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翻訳者の夢パート2

仙人

通訳・翻訳者リレーブログ

再度夢の話です。翻訳したいと思い始めたきっかけのこと。もう二十数年前、まだ邦訳されていなかったジョン・アービングの『ホテル・ニューハンプシャー』をどうしても友人に紹介したくて、まさに突き動かされるみたいな気分で一章だけですが自分で訳したことがあります。ワープロも普及していない当時、大学ノートに延々とつたない訳を書き綴りました。後にアービングの『熊を放つ』を村上春樹さんが訳されたものを読んだとき、自分の才能の未熟さにうちひしがれた思いになりましたが。でも、そういう純粋な「これをできるだけ多くの人に読んでほしい」みたいな気持はやはり大切にしたいと思います。
私は「かっこいい文章」とか「決めセリフ」、歌舞伎でいう「見得を切る」シーンにすごく感動してしまうようなのですが、英語の文章で初めてその「かっこよさ」に衝撃を受けたのはヘミングウェイの短編でした。特に”Up in Michigan”という、どうしょうもなく女々しいヘミングウェイの一面を見る気がする話の、簡単な語でたたみかけるように気持ちを伝える文章には今でも圧倒されます。ヒロインの女の子が憧れの男性をどんどん理想化して好きになっていくところで、彼が仕事から帰ってきて手をきれいに洗うところが好き、その腕のたくましさが好き、で、あるとき手を洗おうと彼がシャツをめくり上げていたら、日焼けしているところとしていないところの色が違うのを見て、いっそう好きになる、というシーン。でも、女々しい男性の書く話なので、情けない結末になります。
「声に出して読みたい英語」なら、昔の英文科人間としては、やはりブラウニングやシェリーの詩になってしまうのですが、かっこいい英語の文、というとestablishされた作家としては断然、ヘミングウェイです。短編はみんなかっこいい英語だと思います。文の流れとしては、ウィリアム・アイリッシュ(コーネル・ウーリッチ)のわざとらしいハードボイルドさとフィッツジェラルド的せつなさの交じった饒舌な感じも好きです。
夏のフェアなどで昔の本なども店頭に並んだあと、「読書の秋」だってやってきます。久しぶりに昔読んだ名作を読むのも、ぜひおすすめしたいのですけど。英文ではないですが『レ・ミゼラブル』でコレットって元々誰の娘だったんだっけ、とか忘れてたりしません?

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記事を書いた人

仙人

大学在学中に通訳者としての活動を開始。卒業後は、外資系消費財メーカーのマーケティング分野でキャリアアップ。その後、外資系企業のトップまでキャリアを極めた後、現在は、フリーランス翻訳者として活躍中。趣味は、「筋肉を大きくすることと読書」

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