TRANSLATION

Vol.49 特急翻訳専門 -スピードの秘訣とは!?-

ハイキャリア編集部

翻訳者インタビュー

【プロフィール】
大石礼那さん
幼少期から約15年間をイギリスやオーストラリアなどの英語圏の国々で過ごし、ネイティブレベルの英語力を身につける。メルボルン大学を卒業後は日本の大学院に進学。大学院在学中より翻訳を手掛けるようになる。

2017年にテンナインにご登録いただいた大石さん。その持ち味はなんといってもその翻訳スピード!クオリティはそのままで、いつもびっくりするくらいのスピードで仕上げて下さいます。そのスピードの秘訣は?どんな分野でもご快諾していただけるけれど、一番お得意な分野は?いろいろとお話をお伺いさせていただきました。

Q1:大石さんの英語との出会い、英語との関わりを教えて下さい。
3歳の時に両親の駐在でイギリスに引っ越し、そこで8年間過ごしました。現地校に通いましたので、日々学校で英語に触れ、友人も皆いわゆる「イギリス人」でしたので、かなり幼い頃からずっと英語に囲まれて育ちましたね。

Q2:そんな環境だと、逆に日本語に触れるのが難しいですね。
そうですね。家では日本語を話すようにして、英語の生活の中にどう日本語を盛り込むか、というのを最初は意識してやっていましたね。小学校の時は文部省が行っている通信教育をやって、週末は補習校という日本語を教えてくれる学校に通っていわゆる「国語」を学んだりしていました。両親が「日本人なのだからきちんと日本語が話せるように」ということで日本語教育を受けさせてくれたのだと思います。とはいえ、当時はやっぱり嫌でしたね。みんなは週末休んでいるのに、なんで私だけ勉強しなきゃいけないの?と感じていました(笑)

その後中学のときに日本に帰国したのですが、2年半くらいしか日本におらず、中3の半ばでやはり両親の駐在で今度はオーストラリアに引越しをしました。そのまま高校、大学もオーストラリアでしたので、日本の学校にはあまり行っていないですね。

Q3:大学までオーストラリアで、大学院で日本に来られたのですね。日本には帰ってこようと思っていたのですか?
実は、特には思っていませんでした。私は大学の勉強が好きでもう少し勉強したいなと思っていたのですが、そんなとき両親に「大学院に行ってもいいけどできれば日本のに行ってほしい」と言われました。日本人として日本に住める最後のチャンスだというようなことを言われたのがきっかけですね。メルボルンか日本の大学院かで悩んで最終的に日本を選んだという感じです。

Q4:翻訳はいつ頃から始められたのですか?
大学院の途中からです。メルボルンで読んでいたフリーマガジンの日本版を見つけまして、内容が少々奇抜なのですが私はとても興味があり、ぜひこれに関わりたいと思って連絡をしてみたんです。そしたら英語ができるなら記事の翻訳をしてみないかとお話をいただきまして、それで始めたのがきっかけですね。あとはそのフリーマガジンの翻訳を始めた頃に、あるアート情報サイトの立ち上げがあり、それも友人の紹介でお手伝いさせていただける事になりました。そこでも結果的には情報をバイリンガルにするために翻訳に携わることになりました。

Q5:通訳も同時期に始められたのですか?
通訳は大学院を卒業した頃からですね。ちょうどその時期にあるエージェントが帰国子女やバイリンガルの人材を集めて通訳を探しているという話があったのでやったのがきっかけです。同時通訳の海外の案件だったのですが、本当にぶっつけ本番みたいな感じで(笑)今考えるとありえない話なんですけど、そういうことをさせていただいてからなんとなく、あぁこういう世界があるんだ、と気づくことができました。

Q6:翻訳も通訳も、そのためになにかを勉強した、みたいなことはなかったのですね。
そうですね。逆に、翻訳の勉強を全くしていなかったので、いいのかなとも思います。最初は正直あまり就職とか、なにをしたいのかとか、日本にそのままいるのかすら分からなかったんですよね。でも、大好きなメディアの会社で働かせていただいたり、アートや文化に興味があってそれに関わりたいなと思っているうちに気付いたらこの世界に飛び込んでいて、そのうちだんだんと翻訳のリズムが掴めてきた、という感じです。当時、そういうチャンスをくださった方々がまわりにたくさんいたので、それもとてもありがたいと思います。

Q7:翻訳を本格的に仕事にしようと考え始めたのはいつ頃ですか?
最初は状況的に翻訳漬けになってしまったという感じでした。一時期あるエージェントから大量に翻訳案件をいただいた時期があり、それがフルタイムでできるようになったので、なんとなくそのまま続けようと思いました。そうして続けているうちに本気度も上がり、翻訳者としてのキャリアを認識し始めたのは3~4年前になります。正直なところ、外国人やバイリンガルの帰国子女の友人達は英語以外の違うことを専門にして働いている一方で、私だけ自分の中にある言語を使って仕事をしていたので、もう少し違うことをした方がいいんじゃないかなと思った時期もありました。すでに持っているスキルだけを使って仕事をしていることが後ろめたいと感じたんですね。でも需要のある大きなマーケットですし、それを通して学べることも多くあるので、最近ではとても面白い仕事だと思っています。

同時通訳のほうは2、3ヶ月に1度程度のペースで、2日~1週間くらいの案件のお仕事をやらせて頂いています。私はあまり要領が良くなくて、翻訳案件を抱えているときに数時間だけ通訳に行く、というようなことをすると頭が混乱してしまって、うまくスイッチできないんですね。なので、通訳案件を受けるときはある程度の期間時間をいただいて、その期間は一切翻訳案件は受けず、通訳に集中するという形でやっています。

Q8:通訳と翻訳の面白さ、その違いはどこにありますか?
同時通訳は面白いです。翻訳とは違う面白さももちろんありますが、実は同時通訳と特急翻訳ってすごい似ているところがあります。同時通訳も特急翻訳をやっているときも、ほぼ「考えていない」と言いますか、もちろん考えているんですけど、そのタスクに無心で集中しているので、考える隙がないほど早い、という感じです。頭の中でまとまってしまう前に出す、というようなスピード感が似ているな、と最近改めて感じています。言葉が入って出す、マシンのような感じですね。私は通訳でも、綺麗にワンセンテンスにまとめて美しく出すことが求められる逐次通訳よりは、同時通訳のようにまずはスピードでアウトプットするほうが得意ですね。翻訳も同じことで、例えば一週間納期をいただいて完璧に美しく仕上げてほしい、という案件の方が私にはとてもプレッシャーなんです。それより、限られた時間の中でいかに完璧を目指すか、という案件のほうが自分には合っている気がします。

あとはやはり、翻訳は文章を書くのが元々好きなので楽しいです。文章を書くのが好きですし、パズルみたいに言葉を当てはめる、動かす、その作業が好きですね。文章を書くのが好きだと、翻訳は得な仕事だと思います。逆に嫌いだとつらいと思います(笑)

Q9:大石さんの翻訳スピードは本当にすばらしいですよね。
正直、皆さんから言われるまでは自分の翻訳スピードが速いとは特に思っていなかったんです。昔アルバイトでやっていた翻訳の仕事が特急案件のようなスピードで進めないと追いつかないような仕事だったので、それで自然とスピードを身につけたのだと思います。

作業の際は、いかに効率的にやるかということを考えていますね。短くできればできるほどその後の自由な時間が増えるので(笑)案件があるときは集中し、ないときは自由に時間を使えるという、気持ちの面での余裕や自由さが気に入っています。

あとは勉強というわけではないのですが、あまり考えずに英語の文章がよりスムーズに出るように、日頃から英語の記事や本をたくさん読むようにしています。読むのが好きというのもありますし、読んでいるうちに英語の定型文が頭に入ってくれればいいなと思っています。

Q10:様々なご案件にご対応されていますが、得意分野はありますか?
広告系は数をこなしてきたと思います。あとは、どんな分野でもロジックが通っていてきちんと構成されている文章が得意です。例えば医療系はテンナインに登録してからやるようになったのですが、文章として見るとロジックが通っていてとても美しい文章なので、英語でも同じくパズルのようにきれいな文章ができあがります。伝えたいことが明確だとやりやすいです。逆に、広告系のかっこいいプレゼン資料などは、主語が抜けていたりして、英語でも同じようにかっこよくしたいけれどなかなか難しかったりします。

Q11:2018年にオランダに移住されましたね。移住された経緯を教えてください。
以前から東京に住んでいる間も、別の場所に住んでみたいなという気持ちがありまして。色んな国を候補として考えていましたが、ある時に出張でオランダのアムステルダムに行く機会があって、その時にすごく住みやすそうな街だな、と思いました。皆さん英語でコミュニケーションを取られていて、本当に英語だけで暮らしていける街だなと確認しました。ビザなども調べているうちに、フリーランスビザというものが取りやすいと分かりました。あと、主人が美術関係の仕事をしていまして、彼もクライアントや仕事相手がヨーロッパ中心ですので、ヨーロッパに拠点を置くことで何かとプラスになるのかなと。2人ともフリーランスで、今の時代はPCがあればどこでも仕事ができるという環境なので、そういう経緯もあって二人で住むのに一番良い場所はアムステルダムかなって二人で考えて移住しました。

Q12特急案件を専門とされている大石さんは日本との時差を計算して移住されたのでしょうか?
いえ、全然考えていなかったです(笑)。ただ蓋を開けてみればちょうどいい時間差でした。ヨーロッパだと私がちょうど起きる頃に日本の午後なので、ちょうど起きた時にその日の仕事が決まることが多いですね。なので一日何もなく待機しているというよりかは、午前中にその日のアサインメントが決まってスケジュールが立てられます。1日の間に仕事を終わらせて、その次に何が出来るかという計画を立てられるので、時間を有意義に使えるっていう意味ではすごく個人的に合っていると思います。

Q13:オランダでの生活はいかがでしょうか?
とても住みやすい街だと思います。英語が主に話されている言葉で、観光客の方とか駐在員の方もオランダに増えていて、市内で一番話されている言葉が英語でオランダ語は2番目らしいです。なので英語で生活するという意味でもすごく住みやすい場所です。小さい国なので、東京みたいなワクワク感というか、大都市に住んでいる感覚はないですけれども、すごくのんびりとしていて、気候も良く、住みやすいと思います。ただ、オランダは自転車大国なのですが、皆、自転車に乗るのに恐いくらいすごくスピードを出していて…。まだ自転車には乗ってないですね(笑)。歩いたり、トラムに乗って移動しています。

Q14:アムステルダムには日本人コミュニティーはあるのでしょうか?オランダで同業者の方にお会いしたことはありますか?
同業者の方はまだお会いできてないですが、アムステルダムの南にアムステルフェーンという街があり、そこに日系企業がたくさんあるみたいで、駐在員の方がたくさんいるとお聞きしました。ただ接点があまりないので、まだ実際にお会いするというのは出来ていないですけど。日本食レストランがそこにたくさんあったりとか、日系企業の名前が付いているビルをたくさん見たりします。

Q15:オランダに移住された後でご自身の翻訳スキルに変化はありましたか?
圧倒的に日本語を目にする機会が減りましたので、意識的に日本語のニュースを見るようにする機会が多くなりました。最近だと日本語の番組を見るようにしています。あと、日々英語で生活をしているので英訳をする時に、直訳ではないより自然な英語になっている気がします。

Q16:翻訳で辛いな、大変だなと思うことはありますか?
作業自体ではないのですが、職業柄本当に朝から晩まで座りっぱなしのときとかもあるので、体に悪いなあと思います(笑) 最近は姿勢も悪いので、肩とか腰とかも痛くなったり。そんな調子なので、この仕事をやり続けるためにはパソコンやデスク、いすを工夫したり、ちゃんと環境づくりをしたいなあと思っています。

Q17:今後の目標は?
同時通訳も特急翻訳も好きでこのまま続けられる仕事だと思いますので、上手いバランスを見つけて自分に一番合ったスタイルでやっていきたいなと思います。あまり大変すぎても嫌になってしまうし、どちらかに偏ってしまっても良くないと思うのでバランスを取っていきたいです。自由な仕事だからこそ、それを有効活用したいと思いますね。分野としては私は映画やカルチャー系の記事が好きなのですが、自分自身がその分野に興味があるからといって、仕事として面白いかというと、もしかしたら違うのかなとたまに思ったりもしますので、難しいですね。たまたま脚本の英訳や字幕翻訳のお仕事もいただいたことがあり、好きな分野でスキルを活かせたのでよかったです。まだ勉強したこともなくて、どういう業界でどういう仕組みなのかがわからないのですが。

Q18:翻訳者を目指す方へメッセージをお願いします。
何年か仕事をしてきた中で、「日本語と英語どちらもできるのになんで通訳をやらないの?翻訳ばかりじゃなくて通訳もやればいいのに」と言われることが何度かありました。言いたいことは分かるのですが、なんで通訳をそんなに押すのか疑問に思っていました。私は文章が好きで、スキルの使い方は違いますが、翻訳も通訳と同じくらい難しく、そして同じくらい面白い仕事だと思います。翻訳は紙に残りますし、パッと見て意味が通じるかだけではなく、文化的な背景も訳されているかも見られるものになります。誰もが通訳が向いているわけではないですし、私のように文章が好きっていう方もいらっしゃると思いますので、是非やってみてほしいと思います。今の時代、フリーで働く方も多いので、自由度が高く時代に合った魅力的な仕事だと思います。頑張ってください!

【編集後記】
大石さんいわく、周りからは「論理的で落ち着いた冷めた人」と見られがちだそうです。実は私も、ものすごく速い翻訳スピードから、勝手に「エネルギッシュで情熱的な人」を想像していましたが、淡々と話されるお姿にインタビュー開始時は少し戸惑ってしまいました(笑) ただ翻訳でエネルギーと集中力をたくさん使う分、それ以外の時間はアクセサリー作りなどをして、脳の別の部分を使うことを意識されているそうです。やはりオン・オフの切り替えが大事なのですね。大石さん、これからもテンナインの特急案件をどうぞよろしくお願い致します!

<大石さんが作られたアクセサリー>

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記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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