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母国語とは

みなみ

通訳・翻訳者リレーブログ

 今日の授業で隣になった女の子と、授業が始まる前にちょっとおしゃべり。First languageは? と聞いたところ、ちょっとちゅうちょしていました。中国出身なのだけれど、小学校からこちらに来ているので、どちらかというと英語かなあ、とのこと。「両親とは中国語でしゃべっているけれど、なんだか変な感じ」で、「時々言葉が出なくて混乱することがある」とのこと。
 すぐに授業が始まったので、それ以上はつっこんでは聞けませんでしたが、小学校からこちらだと、たしかにアカデミックな状況では英語の方が勝つだろうなあと思いますが、日常会話も英語が強くなるのかあ、とちょっと意外に思いました。
 授業が終わったあとの帰り道で、ふとそのやりとりを思い出して、「あれ、家の娘なんか、幼稚園からこちらじゃないか。いったいどうなるのか」と思ってしまいました。たしかにすでに、私との会話でもつい英語が混じって、たとえば「今日はうっかりあの番組をmiss(見逃す)するところだった」という調子になります。ところが、その娘が学校の友人と遊んでいるときの会話を耳にすると、たまに、日本語が混じるときがあるのです。確認してみると、確かにうっかりと日本語が入ってしまうことがあるそうです。つまり、日本語と英語の自動回路スイッチがまだちゃんと確立していないということなのでしょうか。
 両親が日本人なのに、英語が強い子供を見ると、以前なら「親が日本語教育に関心がなかったのかな」と思っていました。でも今では、外国にいながら、日本語を母国語として習得するのは非常に難しいものだと痛感しているところです。大学を卒業してからこちらに来た人でも、どっぷりとNZ社会につかり、非常に努力をして英語をマスターし、もっぱら英語を使うという生活をして、日本語が出てこないという人も身近にいます(NZに住んでいるからといって、だれでも英語がネイティブスピーカー並に使いこなせるようになる、という意味ではないので念のため)。
 ましてや、日本語を完全に習得する前に、子供のころから英語に取り囲まれていれば、英語の方が第一言語となる可能性も大なのです。日本にいると、母国語としての日本語の位置づけが空気のように無意識に確立されますが、一歩国外に出てみると、いかにはかない存在であるかを感じさせられます。
 今のところ、娘は日本の漫画大好き、DS大好き、日本の歌大好き状態なので、私との会話もいやがらずに日本語でやり(英語が混じったときに注意すると素直に言い直す)、漢字や本読み(日本語補習校の宿題)もしぶしぶながらやっています。でも、日本の同学年(新6年生)のレベルにはとうてい到達していないのは秋からです。英語の読解力は14歳相当と学校の試験結果で出ているので、言語能力そのものの問題ではないはずです。
 日本人なのだから、ちゃんとした日本語・日本文化を習得してほしい!と願う反面、日本に住んでもいないのに、日本語を母国語としてほしいと願うのは親のわがままなのかなあ、とも思います。自分がバイリンガルスピーカーではないだけに、今後の娘の言語がどうなっていくのか、心配であると共に興味しんしんです。

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記事を書いた人

みなみ

英日をメインとする翻訳者。2001年からニュージーランドで生活。家族は、夫(会社員)、娘(小学生)、ウサギ(ロップイヤー)。

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