたんですけど。それで11歳のころ、日本でいうと小学六年生くらいかな。父親の仕事の関係で、また日本に戻ってきて京都の小学校に入りました。ずっと日本語が頭の中にある状態だったので、1年ぐらいで日本語がペラペラになりました。でも再びイギリスに戻ってしまうとまた忘れてしまい…、そこから中学・高校・専門学校は英語で生活していました。

ただ、昔からそういう環境に囲まれていたので、やっぱり日本語を使わないと勿体ないってずっと思っていたんです。でもなかなか日本に来る機会もなくて…。それで、イギリスでよくある習慣なんですけど、ギャップイヤーというものがあるんですね。大学に入る前の1年間、休んだり旅したり仕事したりするんです。

高校を卒業するときに、たまたま父親の仕事でまた京都に行くことがあったんです。タイミングがいいなと思って日本で1年過ごしました。本当はイギリスに戻って大学へ入学するつもりでいたんですけど、日本での生活が楽しすぎてやめることにしました。そのあと何年かしてイギリスに戻ってジャーナリズムの専門学校に入りました。一度日本に来ないといけない時があって、後半は日本で通信講座を受講していました。

 

本多:翻訳はいつごろから始められたのですか?

 

ブリーン:その頃から日本語もちょっとずつ上手になってきてたんで、翻訳を始めました。当時はフルタイムで英語の先生(語学学校)をしていたんですけど、あまり情熱を注ぐことができなくて(笑)ただ家族のために働いてたという感じでした。フリーの翻訳者になりたいという想いはあったのですが、自分が認める翻訳レベルまでには至っていなくて。ジャーナリズムを学びながら、仕事もしつつ、少しずつ翻訳を続けていました。その状態がしばらく続いて、ちょっとずつ翻訳の仕事を増やすことが出来た頃に英語の先生を辞めました。またいいタイミングでインハウスの仕事があって、大阪の翻訳会社に入社して3年間、翻訳者およびチェッカーとして働きました。そこでは製薬会社とか家電メーカーの翻訳案件があって、統合報告書や社内文書を対応していました。

 

本多:インハウスでの3年間はいかがでしたか?

 

ブリーン:すごい大事だったと思います。翻訳の仕事の流れを掴むうえで不可欠な時期だったかなと思います。社員6人ぐらいのところだったんですけど、みんな仲が良くて、いろいろ教えてもらいました。翻訳者がもう1人いたんですが、私が会社に入った後すぐ辞めちゃったので、その時は結構負担が大きかったですね。その会社は訳文を最後ネイティブの人に見てもらいたいっていうのもあったので、全部自分のところに回ってくるんです。そのため残業も多くて、楽しかったんですけど大変でした!

 

本多:かなり体に負担がかかりそうですね…。

 

ブリーン:でも翻訳をしていて、ストレスはあんまり感じたことがないと思います。たまに変なこと言ってくるクライアントさんもいて、ムっとすることもありましたが、徐々に慣れていきました(笑)

 

本多:インハウスで3年経験された後、ほかの企業にもインハウスでご就業されたのでしょうか?

 

ブリーン:いえ、インハウスは大阪の1回のみです。

 

本多:本当にそのインハウスでたくさんのことを吸収されたのですね!

 

ブリーン:そうなんです。その仕事をしながら家でもフリーランスで翻訳を受けていたので…。

 

本多:フリーでも!かなりの量を翻訳されていたのですね。

 

ブリーン:はい。翻訳が好きだったというのもあるんですけど、経験をしていくことが大事かなと思ったので、インハウスにいた3年間はできるだけ仕事をしていた時期でした。今もそうですけど、断れないタイプっていうのもありましたね(笑)

 

本多:インハウスでお仕事もされながら、フリーでもお仕事されて、それを3年間ですか!?

 

ブリーン:はい、やっぱり好きなことをしているので、ストレスを感じたことはないです。ただ最後の方にちょっと仕事しすぎてるのかな?って自分でも思い始めて(笑) ただ家族もいたので、フリーに転向する勇気があまりでない状態でした。

 

本多:フリーに進まれるきっかけは何だったのでしょうか?

 

ブリーン:タイミングは難しかったですね。ただ大きな決断をしたのは、フリーランスで安定した仕事が入ってきたというのが分かってからです。インハウスで仕事をしていたというのもフリーへのワンステップだったというか、理想的な流れでした。

 

本多:それはブリーンさんの努力の証だと思います!

 

ブリーン:いえいえ、いい人が周りにいっぱいいて、助けてもらうこともありました。

 

本多:インハウスでフリーへの準備をずっとされていたんですね。その3年間でスキルが伸びたなという実感はありましたか?

 

ブリーン:そうですね。理解力は多分元々あったと思います。ただ、日本語を英語にするだけじゃなくて、読みやすい英語にする工程は難しかったですね。最初は自分でも「何書いてるんだろう」って思った時期もありました。あと、インハウスで仕事を始める前もよく周りの人に「日本語も英語も喋れるのに、なんで翻訳しないの?」って言われてたんですけど、「そんな簡単なことではないよ」っていつも返していました。

 

本多:日本語を流暢に話されるブリーンさんですが、通訳の道に進まれなかった理由などありますか?

 

ブリーン:何回か通訳の話はあったのですが、人の前に立つのがあんまり好きじゃないんです(笑) あとは、通訳された音声を文字起こしして、それを翻訳するという案件があるんですけど、その時の通訳の方の音声を聞くと完璧に訳せていないことが多いんです。日本語と英語の両方がわかるので、ちょっと違うなというのに気が付いてしまうんです。

ただ、それは通訳の方がお上手ではない訳ではなくて、通訳自体がとても難しいものであるからなんです。私はじっくり時間をかけて考えながら文章にするのが好きなので、その場で通訳するというのはプレッシャーとかもあるので、私には合わないと思いました。やはりじっくり考えて英語にするのが好きですね。

 

本多:これまでにご自身で通訳をされたことはあるんでしょうか?

 

ブリーン:コミュニケーションサポートみたいなものではありますね。スキー場で働いていた時もあって、その時は日英両方喋れたので通訳のような仕事が沢山回ってきました。あと英語講師として企業に行ったときに、会議などに入ったりはしていました。練習をすればできるかとは思うのですが、難しくて、自分には合っていないと思いました。

 

本多:先程、インハウスで3年間経験されたことが大きいと仰っていたのですが、インハウス経験以外で大事な経験はありましたか?

 

ブリーン:英語力はジャーナリズムからきてると思います。昔から文章を書くのは好きだったんですけど、自分で上手って思ったことがなかったのでジャーナリズムを勉強するようになりました。コピーライティングも併せて受けられるコースを選んだんですけど、カッコいい書き方を学ぶことが出来たので、その経験は大きいですね。

今もコピーライターの資格を取るためにオンライン講座で学んでいます。キャッチコピー作成に近い内容なので、おそらく翻訳には使えない英語なんですが、とても楽しいですね。いろいろな執筆スキルを身に着けるのが大好きなんです。

 

本多:読書もお好きですか?

 

ブリーン:好きですね。日頃からいろいろ読んだりしています。今は仕事が全部日本語なので、日本の小説を読んでいます。私は英語の小説で和訳された本を読むのが好きなんです。例えば、ハリーポッターとか。英語版を読んでから日本語版を読むのが好きで、「どのように訳されているかな」って考えながら読むのが大好きです。

 

本多:一つの勉強のような形ですね!

 

ブリーン:そうですね、たまに「え?」って思う文章もあったり(笑)、趣味というか面白いから読んでいる感じです。今イギリスで日本の小説家の人気が出てきているんです。村上春樹は昔からあるんですけど、東野圭吾とか。英訳された作品が結構ベストセラーとして出てくるんですが、やっぱり英訳の質によってベストセラーになるかならないかっていうのが左右されるみたいで。何回か読んで「ちょっとあんまり上手く訳せてないな」って思う箇所もあります。

 

本多:チェック業務のような感じになっていますね(笑) ここまでお話を伺っていくと、フリーランスの翻訳者になるために過ごされていたんだなと感じました。

 

ブリーン:まだまだですが、本当に楽しくさせてもらっています。

 

本多:将来フリーランス翻訳者になりたいという方に向けて、メッセージかアドバイスをいただけますか?

 

ブリーン:個人的にはインハウスでの経験がすごい大事でした。なのでそういう機会があれば、経験した方がいいと思います。私はその3年間がなかったら、今の翻訳はできないと思っています。翻訳だけじゃなくて、「会社にどのように仕事が入ってくるか」とか、「どのようにやり取りしているか」とか、「どういうふうに電話での対応をしているか」など、そういうのを全部習得できたのは大きかったです。あとは、私はちょっとやりすぎたかもしれないですが、たくさん翻訳をすることですね。最初は多分うまくいかないと思います。好きであればやり続けて、嫌になったら一旦やめて休憩したりするのでも大丈夫です。

 

本多:日々表現力を磨くためにされていることなどありますか?

 

ブリーン:コピーライティングを個別で勉強していることが役にたっているなと思います。あとは他の翻訳者さんの翻訳を見るのは結構大きかったです。インハウス時代に色んな人の訳文を見ることがあったんですが、訳文の品質に差が結構あって、何も直さなくていい訳文を見ることも勉強になったのですが、品質の悪い訳文を直していくことで勉強になったことは沢山あります。こういうふうに訳さないように、訳例を覚えるのが大きかったです。

「ただ英語にすればいい案件」と、「ちゃんとした綺麗な読みやすい英語にしなくてはいけない案件」と大きく2つに分かれると思うんですが、私はただ英語にすればいい翻訳というのは苦手で、翻訳とは言えないと思うんです。見てきた訳文というのは、ただ英語にされている訳文が多かったです。英語だけ読むと「何これ?」ってなる訳文。色々な訳文を見て、そうならないように努力して、「綺麗で読みやすい英語」で翻訳ができるように努力は続けています。

 

本多:素晴らしいです。最後に、ブリーンさんが今後翻訳してみたい分野などありますか?

 

ブリーン:何回かやってみて、もっとやりたいと感じたものはあります。父親の仕事が日本史関係なんですが、その繋がりで同じ研究機関で働いてた研究者?教授?というのかな、妖怪学専門の方がいて、その方のプレゼンテーションや論文を何回か翻訳したことがあるんです。参考文献とか英語での妖怪情報があまりなくて、一から調べて大変だったんですけど凄く楽しかったです。そういった分野をもう一回やってみたいと思っています。

 

本多:ぜひ妖怪学の学術論文などの案件が発生したらご相談させてください!(笑)

本日は貴重なお時間をいただき本当にありがとうございました。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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