BLOG&NEWS

勉強になりましたっ!

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

ポッドキャストなどを聞きながら出勤。授業。昼休みはたまには学科の先生方とと思って、学食の教職員コーナーに行く。いつもは結構メンツがそろっているのだが、今日はK先生だけ。ひとしきり研究の話をしたあと、飲みに行く話などで盛り上がる。

どうも寝違えたようで、首が痛い。右の肩甲骨の横辺りも痛い。夏に痛めたのと同じ場所だ。痛みをこらえつつ授業。空き時間には書類の作成など。その後授業。

実は授業の後に四谷まで移動し、集まった学生たちに対して「私はどうやって通訳者になったのか」というようなことを話すことになっていた。通訳サミットで、Fさんという、今後独立して就職カウンセラーだかを目指すのだという会社員と話したのだが、彼がやっているセミナーのようなものでそんなことを話して欲しいという。

口約束はしたものの、その後音沙汰がなく、J大の裏のアイリッシュ・パブでやるというその会合の具体的イメージもつかめないままだった。5月に大学で似たような内容の講演をやったのだが、そのときのパワーポイントのデータなども持っていった方が良いのだろうか。Fさんから連絡があったら聞いてみようと思っているうちに、当日になってしまった。

う〜む。出来れば鍼灸院で鍼治療を受けたいような体調なのも手伝って、「お家に帰りたいモード」になる。そうは言っても、先方でアテにしているのかもしれないのだから、ドタキャンはまずいだろう。授業が終わってすぐに電車に飛び乗れば、まあ約束の20時ごろにはたどり着けると思う。

などと思っていると、授業が終わったあとに通翻課程の学生が、留学などについて相談に来た。こういうのは苦にならない。むしろ大歓迎だ。40分ほど相談にのって彼女を帰し、駅に急ぐ。19時27分の電車に乗って、四谷到着が20時17分だから、パブにつく頃には30分の遅刻だ。途中で連絡を入れるとしよう。

途中走ったりしながら大急ぎで駅に向かい、電車に飛び乗る。車中単語暗記。東京駅について、長い長い乗り換えの道を歩きながら、件の彼に電話をかけた。

「あ、もしもし、いぬです」
「あ、お世話になってまーす」→(え?ひょっとして、僕が誰か分からないのかな?)
「あの、通訳サミットでお会いした。今日、お話をすることになってますよね?」
「……あ、あー!はい、ええ、よろしくお願いします」
「それで、申し訳ありません、30分ぐらい遅れそうなんです。今、東京駅なんですよ」
「あ、大丈夫ですよー。それではお待ちしてまーす」

……Fさんあなた、僕に話したこと、忘れてました?

もともと低かったモチベーションが、完全にゼロになった。か、帰りたい。そうは言っても、行くといった手前、もはや後戻りも出来ずに機械的に左右の足を前に出す。

階段を登ってパブの扉を開けると、Fさんが「あ、お疲れ様です」と言って出迎えつつ、何やら書かれた紙を取り出す。

「それであのう、この中だと、どの分類になりますかね?」

そう言われて見てみると、

「社長 2000円、社員 1000円、学生 (いくらだったか忘れた)」

などと書いてある。え?金取るの?

「う〜ん、まあ、社長じゃないですけど、社員ってわけでもないでしょうし、良いですよ。2千円払います」

などと答えて会費を払うと、出席者一覧のプリントアウトに、Fさんが僕の名前を手書きで書き込んでいる。あ、やっぱり頭数に入っていなかったんだ。「枯れ木も山の賑わい」というが、どうやら「枯れ木」だったようで。

パブの喧騒の中で、いくつかのテーブルに分かれて学生さんと社会人らしき人が飲みながら話をしている。自分でドリンクを注文して金を払い、その中のテーブルの1つに案内されて腰を下ろした。

学生さんが3人、社会人が2人。自己紹介から僕の仕事のことなどをちょこちょこ話す。何が聞きたいんだろうと思いつつ、探りを入れるもののいまいち反応が鈍い。どうも起業志向の学生さんの集まりのようだ。だとしたら、僕は場違いだろうなあ。

仕方がないので好き勝手に話す。仕事の話から、教育に関する話になり、「解なし学習」などについてあれこれ話した。なんだか授業をやっているような感じだ。やれやれ。

そのうちベンチャー企業の社長さんが来て、ワイワイと座を盛り上げてくださった。基本的に学生さんは聞くだけ。就職セミナーなどを良くやるというだけあって、「ほほう」と思うことをおっしゃる。

面白いと思った点を僕がメモに取っていると、学生さんのうち1人は同じようにメモを取っていたが、それ以外の学生さんは、聞き流すだけ。あの話には興味はなかったのかな。もったいない。

2パイント目のビールを飲み干した辺りで22時になり「一応、中締め」とのこと。「後は終電に気をつけて飲んでください、でも、逃しちゃったときはご相談ください。赤坂プリンスの部屋を取って、社長とじっくり話せますから」、などとFさんが言うが、直後に社会人の女性が「お疲れ様でしたあっ!」と言って席を立った。ちょっとしてから僕も退散する。

バブルの頃によくあった(とは言っても、僕は参加したことがないが)、小金を持っている学生たちのお遊びの現代版、という感じがした。何だろう、とにかく何でもスマートに格好良く、という感じが前面に出ているというか、いや、そうでもないな。要は就職活動にも「正解」があって、それを手に入れなきゃと「真面目」に努力している学生たちに対する歯がゆさと、そういう学生をある意味食い物にしたビジネスに対する反発とでもいう感じか?

確かに就職関係のセミナーで「お金は取っていな」かったり、取ってもスズメの涙で「大赤字」だという社長さんの言葉には、ウソはないのだろう。しかし、その「セミナー」とやらで、「これが正解。これさえ知ってれば大丈夫」ということを学生に吹き込むわけだ。そう言ってたし。個人的には、それはどうなんだろうなあ、と思う。

どうせ赤字覚悟でやるなら、その内容をネットで公開すれば、足を運ぶ苦労すらなくなって今の学生さんにはより歓迎されるだろうに、などと意地悪なことを思ってみたり。

最寄り駅についてから、駅前の居酒屋のカウンターで、英字新聞を読みながら飲みなおす。非常に考えさせる記事があって、学生たちにfood for thoughtとして読ませようと切り抜きながら串焼きをかじっていた。まあ、あれだ、あちら側の方々からはいろいろご意見もありましょうが、自分にとって楽しいのは、こういうことなのだよな。

ちなみに翌日にFさんか

メールがあったが、その文面を見て、またうなる。

「いぬ様

××キャリア塾のFでございます。

先日は四ッ谷までご足労いただきましてありがとうございました。

将来が希望に満ちた大学生達の前で社会人の方の生の経験を語っていただくのは非常に大学生にとって有意義なことだと感じておりますが、いぬさんはどう感じましたでしょうか?

学生の皆さんは喜んでいました。
またの機会に是非遊びに来ていただければと思います。

ありがとうございました。

F」

ええとですね、「遊びに行った」つもりはないです。

なんて皮肉の1つも言いたくなってくる。どうせコピペメールなんだろうから、細部に突っ込むのは的外れだろうけれど。

しかしまあ、何にしても、僕も余りにも常識がなさ過ぎた。最初に話した時点で、一体どのような集まりで、自分にどのような役割が期待されているのかということをしっかり確かめ、その後もメールなどで密に連絡を取り合って当日を迎える(もしくはお話をお断りする)べきだった。授業料として考えてみると、とても「お得」だったと思う……ことにしよう。さもないと、自分のバカさ加減に自分で腹が立つ。うがあっ!

Written by

記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

END