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何でも勉強

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

ビデオから流れるアナウンサーの声を、一生懸命ウィスパリングしている。

大海原に白い泡が螺旋状に浮き立ってきました。
これは何でしょう?
ザトウクジラが漁をしているのです。
ザトウクジラはこのようにチームを組んでイワシの群れを中心に追い込み、狩をするのです…

(わっ、ザトウクジラという単語、調べてこなかった!とりあえずクジラと言っておいて、後でタイミング見計らって言い直そう。で、でも、ザトウクジラはキーワードで何回も出てくるし、このままでは絶対にまずい!まずいぞ〜、さてどうしよう!?)

…というところで、ハッと目が覚めた。夜のニュースを見ようと思ってテレビをつけたところまでは覚えているのだが、どうもそのまま寝入ってしまったらしい。その日は朝早くからウィスパリングの仕事をしたせいか、ニュースの後に始まった動物番組から流れてくるナレーションを半分寝たまま、一生懸命ウィスパリングで訳していたのである。夢とはいえ非常に焦り、心臓がドキドキした。これから “ザトウクジラ”がでてくる仕事があるかどうかわからないが、恐怖があまりにもリアルだったため、さっそく調べておいた(ドイツ語関係の読者の皆さまへ:ザトウクジラ= der Buckelwal)。

普段、何気なく調べたことや、読んだ本が仕事に役立つことがある。インタビュー通訳で好きな作家は?と聞いて、自分も好きな作家だった場合などは嬉しくなる。作品の読みどころを通訳するときも、当然、熱が入ってしまう。先日通訳した演出家のワークショップでは、なんと漫画の知識まで役に立った。ワークショップ二日目、演出家が「みなさん、今日はボクシングの練習をします。」という。ボクシングといっても実際に拳を使うのではなく、ボクシングのルールに則り、セリフに込めたパワーでいかに相手をノックダウンさせるか、という趣旨のエチュードだ。

ここではレフェリーを置きません。そのかわり、ボクサー役2名以外の参加者は判定員として、有効打が決まった場合はポイントをカウントしてください。ただし、有効打であったとしても、相手が上手にディフェンスした場合には有効ポイントになりません。反則も実際のボクシングと一緒です。ベルト以下のダッキング、バッティングなどの危険行為、また実際に殴るのも禁止です。戦術としてクリンチなどを使うのは認めます…

ここまで書くと、漫画に詳しい読者の方ならおわかりかと思うが、以前かなりはまっていた車田正美氏の『リングにかけろ』の漫画である。脳ミソを振り絞る仕事が続くとストレス発散に漫画が読みたくなることがあって、そんな時は「こんなもの読んでいる場合か!?」とかえって自己嫌悪に陥るのだが、人生、無駄なことなどひとつもなく、何でも勉強になるものだ、と漫画を読む言い訳をみつけてしまった。
“ザトウクジラ”もいつか役に立つ日が来るかもしれない。

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記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

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