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「督促OL 修行日記」 榎本まみ 文芸春秋 読書メモ

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

(すみません、今回も転載です)

 大学教員は、いろいろな意味で手厚く守られている。社会的地位も、収入も、仕事の上での立場も。教壇に立っただけで、内実はともかく、自動的に「センセイ」「エライヒト」ということになってしまうのだ。肩書は、内面が充実しているという保証書ではないというのに。

 自分もそういう立ち位置に甘んじてしまい、つけるべき「心の筋肉」が落ちてしまっていたのだな、ということを気づかせてくれた一冊。

 「ち、ちょっととてもマネできません」という記述も多いが、究極的にはどこまで行くのかという、人間の努力の極北を知る上で、実に勉強になった。

 その一方で、いわゆるモンスター・ペアレンツといわれる人々が、この調子で大学や教員にクレームをつける風土は、何とかして行かなくてはいけないと思う。教育の現場は、単に物理的な「交換」の場ではないからだ。授業料にしても「学ぶチャンス」にお金を払うという、通常の「購入」とはかなり離れたものだと、僕は考えている。

 であるからこそ、教える側は一人でも多くの学生がチャンスをものにできるように指導するべきだし、学生たちも受け身の授業態度を捨て、チャンスをものにするべく積極的に学んでほしい。

 そんなことを突破口にして、世の中のいろいろな問題に対してちょっとでもプラスの影響を与えられないかな、と思っている。

 著者の榎本さんがこの本を書いた3つ目の理由にとても心を動かされた。きれいで温かい心をお持ちの方なんだなと思う。こういう方が報われる社会にしていきたいものだ。

いぬ

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「お金を返して」と言われれば、相手のプライドは傷つく
→「人間の脳は疑問を投げかけられると、無意識にその回答を考え始める」
→「お客様、いつでしたらご入金いただくことが可能でしょうか?」
→「じゃあ、いくらでしたらお支払いただけますか?」
(pp.68-71 ed.)

相手に怒鳴られて固まる。これは危険を感じた時の本能。「動いた個体から狙われる」から。しかし、サバンナではともかく、都会では固まったままでいる方が危険。
→体が固まってしまったら、その瞬間思いっきり足をつねる。もしくは足の小指をもう一方の足で踏んづけるなどして、下半身を刺激する。
→相手に良い負けてしまうオペレーターさんは、足元が押しついていないことが多い。
→逆もまた真なりで、足を整えることで心も整えることが可能なんじゃないだろうか。
(pp.88-91 ed.)

「朝早い時間にお電話をして申し訳ございません!」
「夜遅い時間、お疲れのところ申し訳ございません!」
「お仕事中申し訳ございません!」
「申し上げにくいのですが、ご入金の確認が取れていません!」
「度々お電話して申し訳ありません!」
→人間、先に謝られてしまうと、その上さらに起こりにくいのかもしれない。
(p.98-99 ed.)

督促の仕事を続けて行くためには、怒鳴られたり感謝されなくても平気な「心」を作らなきゃいけない。
→なぜ怒鳴られたり罵倒されたりすると傷つくのか。それは、人間には自尊心があるからだ。
→ぞんざいに扱われたり軽んじられたり、ひどいことを言われたり、お礼を言われなかったりすると、自尊心が傷ついたり満たされなかったりする。
→私の痛みの源になっているのは、自尊心、つまりプライドだ。
→私はプライドが高かった。だって自分に自信がなかったから。自信がない人はプライドを高くすることで自分の心を守る。
→でも、いきなり自尊心を消すのは無理な気がする。
→埋葬しよう!消せないなら、埋めてしまえばいい。
(pp.130-140 ed.)

先輩M井さんの対応
「どうなってんだよ、オイ!」→あっ……お客様、どうかされましたか?
「ふざけんな!ぶっ殺すぞ」→申し訳ございません
「バカヤロウ!!」→スミマセン!!
「死ね!」→ハイ♡
(p.138)

M井さん
「実はボク、お客さまに言われた悪口をコレクションしてるんです。いつか自分だけの『悪口辞典』が作れるといいな〜と思って」
「ノート付け始めてから1年半ぐらいなんですけど、まだこれしか集まってないんですよね。最近じゃお客さまにひどいこと言われると、『やった!これでまたノートに書ける!』って嬉しくなっちゃうんですよ」
「もしこのノートが悪口で一冊埋まったら、それはそれはすごい贅沢をしようって計画してます。だからもう悪口は、ボクにとってご褒美なんですぅ!」

私も次第に電話で怒鳴られることが待ち遠しくなってきた。そしてとうとう、
「あ〜あ、あと1回で10ポイント達成なのに、昨日も今日も全然怒鳴られなかったなあ……」
 なんて、お客様に怒られなかったことをがっかりする始末。
(pp.146-149 ed.)

「とにかく、ゆっくりしゃべって。そうしたら自信がありそうに聞こえるから」
(p.151)

「私、クレームとかでお客さまに怒鳴られると、とっさに言葉が出てこなくて、何も言えなくなっちゃうんです。だから、そういう時はこの付箋を読むことに集中するようにしているんです」
「俺は気が短くて、お客さんに悪口を言われるとついカッとなってケンカ腰になってしまうんだ。だから冷静になるために頭に血が上った時に付箋を読むようにしている」
(pp.155-156)

M井さん
「『申し訳ございません』を繰り返してる電話って、聞いていてくどいんです。謝るときのコツは、『具体的』に謝ることです」
「お客さまがこちらの態度に不満を持っていたらその気持ちに対して、商品の不具合を言ってきたらそのお手間に対して、お客さまが怒っている内容を具体的に前に付けてから、『申し訳ございません』と言うんです」

「カードが店で使えなくて大変だったよ!」
「お店で恥ずかしい思いをさせてしまい、申し訳ございません!」
「さっきのオペレーターの態度が気に入らない!クビにしろ!」
「先ほどの者がお客さまに不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません!」

「いいですかN本さん、クレームを言ってくださるお客さまは、謝って欲しいと思ってるだけじゃなくて、自分の気持ちをわかってほしいから電話をかけて来るんですよ」
(pp.186-187)

M井さんによれば、大抵のお客さまは私たちのカードに不満を持っていても、何も言わずに解約してしまったりするから、クレームを言ってきてくれるお客さまは、ありがたいという。

「なんで何度も電話かけてくるのよ!あんたたち、しつ

いのよ!」
「ご迷惑をおかけします、でもちゃんと電話に出ていただいてありがたいです!」
「何度も電話してこなくていいでしょ!?私は毎月遅れてもちゃんと入金してるんだから」
「いつもご入金いただいてありがとうございます。電話しつこくてすみません!」
「だいたいあんたたちの対応はなってないのよ!」
「貴重なご意見をくださりありがとうございます!」

「謝罪は何度も繰り返すと誠意が薄まるので、黄金比は謝罪2に対しお礼1です。『申し訳ございません』が3回続くとくどいと考えてください。『申し訳ございません』を3回使っていいのは、クレーム対応を締めくくるときだけです」

「『ありがとうございます』は、ありふれた言葉でお店でもどこでも言われます。聞かない日はありません。だから大げさな暗い気持ちを込めないと心を打たないんですよね。」
「たとえば今目の前で一番大事な人が、瀕死の状態だと想像する。その人にはもう一生お礼が言えませんよ、最後だと思ってありがとうと言ってみて下さい」
「いいですね!それじゃあ次は自分が死ぬバージョンをイメトレしてみましょう。はい、次は数日間何も食べてないところに食べ物を恵んでもらったシチュエーションで、『ありがとう』!」
(pp.207-209 ed.)

 最近、久しぶりにキャッチセールスに声をかけられた。
 「お姉さんちょっと待って!今そこで化粧品のお試し会をやってるんでぜひ寄ってってくださいよ!!」
 不覚にも腕を取られてしまった、どうやら相当押しの強いキャッチらしかった。でもそこで、私の口からは反射的に言葉が出てきた。
 「お役にたてなくて本当にごめんなさい!今ちょっと急いでるんです!」
 いきなり謝られたことにびっくりしたのか、声をかけてきたお兄さんに隙ができた。
 その隙に、するりと腕をはずして「声かけてくれてありがとう、それじゃ!」と言って走って逃げる。最後に嫌な言葉を浴びせかけられることもなかった。
(p.231)

 古戦場のようなコールセンターで働くうちに、いつの間にか自分の体にはたくさんの言葉の刃が突き刺さっていた。でも、その一本を引き抜くと、それは自分を傷つける凶器ではなく剣になった。その剣を振り回すと、また私を突き刺そうと飛んでくるお客さまの言葉の矢を今度は撥ね返すことができた。それから、仲間を狙って振り下ろされる刃からも仲間を守ることができるようになった。そうか、武器は私の身の中に刺さっていたのだ。
 仕事をする中で誰かから傷つけられることはたくさんあったけど、そのおかげでできるようになったこともたくさんある。今まで私が先輩やお客さまからもらってきたのは、これからより強く生きて行くための武器と盾だったのだ。
(p.233)

 私はこの本を3人の人に届けたくて書きました。
 一人間は、全然督促ができなかった、昔の私に。
二人目は一緒に働いてくれるオペレーターさんと同僚に。
 そして、三人目は今も私の隣の部屋にいる弟に。
 私には、統合失調症で今も部屋から出られない状態の、ひとつ年下の弟がいます。もし、あなたが外に出られるようになって、仕事をするときに、心と体を守るために少しでもこの本が役に立てばと思いました。
(pp.234-236 ed.)

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

END