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Interpretation

さるるん@ロシア

通訳・翻訳者リレーブログ

モスクワ生活での最大の楽しみはコンサート通い。
先週は、お気に入りのピアニスト3人が次々とコンサートに登場。ニコライ・ルガンスキー、フョードル・アミーロフ、アレクサンダー・コブリン。そりゃもう大喜びで通いましたとも。

そのうちアミーロフとコブリンは、なんと一日違いで二人ともラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏しました。二人とも20代後半。どちらもピアノの音の響きが独特で好きなんです。思いがけず、二人のinterpretationを聞き比べるチャンスに恵まれ、もう何日も前からわくわくしておりました。隠れテーマとして、音楽のinterpretationと、翻訳におけるinterpretationについて考察しようとも思っていました。

アミーロフは、2007年のチャイコフスキー国際ピアノコンクール第6位。モスクワを中心に年数回コンサートに出ていますが、協奏曲を演奏する機会は少ないです。たぶん年に一度弾くかどうかといったところ。おまけに本人も「自分はクラシック向きの人間じゃないから」と現代音楽、民族音楽やロック等他ジャンルの音楽との融合の試みに心ひかれてるようで、今回の公演も「えっ?僕がラフ2をやるの?」という戸惑いがあったのかも。

コブリンは、2005年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール優勝者。海外での演奏機会も多く、モスクワでもソロ・リサイタルのほか年2回は協奏曲を弾いているし、CDも多く出しています。演奏は、甘さひかえめ、ストイック、既成の解釈にとらわれずに自分の解釈を表現しようとする印象があります。

今回聞き比べてみて、interpretationという以前に、経験の違い、曲に対する態度の違いが歴然と出ていたように思いました。

アミーロフはオケと演奏する経験が圧倒的に少ないせいか、借りてきた猫のよう。曲を弾きこんでいなかったのか、肝心のところでミスタッチして決められない。なんとか最初から最後まで弾き通しましたという演奏で、アミーロフがこの曲で表現したいものが伝わってこない。期待していただけに残念。アンコールで一曲弾いたのですが、こちらはのびのび自由に弾いていて、アミーロフらしくて良かった。あなたはあなたの好きな曲を弾き続けてください。

他方、コブリン。自分のラフ2の解釈はこれだという信念を、しっかりしたテクニックにのせて表現していました。自信に満ちあふれていたなぁ。ピアノ協奏曲の王道とも言える甘美なこの曲、コブリンの演奏はいつものごとく甘さひかえめ。でも、何だか泣けてくる。曲への深い思いが伝わってきて、そこに感動してしまう。今まで聞いたラフ2の中で一番の感動かも。

隠れテーマだった翻訳におけるinterpretationとの関係について洞察を得たとは言えないけれど、やはり経験が大切だと痛感。日々の勉強も大事ですが、お仕事をいただいて格闘する中でこそ能力はのびていくのに違いない。それと、やはり得意分野でしっかりした仕事をしたいと思いました。

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記事を書いた人

さるるん@ロシア

米系銀行勤務後、米国留学中にロシア人の夫と結婚。一児の母。我が子には日露バイリンガルになってほしいというのが夫婦の願い。そのために日本とロシアを数年おきに行き来することに。現在、ロシア在住、金融・ビジネス分野を中心としたフリーランス翻訳者(英語)。

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