TRANSLATION

第324回 翻訳絵本の持ち込みプロセスを公開します⑨

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

前回レポートしてから間が空いてしまいましたが、私自身の翻訳絵本の持ち込みも粛々と続けています。

M社のお断りを受けて、以前から気になっていたN社に持ち込むことにしました。近年、特に多くの翻訳絵本を刊行している印象があったので、「国内の絵本は出しているけれども翻訳絵本のノウハウはない」という出版社に比べて、企画が通りやすいのではと考えました。

N社に持ち込むには既定のフォームがあり、そこから応募するようになっています。採用された場合には先方からご連絡があるので、一定期間経過してもご連絡がなければ不採用ということになります。

きっとご連絡があるはず、と期待していたのですが、残念ながら何の音沙汰もなく……14社目もお断りとなりました。

次の持ち込み先を探す中で目に留まったのがO社です。ちょうど読んでいた絵本がO社の作品で、「こんな作品も刊行してたんだ。そういえばO社も結構絵本を出してたな」と気づきました。灯台下暗し、とばかりに早速O社のお問い合わせフォームからご連絡しました。

編集者さんからすぐにお返事がありましたが、基本的に新規の持ち込みはしていないとのこと。よくよく見れば、お問い合わせフォームから受け付けていない旨も記載されており、そのこともご指摘いただきました。また、発行されている絵本の奥付には出版部門のメールアドレスが記載されていることも……。

ていねいなお断りでしたが、私としては反省しきりでした。O社の代表の方に以前にメディアで拙訳書を取り上げていただいたこともあったので、その旨を記載し、検討していただける可能性が高いと思ってアプローチしていました。

本来であれば、記載事項をしっかり読み込んだり、確実なコンタクト先を調べたりすることは基本なのですが、そのあたりを雑にしてしまったな、と申し訳ない気持ちになりました。仕事をする上での誠実さに欠けていたと気づかされましたし、こういう慢心が重なると仕事を失っていくのだろうな、と気を引き締めるきっかけになりました。出版部門のメールアドレスから持ち込んでいれば対応も違ったかも……と思いましたが、後の祭りです。

次の持ち込み先が決まらない中、P社の編集者さんの講座が書店で開催されるという情報が目に留まりました。その方の手がけられた作品についてお話をされるとのことでしたので、直接アプローチする機会があるかもしれないと思い、原書と企画書を持って参加することにしました。

お話を伺ってみると、手がけられた作品のタイプからして、私の企画とは接点がないように感じられました。ただ、作品へのこだわり方という点では、通じるものもありそうです。

そのまま帰るかどうか悩みましたが、せっかく原書も企画書も持ってきたことですし、ダメもとで見ていただこう、と講座終了後に編集者さんにお声がけしました。自己紹介の後、見ていただきたい原書がある旨をお伝えし、「多分(あなたの求めるものとは)違うと思いますが……」とお見せすると、「ああ、これは違いますね」とのお返事が。「ですよね」と、あっさり引っ込めました(笑)

編集者さんの方向性が自分の企画と明らかに違う場合、提案するかどうかは迷うものです。方向性が定まっている方だと、熱量も高いですし、一分一秒も無駄にせずにお仕事に費やしたいだろうと思うのです。となると、たとえ短時間でも、企画を見ていただくのに時間をとってしまっていいものなのか……それも、結果が見えているのに……。

この点に関しては、今後も迷うことになりそうです。「違うだろうな」というのは自分の嗅覚としてわかりますし、その嗅覚の精度も昔より上がっています。それでも、自分にはまだ見えていない相手の領域があるかもしれないとも思うのです。もしかしたら、意外な関心領域があって、そこで関心が重なるかもしれません。そう思うと、やはり提案しないで後悔するよりは、ダメもとでも提案するほうを選択するのでしょう。

ともあれ、これでお断りも16社目。その後しばらく次の持ち込み先が決まらず、今年に入ってからは久々の通訳やら何やらで手をつけられず、そのままになってしまっていました。それでもやはり手がけたい気持ちはあるので、ずっと机の上に絵本を置いて目に入るようにしていました。そろそろ動かさなくては、と17社目のQ社にアプローチすることにしたのです。

次回に続きます!

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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