TRANSLATION

Vol.53 信頼される翻訳者の秘訣①

ハイキャリア編集部

翻訳者インタビュー

【プロフィール】
武居ちひろ Chihiro Takei
数々のクライアントから指名を受け、テンナインも絶大な信頼を寄せる英日翻訳者の武居さん。実はテンナインで社内チェッカーとしてキャリアをスタートさせました。「この人に翻訳をお願いしたい!」と思わせる売れっ子翻訳者の秘訣は何なのか。今回の翻訳者インタビューは、翻訳部ディレクター・松本が、旧知の仲の武居さんにフランクな雰囲気でお話を聞いてきました。

【インタビュー記事 Part 1】
松本:まずは武居さんの原点をお聞きしたいです! 翻訳者を目指したきっかけを教えてください。

武居:翻訳者になろうと思う前に、翻訳に触れる機会が何度かあったんです。たとえば、大学卒業後、早稲田松竹という高田馬場の映画館で働いていたときに、「英語ができるなら字幕翻訳をやったら?」と先輩にアドバイスされたことがあって。幼少期にアメリカに住んでいたこともあり、英語は少し得意だったので「なるほど!そんな道もあったか!」と思ったんですよ(笑) 映画館で仕事をしながら、日本映像翻訳アカデミーの通信講座を受けました。その頃は、まだ本気で翻訳者を目指していたわけではありませんでした。

松本:その後カナダに留学されていますね?

武居:キャリアアップをしたいと思いながらも、何を目指していいのかわからず、仕事を辞めてワーホリでカナダに留学することにしました。今思えば、自分探しの旅でしたね。映画の仕事を続けるにしても、英語ができれば役に立つだろうと思いました。それに、中途半端だった自分の英語力をできるかぎり高いレベルまで上げたかったんです。

松本:どのような勉強をされたのでしょうか?

武居:最初にオタワ大学のESLコースに3か月通い、その後、トロントにある翻訳学校に入学しました。実務翻訳のさまざまな分野を3か月で網羅するというスパルタコースで、そこで教わった日本人の翻訳者の先生に「あなたは翻訳者になれる」と言われたんです。その言葉を真に受けて、本気で翻訳を志すようになりました。

松本:その先生との出会いに感謝ですね。スパルタ授業とはどんな感じだったのでしょうか?

武居:授業のあとも夜中まで勉強しないと終わらないくらい、大量の課題が出ました。それも、製薬や特許などの実践的で難解な内容でしたね。単語テストが毎日あり、新聞記事の1パラグラフを分解して精読したり、さまざまな記事を翻訳したりしました。わずが3か月でも、ずいぶん力がついたと思います。フィードバックも厳しく「これは意味不明です」とはっきり指導されました。本当に貴重な出会いで、先生が背中を押してくれたおかげで翻訳者になれたと思っています。修了後はインターンとして採用してもらい、先生のもとで翻訳料をいただきながら仕事をしました。

松本:テンナインとの出会いはいつ頃だったのでしょうか?

武居:ワーホリの終盤には貯金が底をつきそうで、帰国したらすぐにでも働く必要がありました。それで翻訳エージェントを調べていたときに、ハイキャリアの記事を見つけたんです。最低3年の実務翻訳経験を応募条件にしている会社が多いなか、テンナインは経験を問わず応募できるようでした。サイトの雰囲気もかわいかったので、思いきって応募してトライアルを受けたところ、合格をいただきました。

松本:最初は弊社でチェッカーのお仕事をされていますよね?

武居:翻訳業界の右も左もわからないなか、帰国後いきなりオフィスに呼ばれてびっくりしました。私が仕事をいただく立場なのに、コーディネーターの方が私の今後のキャリアを考えて、チェッカーとして働かないかと提案してくださったんです。面接ではいきなり工藤社長も顔を出してくださいました。すごくかわいらしいファッションで(笑)「大丈夫だから、うちにいらっしゃい」とおしゃってくださいました。「なんだ、この会社は!?」って衝撃を受けましたね(笑) そう言ってくださるなら断る理由もないなと、ありがたくお受けすることにしました。テンナインがこうして若手の育成に力を入れてるのは、本当にすごいことだと思います。

松本:テンナイン社内でチェッカーとして働いた経験はいかがでしたか?

武居:毎日、とにかく面白かったです。未経験から翻訳業界に飛びこんだので、オフィスでみなさんの仕事ぶりを見ているだけでも勉強になることが多かったですね。お客様から依頼が来て納品に至るまでの流れを間近で観察でき、非常にいい経験になりました。フリーランスになった今も、いい意味で仕事のやり方に影響しています。コーディネーターやチェッカーのみなさんの仕事の流れを知っていて、チームとしていい翻訳を作り上げるという意識があるのとないのとでは、フリーランスとしての働き方に大きな差が出てくると思います。

松本:翻訳をやりたいのに、チェック作業を担当することに抵抗はありませんでしたか?

武居:いいえ、まったくありませんでした。チェック作業はそれ自体がプロの仕事です。翻訳者志望の未熟な者が担当すべきではないという意見をよく聞きますが、まさにそのとおりだと思いますし、つねに気を引き締めて取り組もうと心がけていました。いろいろな学びがありましたが、安易に修正してはいけないというのもそのひとつです。翻訳者さんは、全体の文脈を汲み取ったうえで訳語を選んでいます。チェッカーがぱっと見て、原文と合っていないからとすぐに訂正するのは危険です。翻訳者さんの仕事を台無しにしてしまわないように、細心の注意を払わなければなりません。それから、お上手な翻訳者さんの訳文を読めるのも貴重な経験でした。こんなふうに訳せるなんてすごい!という訳文に出会うと感動しますよね。そのうち憧れの翻訳者さんもできたりして、先輩方から本当に多くを学ばせてもらいました。盗める技は全部盗もうと、毎日必死で訳文とにらめっこしていました。

松本:テンナインとしては翻訳者になりたい人だけでなく、チェッカー志望の方々も応援していきたいのですが、武居さんからチェッカー志望の方にアドバイスなどはありますか?

武居:チェッカーには細かい気配りが大切です。例えば、クライアントA社から頻繁に依頼があったとして、毎回同じ翻訳者を調整できない場合がありますよね。でも、同じチェッカーがA社の用語の好みなどを理解していれば、そこで修正することができる。もちろん、翻訳者のみなさんも素晴らしい訳文を出してくださいますが、同じクライアントをつねに担当しているチェッカーだからこそ、品質をもう一段階上げることができます。誇りを持ってできる仕事ですよ。

松本:実は、僕が翻訳部のディレクターになってから新しく始めたことがあるんです。毎年、頻繁に案件をご依頼しているチェッカーさんたちをお招きし、それぞれのご自宅に食事をデリバリーしてオンライン交流会をやっています。異動してきてから、翻訳部がどれだけチェッカーさんのお世話になっているのかを痛感しました。翻訳の品質を担保するための最後の砦となってくれているチェッカーさんたちに感謝を伝えたいですし、少しでも還元できればと思っています。

武居:それいいですね! フリーランスとなった今、チェッカーさんは頼もしい味方のような存在です。新しいクライアントの案件を担当するときは特に、つい頼りたくなってしまいますね。英語の原稿を1枚渡されて、そこに書いてある内容はわかっても、どんな言葉づかいが好みか、決まった訳語があるのかまでは調べきれないことも多いですから。自分でもできるかぎり高い品質を目指しますが、チェッカーさんに最後の仕上げをしてもらえるというのは、翻訳者にとって心の支えです。

次回はインハウス翻訳者→フリーランスとなるまでの経緯をお伺いします。


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