HOME > 翻訳 > 翻訳者インタビュー > Vol.48 「霊媒師のように」翻訳したい

翻訳者インタビュー 第一線でご活躍されている翻訳者の「仕事」「自分らしい生き方」
「プライベート」など、生の声をご紹介します。

Vol.48 「霊媒師のように」翻訳したい

【プロフィール】
M.Kさん
早稲田大学を卒業後大手出版社に就職。その後書店での勤務中より本格的に英語の勉強を始める。米国に留学し、帰国後はメーカーや官公庁等様々な業種にて社内翻訳に携わる。現在はフリーランス翻訳者としてファッション分野から契約書まで様々なジャンルにてご活躍中。

rev2_DSCN0105.JPG

Kさんにはテンナインに2013年よりご登録頂き、いつも迅速なレスポンスと正確で丁寧な仕上がりの翻訳で大変ご活躍頂いています。硬い文章からやわらかい文章まで、自由自在に英語と日本語を表現されるKさん。今回はご多用の中、快くインタビューをお受け下さいました。

Q1:英語は昔からお得意だったのでしょうか?
 いいえ(笑)学生時代、私は本当に英語が苦手だったんですよ。大学4年のときに英検2級に落ちてしまって、友達に「大丈夫?」と言われるくらいできていませんでしたね。ただ、外国の方とコミュニケーションをとることには昔からとても興味がありました。私は以前書店で働いていたことがありまして、当時はほとんど英語が話せなかったのですが、外国人のお客様がご来店されたらいつも私が対応しに行かせてもらっていましたね(笑)

Q2:書店に勤務されていたのですね。本がお好きだったのですか?
 そうですね、本は好きでしたね。特に書店が大好きでした。読書好きが高じて新卒では出版社に入社しました。そこでやった雑誌編集の仕事はとても楽しかったです。ただ、編集者にはいい意味でのこだわりと柔軟性が必要だと思うんですけど、私の場合は頑固で優柔不断でしたので(笑)、あまり向いていなかったかもしれないですね。

Q3:英語はどうして勉強するようになったのですか?
 編集の職を経て書店で働いていたときに、外国人のお客様への対応などで必要になり英会話や読み書きの勉強を少しずつやり始めたのが最初のきっかけでした。まずはわかりやすい目標があったほうがいいかなと思いまして、英検やTOEICの勉強をしていました。あとは同時にマンツーマンでの英会話レッスンも受けていました。自分がまだ話せなかったので、リスニング能力ばかり鍛えられていましたが(笑)
 その後、実は離婚をしまして。そのまま書店で働くという選択肢ももちろんあったのですが、これからのことをもう一度きちんと考えなければと思ったんですね。そのときに、自分自身興味があって、それを勉強しながら仕事にできる――そういうものが自分には英語しかなかったんです。その当時ちょうど英検2級をとったくらいだったと思いますが、英語だったら、仕事をしつつ力をつけていけると思ったんですね。初めて英語を使ってした仕事はテレビ局のオペレーターでした。その後も一般企業の事務スタッフとして英語を使って働いていくうちに、翻訳に興味を持つようになり、夜間学校に通って翻訳の勉強を始めました。

Q4:翻訳にはどうして興味を持たれたのでしょうか?
 昔から日本語でなにかを書きたいという思いはありました。大学のときにはバンドをやっていて、自分で歌詞を書いていたのですが、当時はなんかこう――自分の中から湧き出るものがありました。今は年齢を重ねまして、そういう湧き出す感情というのはないんですけど、それでもなにかを書きたいなと思うんです。
 翻訳というのは、まずは誰かが誰かに伝えなきゃいけないことがあるわけですよね。それをその「誰か」が理解できるように書くっていう作業がすごく自分にはいいかもしれないと思ったんです。なにかを書きたいのに書きたい内容はないという今の自分に。
 私は実は昔は精神科の医者になりたいと思っていました。人間に興味があって、人が何を考えているのか、どうしてそれを言っているのかを考えるのが好きで。だから言葉に興味があるのだと思います。ただ、最近は人それぞれでいいのではと思うようになり、分析癖はだんだんと抜けてきましたが(笑)

Q5:翻訳の勉強はどのようにされましたか?
 しばらくは昼間働いて夜間翻訳学校に通うという生活を送ったあと、思い切って一年間アメリカのオレゴンに留学しました。私はずっと英語のスピーキングに自信がなくて、それをいつも「留学してないから」だと自分に言い訳をしていたんですね。それなら留学してしまえばいいと思ったんです。そうしたらもう言い訳できませんから。
 留学中に基本的な翻訳の通信講座も受講しまして、帰国後は派遣で翻訳の仕事を本格的に始めました。とにかくまずは翻訳スタッフとしての実践を重ねたかったので。とはいえ、最初はどれも翻訳専任のスタッフではなく、事務も行いつつでしたね。精密機械の会社や中央省庁、環境系の団体などで経験を積みました。正直に言って私の場合は専門分野というものがなかったので、まずは色んな分野の仕事をやってみて、その上でこれから自分がどうしていきたいかを考えていこうと思っていました。私は職場にとても恵まれまして、翻訳の実践的な技術などもそこでかなり教えて頂きましたね。
 そのようにして当初の希望どおり、10年ほど「仕事兼勉強」期間を経まして、自分にある程度自信を持てたタイミングでそろそろかな、とフリーランスとして独立を決めました。

Q6:出版翻訳者としての道もお考えになりましたか?
 出版翻訳も少しは考えましたね。ただ出版翻訳は、自分の生活の糧としてやっていくのがすぐには無理ですので、当時は正直まずは「食べていく」ことを考えて、実務翻訳をしようと決めました。
 今は実務がメインではありますが、出版のお仕事としては、主に本を読んで概要を書くリーディングを中心にやらせて頂いています。分野は実用書ですね。出版翻訳は終わりがないというか、「落としどころ」をどこで決めるかが本当に難しいなと思いますが、とても楽しくお仕事させて頂いています。ノンフィクションやエッセイの翻訳に興味があり今後やってみたいと思いますが、小説は二の足を踏んでいます(笑)余裕があれば勉強してみたいのですが、今はまずは実務の方を頑張らなければいけませんので。

Q7:お得意なジャンルはありますか?
 現在、定期的に頂いているお仕事はファッション関係ですね。ファッション系のトレンドなどが多いです。ファッション分野の翻訳は、トレンドだけではなく、素材やスタイルの名称など専門知識が必要になるので、今でも難しく、一番時間のかかる分野です。専門用語はカタカナのままで良いのか、日本語に直さなければならないのかなどの判断も必要になりますので、逐一確認、調査しながら作業を行っています。私は特に前職などでアパレル関係の経験があるわけでもなく、そういう意味では私の経歴って現職に全然役に立っていないなと思うのですが(笑)、やっていてとても楽しいですし勉強になりますね。

Q8:翻訳という仕事の一番の面白さは何ですか?
 誰かが書いたものがあって、それを伝えたいけれどそのままの言葉では分からない人がいるから翻訳する――その状況自体が私には面白いと思います。実際には無理なのですが、私の一番の理想は「機械」のようになることなんです(笑)自分が素晴らしい「変換機」のようになって英語が自分の中を通り過ぎて、正確で最適な日本語にして出したいと思っています。
 イメージは霊媒師ですね。他のエージェントさんに登録する際に、どういう翻訳者になりたいですか?という質問に対して「霊媒師みたいになりたい」と答えてびっくりされたことがあります(笑)つまり原文の意味や書いた人の気持ち、伝えたい内容を100%出せたら1番いいなということなのですが。伝えたいけれど自分では伝えられないという状況を、何とかしてあげたいなって思うんですよね。おせっかいかもしれないのですけど。

Q9:難しいことや苦労されていることはありますか?
 発想や文化が全く異なる方が書かれた文を考えて翻訳しなければいけないところですね。自分が受けた英語教育や1年間の留学経験だけでは、やはり心の底から英語的な発想はできません。どうしても「学校英語」に引きずられがちなんです。そこが楽しいところでもあり、難しくもありますね。たぶんずっと悩み続けると思います。
 あとはリアルな話で申し訳ないのですが、税金ですね(笑)フリーランス2年目に対する住民税が、途中まで給与所得者だったその前年の20倍になっていまして、とてもびっくりしました。翻訳者はあまり経費がかからないのですが、これはもうどうにか経費を増やして税金対策をするしかないですね(笑)

Q10:プロの翻訳者として心掛けていらっしゃることは何ですか?
 お仕事のお問い合わせを頂いたら、その仕事を引き受けるにしても受けないにしても素早くレスポンスをしています。皆さん毎日たくさんのメールを受けると思うのですが、私は逐一返していかないと気になってしまって仕事が進まないんです。1時間に1回など、ある程度まとめて返信するほうが効率が良いという方もいらっしゃいますが。
 あとは丁寧な調査ですね。わからないことはもちろん調べますが、簡単な単語でも意外に知らない言い回しが未だにあったりするので、簡単な単語ほど調べます。二度手間、三度手間になることもありますが、きちんと見直しをしないで納品するのは有り得ないですね。
 それから、皆さんそうだとは思うんですけど、私納期に遅れるのは絶対に嫌なんですよ。遅刻とかも嫌いで、遅刻するくらいだったら休んじゃう、というくらい。なので、納期は絶対に守るというのを常に心掛けています。

Q11:どうもありがとうございます。フリーランスですとスケジュール管理が大変ではないですか?
 きっちりやること自体は嫌ではないです。自分を追い込むのもけっこう好きだったりします(笑)時間管理は結構得意です。早いときは朝6時くらいから仕事をしていますが、家事などがあるので16時から20時までは仕事はしないと決めていて、仕事があるときはその後またやります。外出するときもあるので時間は変わったりもしますが、基本的にはこのようなスケジュールですね。最初の3年までは夜や土日も関係なく仕事しようというのは決めていましたが、睡眠時間だけはさすがに何日も削り続けられないですね。

Q12:最後に今後の目標、やってみたいことをお伺いさせて下さい。
 自分で納得のいく翻訳ができた、という実感をさらにもてるようになっていきたいですね。もちろん今も納得したものを出してはいるのですが、もっと違う形があるかもと思うこともありますので。そのためにも、最近はどうしても英語の文章ばかりで、日本語を読む機会が減ってしまったので、もっと日本語を読んでいきたいと思っています。どうしても自分が書きがちな日本語の癖というものがあるので、もっと違う表現を学んだり、自分が知らない言葉を覚えたりしていきたいですね。
 あとは、私はやはり「人の言葉」を訳すのが好きなので、その人の気持ちになって訳したり、色々と想像して訳したりできるお仕事を今後はもっとしてみたいです。今は趣味で行っているだけの歌詞の翻訳なども興味がありますね。主語がわからなかったりしますのでとても難しいのですが、とても楽しいです。先日頂けた脚本翻訳のお仕事もとても面白かったので、今後さらに手掛けてみたいですね。

Q13:これから翻訳者を目指す方に一言お願いいたします。
 皆さん、初めはどうしていいかわからないと思うんですね。トライアルを受けるにしても未経験者はNGという場合もありますので、まずは派遣で翻訳を経験してみるのがいいと思います。経験してしまえばトライアルも受けられますので。トライアルを受けるタイミングもあまり気にしなくて良いと思います。不合格が多いのであればまずは経験を積んでいけばいいですし、学校などに通うより仕事してしまったほうが個人的にはいいと思います。それぞれの業界特有の言い方が覚えられますし、周りの方からのフィードバックももらえますし。それが今後役にたつかどうかは別にして、色々なものを見ておいたほうが良いかと思います。もし既に興味のある分野があるなら、まずはその分野の会社に入ってしまって、その会社内で「翻訳ありませんか?」と自分を売り込んでもいいと思います。まずは行動あるのみ!ですね。

【編集後記】

 とても独創的で面白い考え方をされるKさん。お話を伺えば伺うほど聞き入ってしまい、大変長いお時間を頂いてしまいました。「好きなことを日々勉強して、それを仕事にしたい」というずっと一貫した思いと、それを有言実行していらっしゃる人生がとてもかっこよかったです。書きたい、きちんと伝えたい、「霊媒師のように」書いた人の気持ちを翻訳したい――そういう思いで日々翻訳されているKさんをテンナインはこれからも応援し続けていきます。


翻訳者インタビュー


↑Page Top