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空手の稽古

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

某日、空手の稽古に行く。

Tさんの10人組手(昇段審査)だ。このところなかなか稽古に行けなくて、実は新年明けまして初稽古となる。Tさんの黒帯が掛かった審査なら、ぜひ応援せねば。

幸い黒帯に混じって審査組手のメンバーに入れてもらったので、お相手も出来ることとなった。

このところのジョギングの成果か、実に体のキレがよい。軽やかに動くという感じだ。いつもはなかなか当たらない回し蹴りも、間合いを上手く取れているのか、実に良く届く。

右の回し蹴り。あのタフなTさんが、体を2つに追って「うっ!」と呻いている。チャンスだ。一気に距離を詰めて、中段突き。1発、2発、3発。連打が決まる。どうしちゃったんだ、今日は。実に拳に体重が乗っている。

「やめ!中段突き、技あり!」

おお、久々に技ありが取れたぞ。

「始め!」

の合図とともに、右の回し蹴り……はフェイントで、そのまま後ろ蹴りにつなげる。ズシッという手ごたえ。

「やめ!中段後ろ蹴り、技あり!あわせて一本。それまで!」

おおー、ずっと「出来たら良いなあ」と思っていた連続技が決まった!……のは良いんだけど、「それまで」って、どういうことだろう。審査だから、Tさんから何本とろうが、規定の2分間は組手は続くはずなのだが。

そう思って先生を見ていると、口を開いた先生の声が、普段とは違っていた。

「我孫子〜、我孫子〜」

へ?何?え?と思いながら辺りを見回すと、開いたドアからゾロゾロと人が降りて行く。

夢オチかー!なんてリアルな!

などと思いながら慌てて下車。道場に向かった。

結論から言うと、黒帯に混じって一人だけ色帯(茶帯)の僕も10人組手のお相手をすることを許していただいた。もちろん1人目だ。ここまでは夢の通り。よーし、あんな感じでガツガツ行くぞ、と思いつつ体を温める。

Tさんは、いつもの飄々とした感じが若干薄れているような気もするが、それでも何だか余裕がありそう。「頑張って下さい!」と声をかける。身長は僕より少し高いぐらい。180センチぐらいか。体重は僕より軽い。筋肉質で打たれ強く、伝統派の黒帯も持っており、技も切れる。いつもの調子なら完遂できるとは思うが、10人組手には、魔物が潜んでいるからなあ。

先輩方から「あれ?いぬさんも、今日だっけ?」と言われて、大いに焦りながら残像が残るほど首を振った。とんでもないとんでもない。体も全然出来てませんし、1ヵ月半ぐらいブランクがあって、組手のカンも鈍ってますし。「大丈夫、出来るよ」「やっちゃえば良いのに。夏の審査まで悶々とするだけだよ」などといろんな方から言われたが、こればっかりは、どうにも。申し訳ありません。

始めの合図とともに、一気に飛び込む。今日は多少の反撃は覚悟で、とにかく前に出て、踏み込んで突き蹴りだと心に決めていた。全力で、倒しに行くつもりでお相手する。それが礼儀だから。

……などと思っていたのだが、蹴りはかわされ、突きはブロックされて手が痛い。会わない間に、一気にレベルが上がったような感じだ。とにかく接近戦に持ち込んで、回し蹴りをして中段突き、Tさんが反撃したところで前蹴りを放って距離をとる。

ちきしょー、突きも蹴りも、威力が全然足りない。豆鉄砲で戦車に立ち向かうような感じだ。

途中Tさんがススッと距離をとったところで、子供のケンカのようにフットワークも使わずバタバタと走って追いかけて、腰の入っていない中段突きを放ちながら「うわー、素人丸出し」と自分でも思った。しかしどうにも出来ず、それからもひたすら突いて蹴って突いて蹴ってと、手足を振り回し続けた。

そろそろ2分経つかなと思って、息も切れたしちょっと待ちに入ったところで「残り1分!」の声がかかり、「マジかよ」と愕然とする。

Tさんも、呼吸が乱れているが、僕の方が息も絶え絶えで、なんとも情けない。僕は1人相手すれば良いが、Tさんはその10倍だというのに。気力を振り絞って、一発でも多く打ち込むが、とにかく非力さが悲しい。非力もそうだろうし、力の使い方もまずいのだろうな。

一方的に消耗して(先生の講評では、Tさんも消耗されていたとのことだが、実感としては一方的な感じ)組手終了となった。

その後、黒帯の先輩方の組手を見ていると、実にあっけなく攻撃がTさんにヒットするので、なぜなのだろうと思いながら観察していた。要はガードの状態から攻撃に素早く移るというのがポイントなのかなと思う。また、自分の体の動きで相手の動きを上手くコントロールしている。

僕だって攻め込んでいけば相手は何らかの動きをとるわけで、それすらも攻撃に利用できれば、それはかなり思い通りの組手が出来そうだなあ。「後の先」とか「先の先」とか言うのは、そういうことなのだろうか。

でも、何にしても基礎体力をつけないと。力も、スタミナもまだまだ足りない。夢の中だけの大活躍では悲しすぎるなあ。

Tさんは見事に10人組手を完遂され、黒帯の猛者連から「あと3人ぐらいいけるんじゃないの?」などとからかわれていた。すぐに矛先がこちらに向き「で、いぬさんが来週だっけ?」などと言われるので、慌てて逃げまくった。

2部の宴会も大いに盛り上がり、久々の参加だったこともあって、僕も楽しく飲んだ。もっとも、僕の10人組手挑戦の話は、しばらく酒の肴になりそうな感じだったが。

やはり、この道場は良いなあ。そんなことを思いながら帰って風呂に入ると、体中にあざの斑点が出来てましたとさ。

どっとはらい。

「おまけ」

雪が降っていると聞いて、娘が上機嫌で歌いだした。

「ゆーきやこんこん、あられやこんこん、ふってもふっても、『ルンルン』つーもるー」

ふふ。気持ちは分かるよ。あんまり積もらなくて、残念だったね。

Written by

記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

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