BLOG&NEWS

通訳者と人格

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

通訳者には色々な個性がある。
かなり乱暴な分類の仕方かもしれないが、おおまかに言えば以下の3つのタイプに分けられると思う。
コミュニケーションの架け橋としてお客様に喜ばれることを無上の喜びとする、天真爛漫な“モーツァルト”タイプ。
どんな注文にもいやな顔せず対応し、休み時間をもらえなくても、食事中に通訳させられても無私の心をもって奉仕する“マザー・テレサ”タイプ。
通訳業を自らを鍛錬する“行”の場と捉え、通訳術並びに自分自身に対して未来永劫戦いを挑み続ける“チェーン・デス・マッチ”タイプ。
もちろん、この3つのタイプに限定できるわけではなく、「隠れ○○○タイプ」、「状況に応じて○○○タイプ」、「○○○+○○○複合タイプ」など、通訳者のキャラクター、仕事の仕方は実に多種多様で、他者に学ぶところが多い。

私は自分でもいやになるほど“チェーン・デス・マッチ”タイプ。
このタイプの特徴としてまず挙げられるのは、過敏な程、準備に時間をかけることだ。それ程神経質に考える必要のない現場であっても、こうきたらこう、ああきたらこうなるだろう、と、まるで将棋の次の手を無限に想定するがごとく、完璧に武装しないと気が休まらない。初めての現場に入る日などは、初陣で武者震いする競走馬さながらである。

私の敬愛する先輩に “デス・マッチ”タイプを絵に描いたような人がいる。
彼女は私よりずっとキャリアが長く、受ける仕事の内容も格段にレベルが高いのに、「類は友を呼ぶ」のご他聞に漏れず、私の中の「デス・マッチ」気質を見抜いてとても仲良くしてくださっている。
お互いに忙しく、なかなか会う時間がないのが残念だが、会えば最後、「最近のデス・マッチ話」に花が咲く。

その先輩が先日、しみじみと語ってくれた。
彼女が他の通訳者と組んだ現場での話だ。機械系の会議で彼女にとっては得意分野。パートナーの通訳さんはベテランだが、どちらかと言えば機械は苦手のように映ったという。日本側に外国語を解する聴衆もいたことから、余計なこととは思いつつ、彼女はパートナーが詰まった時に助け舟を出したらしい。
仕事が終わり、そのことで彼女が謝った時のパートナーの言葉が感動的だったというのだ。
「この仕事はふたりで受けた仕事。チームワークとして最終的にお客様の満足いくような結果が出せれば成功なのよ。教えてくれてありがとね。」
絶交宣言される覚悟で「余計なことをしてごめんなさい」と謝ったのに、逆に感謝されて言葉も出なかった、パートナーの通訳さんが多方面で高い評価を受けている理由が分かった、とやや興奮ぎみに語っていた。

通訳者は現場に出れば一人仕事。誰も助けてくれないし、出た結果にはすべて自分で責任を負わなければならない。しかし反面、努力がお客様の評価につながり、それが自信の糧になるやりがいのある仕事だ。ただ、この「自信」が妙な「プライド」となり、時間と共に「高慢」な態度に変化してしまう危険があるのは否めない。

パートナーの言葉で彼女は悟ったという。
「結局、どんな仕事も最後は人格よね〜。」

今日の教訓:通訳者たるもの、まず「円満な人格者であれ!」。

といいつつ、また次の仕事に向かって自分の首にチェーンを巻き付け、自らとのデス・マッチを繰り広げる私たちなのであった。。。

Written by

記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

END