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「社長」観察記録

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

我が家の娘は、ブログ「うちの3姉妹」の三女「ちー」ちゃんに言動が似ているので、「ちー」ちゃんと同じく「社長」というニックネームを奉られている。まもなく小学校入学式を迎えるが、このあたりの年齢の子供はただでさえ言語習得の上で面白いステージにいるのに加え、娘固有のキャラも加わり観察していて飽きない。ここ数ヶ月の観察結果を疲労する。いや、披露する。

その1

妻から聞いた話。

保育園からの帰り道、車中からお店の看板を見ていた社長が、おもむろにおっしゃった。

「ねえ、『ドルフィン』って、イルカだよね」

「そうよー」

と答える妻。すると社長がさらに言葉を継ぐ。

「あのさあ、イルカを食べる人もいるの?」

ど、どどど、どうしてそんな社会派な発言をなさるんでしょう!?
ハンドルを握りつつ、妻は苦悩しつつも何とか答える。

「う、うーん、そうねえ、昔から食べてる人も、いるよねえ」

「プリンと一緒に?」

「へ?」

「だって、看板にそう書いてあったもん」

おかしい。保育園の送迎で通い慣れた道に、イルカの肉を売っている店はなかったはず。
ハンドルを握る手に思わず力を込める妻。

一方社長は、何かの真理を悟ったという表情で、こうのたまった。

「さっきの看板に、『プリンとドルフィン』って書いてあったよ」

その刹那、妻の脳裏にひらめくものがあった。

「Kちゃん、それ、『プリント・ドルフィン』って名前の写真屋さんよ〜!」

謎は全て解けた!(古いか)

その2

朝食でのこと。

社長に「トーストにジャムを塗ってくれたまえ」と頼まれたので、仰せの通りにしたあと、パンを渡すときにちょっと遊んだ。

「お手」

「はい」

「おかわり」

「はい」

「お手々にチューして」

「もー、早くちょうだい!」

ガブッ!

左手に走る激痛。

「痛ててて!こら、Kちゃん!噛んじゃだめ!……、あー痛い。歯型がついちゃったよ。ひどいなあ。よだれもベタベタだから、ちゃんとティッシュで拭いてよね」

おもむろにティッシュで自分の口元を拭う社長。ユニゾンで突っ込む両親。

「そっちかーい!」

その3

社長が、妻に絵を描いてプレゼントした。女の子が、かわいいハンドバッグを持って、ウインクしている。

「あらー、かわいいハンドバッグ。お母さんも欲しいな。どこで買ったのー?」

と妻が尋ねると、社長は言葉少なに、こう語ったそうだ。

「ロジャース」

膝から崩れ落ちて床を拳で乱打する妻。面白いことに乗り遅れたかと、慌てて集まる僕と息子。その一方で「画伯」はというと、

「何が面白いのかね」

といった風情で、ちょっと不機嫌そうであった。

注:「ロジャース」とは、我が家から徒歩3分のところにある、ディスカウント・スーパーである。別に、悪いお店と言うわけではないが、売りは安さ!という系列のお店であるとご理解いただきたい。

その4

朝の食卓でのこと。息子のNと僕と、「社長」こと娘のKとで、「お家」の話になって。

N「僕、大きくなったら一軒家を建てるんだ!」

僕「おおー、良いねえ。建ててよ、お父さん泊まりに行くから」

K「Kはねぇ、『二軒家』建てたい!」

N、僕「はあっ!?」

K「二軒家はねえ、家が三軒あるんだよ」

N,僕「………?」

K「3階まであるの」

もはや、何が何やら。

その5

お風呂で一日の疲れを癒す社長。ご機嫌で歌をおうたいになっている。

「いっちねんせーになったーらー……」

おお、そんな歌を歌う時期になったよなあ、などと思いながら聞いていると……。

「ひゃーくにーんで食べたいなー。おっかずーのうーえでー、おーにぎーりをー」

……、イヤです。

その6

今日は楽しいひな祭り。というわけで、我が家のお雛様こと社長もテンションが高い。

夕食にちらし寿司を食べた後は、もちろん社長のピアノ弾き語りで「ひな祭り」を歌う。

いつのまにそんなに弾けるようになったんだと驚く一方で、そこはやっぱり探り弾き、「一緒に歌いたまえ」と言われてもなかなか大変だ。転調しまくり、弾き直ししまくり。

カラオケで歌っている最中に、キーチェンジのボタンと一時停止のボタンを押されまくっているような状況なので、妻と息子と3人でゲラゲラ笑いながら、それでも必死で歌っていたところ、「ちゃんと歌うのだ!」と社長の逆鱗に触れてしまった。

そうは言っても良く聞いてみると、社長自身が妙な歌詞で歌っている。

「お花をあげましょ、ぼんぼりに〜」

……あげてどうする。

笑い出したくて仕方ない息子。「まて、今笑ったら、また最初から歌いなおしだぞ」と目と身振りで制する僕。狙い済ましたように弾き直しをしまくる社長。

「ごー、ご、ごーーーーー、ごーーーにんばやしの、笛太鼓〜」

息も絶え絶えで最後の一節を歌い終わったところ、社長の無情な声が響いた。

「つぎ、2番〜!」

ジャ、ジャイアン・リサイタルだったのかあっ!

結局その調子でフルコーラス歌わされ、さらになぜか「七夕」まで歌ってリサイタルの幕は閉じた。その後も社長は絶好調。僕の従兄弟から届いたプレゼントをあけて、数字のハンコが入っているのを見て、息子が「数字の印鑑だね」というと、こうおっしゃる。

「印鑑って、食べられるの?」

涙を流して笑い転げる社員3人。

しゃ、社長。そりゃ「ようかん」ですがなっ!

その7

今日も今日とて、朝食の食卓で珍発言を連発する社長。社員一同は笑いすぎて酸欠状態である。

「お口ふくから、クリネックレス取って」

身に付けないように。

「北極の寒いところにはね、エモスキー犬がいるの」

ロ、ロシア系イヌイットですかっ!

「あのね、ビッグ・ベンの鐘が鳴るときにはね、ハトが出るんだよ」

うそこけっ!どんな勇壮なハト時計ですかっ!

ちなみに、今朝は妻の珍発言もあった。前日の通訳でとっさに訳語に詰まったという話で、

「あのさあ、自由の女神が右手に掲げてるの、あるじゃない?あのー、何だろあれ。懐中電灯?」

あの時代にそんなものがあるかあっ!

その8

帰宅してみると、PCの上に娘のお手製らしき本(のようなもの)が載っている。

表紙には「くまのぷさん」。

アンニョンハセヨー。弟は「くまのそうる」かな?

……と思ったら、小さく横棒があった。「くまのぷーさん」らしい。

ページをめくって見ると、ます1ページ目に伸びをするぷーさんらしきものが描かれている。

2ページ目には「はあ よくねた」の文字。

ほうほう。それからどうしたのかな?と思ってページをめくる。

……以下余白……

一体、ぷーさんの身に何が起きたのか。それは社長のみぞ知る。

妻によると実はゴミ箱に捨てられていたのだそうだが、あまりの衝撃的展開に「これはぜひ見せねば」とresurrectしたのだそうな。おかげで疲れも吹き飛んだ。腹筋は疲労したが。

その9

朝食のテーブルで、息子がヨーグルトを食べつつ、いきなりこう言った。

「あのさあ、ヨーグルトって、腐ってんの?」

ブホッ!

残る3人のスプーンが止まる。ううむ、まあそう言えばそうだが。説明せねばなるまい。

「まあ、そうとも言えるね。小さい小さい生き物が、いろんなものを腐らせるんだ」

「ふーん」

「でもね、それが人間に都合のいい腐りかたの時は、『発酵』っていうんだよ。聞いたことない?」

「あっ。『発酵飲料』って聞いたことある!」

「そそそそ。ヤクルトとかね。後は、どんなものがあるでしょう。ヨーグルトも牛乳が発酵して出来るよ」

「納豆!」

「おっ、よく気づいたねー。あとは、お酒なんかもそうだな。パンだってピザだって、生地を発酵させるんだよ」

と、そこまで黙っていた社長が、どうにも会話に加わりたくて辛抱たまらなくなったらしく、いきなりこう切り込んできた。

「あのねえ、あのね、じゃあ、『おひなさま』は、何が『はっこう』して出来るの?」

涙を流しながら悶絶する社員3人。社長、ご立腹。

発酵して作るお雛様……こ、怖い考えになってしまった。

その10

音楽好きな社長、今日もピアノの(ジャイアン)リサイタルを開いた後、ご機嫌で歌っていらっしゃる。

「手〜のひらを〜太陽に〜流してみ〜れ〜ば〜」

妙なものをとんでもないところに流さないように。

っていうか、「手のひら」だけを流すのって、難しいと思うよ。

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

END