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シューマンにはまっています

さるるん@ロシア

通訳・翻訳者リレーブログ

1月下旬に一時帰国から戻ってきて荷物のアンパッキングをしていたら、また腰を痛めてしまいました(昨年末からの腰痛がようやく治ってきたと思っていたのに)。大型案件を抱えていたのですが、腰痛と時差ボケのダブルパンチに1週間程悩まされ、何とか回復してきたと思ったら、今度はたちの悪い風邪をひいてしまいました。仕事が遅々として進まず焦りましたが、怒濤の追い上げを図り、金曜の朝に何とか納品を済ませました。この週末は、魂が抜けたような状態です。

一時帰国中に、遅ればせながら奥泉光の『シューマンの指』を購入。ミステリーなのですが、クラシック好きには殺人事件なんかいらないよと思うほど、音楽小説として興味深い作品です。読んでいると、シューマンのピアノ曲が無性に聞きたくなるのです。特に幻想曲Op.17。楽譜があった方が、読書の助けになるので、YouTubeのホロヴィッツの演奏に頼りました。
http://www.youtube.com/watch?v=l5cmBah0F20 

今まで、シューマンのピアノ曲は、好きな曲も数曲はあったけれど、全般的に苦手でした。それが、この小説を読んだら、俄然、どの曲も魅力的に思えてしまいます(単純だな、私)。手元にあったのに、ちゃんと聞いたことのなかったCDに収録されているダビッド同盟舞曲集が急に好きになり、毎日のように聞いています。『シューマンの指』効果、恐るべし。

加えて、これまた積読になっていたシューマン著『音楽と音楽家』を読み始めたのですが、これもおもしろい。吉田秀和さんの訳が、と言うか文章が素晴らしい!シューマンが直接語りかけてくれているような気がします。今まで音楽評論というものを何となく敬遠していたのですが、これを機に、吉田秀和さんの著作を(これまた本当に遅ればせながら)読んでみようかなという気になりました。

最近、生で聞いたシューマンは、ロシアの若手ピアニスト、ルーカス・ゲニューシャスの演奏。祖母にあたるヴェラ・ゴルノスタエワが、シューマンについて解説をしてから、孫のルーカス君が演奏するという形式でした。

シューマンから話はそれますが、ちょうど昨年末から少しずつ、ゴルノスタエワの著書『コンサートのあとの二時間』を読んでいたところで、その日もメトロでの読書用にその本を持っていました。解説を終えたゴルノスタエワが私のすぐ近くの席に着かれたので、休憩時間に著書にサインをいただくことにしました。「エタ・マヤ・ヤポンスカヤ・クニーシカ(日本で出された私の本ですね)?」「ダー」というやりとりの後、エレガントな日本語で「ありがとうございます」と言って下さいました。この著書が出された1994年頃、ゴルノスタエワはNHKの音楽番組(シリーズ物)に出演されていたので、日本を懐かしく思い出して下さっているようでした。

『コンサートのあとの二時間』は、「ソ連」に翻弄されながらも芸術の力、自由を信じて生きた音楽家たちの生き様に深い感銘を受ける素晴らしい本です。廃刊になっていて古本しか手に入らないようですが、クラシック好きの方、ロシアに興味がある方には是非読んでいただきたいです(とても狭い範囲への呼びかけです)。ゴルノスタエワのサイン入りのこの本はいずれ娘に贈るつもりです。彼女のもうひとつの祖国の歴史と誇り高い人々のことを知ってもらうために。

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記事を書いた人

さるるん@ロシア

米系銀行勤務後、米国留学中にロシア人の夫と結婚。一児の母。我が子には日露バイリンガルになってほしいというのが夫婦の願い。そのために日本とロシアを数年おきに行き来することに。現在、ロシア在住、金融・ビジネス分野を中心としたフリーランス翻訳者(英語)。

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