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泣くほどやりたいこと

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

何かがやりたくてやりたくて、それが出来ずに思わず涙を
こぼす。そんな経験を最後にしたのは、一体いつのこと
だったかなと思います。

現在我が家の息子は6歳。小学校に入学したばかりです。
娘は4歳。幼稚園の年中さんになりました。そういうと、
「今が一番幸せな時よ〜」などということをよく言われる
のですが、実際にはどうかというと、日々怒鳴りっぱなし。
恐らくは、そんな日々が過ぎた後に振り返って「あの頃は
幸せだったなあ」と思えるのではないでしょうか。

「ご飯だよ〜」と呼んでも、息子は「今、工作が良いところ
だったのにー!」と大泣きし、娘はというと、「わんちゃんを
ねんねさせてからー!」と涙の訴えをしています。私は
おたまを握ったまま、「またかよぉ・・・」と怒りモードが
スイッチ・オンになってしまい・・・まあ、そんなわけで、
血圧を上昇させる材料には事欠かず、日々忍耐力の限界に
チャレンジしてはあえなく敗退することを繰り返しており
ます。

(もちろん自分の事は棚に上げて言っているわけで、妻からは
「酔っ払い方がだらしない。あんな姿を見せていたら、子供が
言うことを聞くわけがない」と厳しいご意見を頂戴しているの
ですが・・・。反省。)

しかし、中断されたのがイヤで泣きたくなるほどやりたい
ことが今の自分にあるかどうかと考えると、しばし腕組みを
してしまうのです。もちろん大人がそうそう「これがやり
たいよー」と涙を流すことはないのが普通ですが、それでも
それほど強烈な思いいれを持つものがあるというのは、なか
なかに大切なことなのではないでしょうか。

息子は工作と読書、特に読書が大好きで、放っておくと
一日中でも読んでいます。特に教えたわけではないのですが、
読み聞かせているうちにひらがなとカタカナだけではなく、
簡単な漢字も読めるようになってしまったので、ますます
読書にのめり込み、気付いたら近視になってしまっていました。

最近では15分のタイマーをつけて、少し読んでは目を休める
ように言い聞かせているものの、最初のうちはタイマーが
鳴っただけで号泣です。「1分間、窓から遠くを見るだけ
だよ」と説得しても効果はありません。それほどまでに
読みたいのです。

人間、それほどまでにやりたいことがあれば、それをしている
ときには幸せだろうし、日々も充実するのだろうなあと思い
ます。子供にはそんな「泣くほどやりたいこと」が一杯あって、
だからグングンと成長していくのかなと思うのです。

その一方、我が身を振り返ってみると、どうも生ぬるい
日々を歩んでいるような気がしてなりません。最近「ぼくには
まだ1本の足がある」という本と「飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ」
という本を読んだのですが、これは両方とも、病のために命を
落とした人の遺稿です。

特に後者は筆者の井村和清さんが私と同じ30代ということも
あり、いろいろ感じることがありました。「あと5年生きられ
れば、いろいろ実現できるのに」と文字通り血を吐く思いで
語る姿に、襟を正す思いです。5年といわず、あと3年生き
られれば、日本の医療に大きな影響を残すことになった
だろうなと思います。

もちろん死期を自覚した方の覚悟した日々と、自分の日常を
そのまま比較するわけには行きませんが、あまりダラダラと
過ごしていては申し訳ないな、と思うのです。

しかし正直なところ、自分の中に「泣くほどやりたいこと」
が上手く見つけられません。基本的にお気楽に出来ている
のか、「まあ、住むところがあって、家族が元気で、できれば
面白い本があって、ご飯が美味しければ、それでいいや」という
深層心理があるのかなとも思います。そのうち一つや二つ
満たされなくても、まあいいや、といういい加減さもあるの
でしょう。

通訳者としては、「通訳の勉強と通訳の実践が、泣くほど
やりたい」と言えれば、実に格好いいのですが、そんな
気持ちもありません。もちろん仕事の手を抜いているわけでは
全くないのですけれども。

性格的なものなのか、「目標を定めてそれに向かって・・・」
ということが、どうもピンと来ないんですよね。目標が何なのか
よりも、そのプロセスと言いますか、日々の充実(と、ある意味
での平穏)が自分にとって一番大切なようです。

問題は、この傾向はともすると「問題の先送り」や「同じミスの
繰り返し」になりがちで、人生にはきちんと経験や努力を一定
方向に積み上げてクリアすべき目標もある、ということです。

目標達成型の人間には、身近に妻というお手本がいるんです
けれどね。手帳には「やりたいことリスト」が、チェック
ボックスつきで並んでいます。チェックがつくほど、「思い
通りに目標が達成出来た、充実した日だ」ということだそうで、
まねして私もやってみるんですが、「手紙を出す」やら
「ねぎを買う」やら、大した事がリストアップ出来ず、単に
行動予定表と化しています。

しかしまあ、苦手だとばかりも言っていられませんね。通訳者と
しても研究者としても感じている壁を打ち破るには、短期間に
せよ、息子が読書に注ぐような桁外れの集中が必要なのだな
と思います。

山も落ちもない話のままで恐縮ですが、子供たちが起きだした
ようなので、そろそろ切り上げねばなりません。

さてと、また、新しい一日の始まりです!

Written by

記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

END