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いつまでも覚えていたい音

さるるん@ロシア

通訳・翻訳者リレーブログ

先週、アルフレッド・ブレンデルのピアノリサイタルに行ってきました。来月のウィーン公演を最後に引退するとのことで、これが生で聴ける最後の演奏になってしまいました。

はじめてブレンデルを聴いたのは、1992年アバド指揮ベルリンフィルの来日公演でのブラームス・ピアノ協奏曲第1番。ブレンデル、このとき、すでに60代。巨匠クラスのピアニストとは知らず、速いテンポのところではオケに遅れるんじゃないかと余計な心配をしたりして。でも、この日からブレンデルはお気に入りのピアニストになりました。 ニューヨーク留学中にはカーネギーホールでのコンサートにも行ったし、CDも繰り返し聴いてきたピアニストです。

もう77歳だし、衰えを見ることになったら辛いなと思っていたのですが、とんでもない。忘れ得ぬ素晴らしい演奏でした。

【プログラム】
ハイドン   変奏曲ヘ短調 (Hob. XVII/6)
モーツアルト ピアノソナタ (K.533/494)
ベートーベン ピアノソナタ第13番 (Op. 27-1)
シューベルト ピアノソナタ第21番 (D 960)

ピアノの音の豊かさといったら! ピアノから美しい音が湧きあがってきて、水紋のようにゆっくり広がっていって、耳に心にしみわたるのです。音の広がり方と余韻が素晴らしい。この世のものとは思えない響きです。ピアニッシモの音がまた素晴らしい。美しい淡いものがす〜っと消えていく感じ。奇跡のような音でした。

超絶技巧を披露するわけでもなく、派手で華やかなコンサートでもない。ブレンデルが美しいと思う曲を選び、美しい音の響きを聴衆に届けるという趣きのコンサートでした。その音色を聴いていると、じんわりと幸せな気分になってくるのです。いつまでも覚えていたい音でした。

人に感動や喜びを与えてきたブレンデル、聴衆の心に忘れ得ぬものを残したブレンデル。そのピアニスト人生の集大成の演奏が聴けて良かった。

翻って私は一生をかけて何を残していくのだろう、と考えてしまいました。残せるようなものはないかもしれけれど、そのときそのときに自分は最善を尽くして生きてきたと最後に自分で納得できる生き方をしていきたいと思います。

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記事を書いた人

さるるん@ロシア

米系銀行勤務後、米国留学中にロシア人の夫と結婚。一児の母。我が子には日露バイリンガルになってほしいというのが夫婦の願い。そのために日本とロシアを数年おきに行き来することに。現在、ロシア在住、金融・ビジネス分野を中心としたフリーランス翻訳者(英語)。

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