BLOG&NEWS

アースの皆既日食旅行記(2)

アース

通訳・翻訳者リレーブログ

わたしを含め、世界に皆既日食に取り憑かれた人々が何万人いるのか知らないが、日食があるたび、その人たち(というか我々)は何とかカネをかき集め、何とか休みをとり、一部の人は借金までして、その素晴らしき瞬間に居合わせようと画策する。そうした人々が世界中から集まるだけでも、交通機関や宿泊施設が大変な状態になることは想像できよう。

特に今回の場合、アメリカ合衆国のど真ん中を皆既帯※が通るとあって、日食が何なのかもまったく知らないくせに、「日食でも見てみるか」という失礼なヤカラも含めて(失礼)、日食前後は数百万人が一斉にアメリカ国内を移動する・・という予想が出ていたほどだ。

※皆既帯
皆既日食が見られるベルト状の地域。幅は数km〜百数十km、長さは数百km〜数千km。今回は西海岸のオレゴン州から東海岸のサウスカロライナ州まで、アメリカ大陸を横断する形となった。皆既帯の幅は110kmであった。東京〜富士山山頂の距離95kmと比較すると分かりやすいだろうか。

理論上、「皆既帯」からほんの数十メートルでも外れれば、「皆既日食」ではなく「部分日食」になる。そして、皆既帯の中心線に近づくほど「皆既時間※」が長くなる。となれば、その日その時に中心線にできるだけ近づくために、当日の交通渋滞も考慮して、前日までにしかるべき場所までたどりついていなければならない。

※皆既時間
月が完全に太陽を隠している時間。今回は最大で2分17秒。

以上の理由から、日食旅行は1年以上前から準備を始める必要がある。

海外の日食に行く場合、通常は天文ツアーに慣れた会社の日食ツアーに参加するのが手っ取り早い。観測場所は下見したうえできちんと用意してくれるし、トイレ等の準備も手抜かりはないからだ(最低でも数時間は滞在する必要があるので、荒野のど真ん中でなくとも、トイレはクリティカルな問題となる。特に個人で動く場合は確保が難しい)。

ただ、そうした専門の日食ツアーに参加する皆さんは、あまりに勤勉すぎて、わたしにはついていけないことが多い。

他の国の天文ファンと比べて、日本の天文ファンの「観測機材充実度」は半端ない。老若男女おしなべて、望遠鏡はもちろん、カメラからビデオから、ものすごい量の機材を現地に持ち込む。

わたしが荷物持ちをするわけではないので、自由にしてくれればいいのだが、一つ問題がある。皆既日食を撮影するには、正確に太陽を追尾しなければならないため、「予行演習」が必要となるのだ。

目的の町に到着し次第、とるものもとりあえず、みんなして観測場所におもむき、北はどっちで東はどっちで、北緯40度だから本番の太陽の高さはこれくらい、方向はあっち、ここにカメラを置くとあの建物が邪魔になる、こっちは木が邪魔だ、三脚を置く地面の様子はどうか・・・等々の条件を吟味し、なるべく本番と同じ時間、場所で望遠鏡やカメラを設置してみて、模擬日食撮影を行うわけだ。そのため、大抵の場合はなんもない現地に足を運び、半日ほどを費やす。その時間がツアーに組み込まれるため、その日は他に何もできない。

わたしはあくまでも肉眼・体感派なので、そうした準備は一切必要なく、肉眼観察用の黒いレンズを持って、皆既帯に足を運び、天を仰ぎさえすればよい。皆さんが予行演習をしている間、できれば他のことがしたい。でもツアーでは、それは難しい。

こうした様子は、たまたま同じ場所に居合わせた日本のツアーの人に話を聞いて知っているだけで、わたし自身、参加したことはない。これまでは自力で現地にたどりつくか、予行演習の時間など一切設けない外国発のツアーに参加するかのどちらかだった。ジョン&サラ夫妻に出会ったのも、アメリカの天文雑誌が企画したチリ日食旅行ツアーであった。

そして今回。日本で起きる日食ならば、恐らくわたしがホテルや交通機関を手配して彼らを連れ回すであろうように、今回はすべてジョン&サラにおんぶにだっこの楽な旅行とあいなった。

ジョンは1年以上前から、皆既帯の端に位置するモーテルに予約を入れてくれていた。しかし通常ならば1部屋30ドルくらいのやっすいモーテルが、200ドル強。強気である。部屋やベッドはそれほど悪くはなかったが、石鹸は使いかけのちっこいのがあるだけだった。まあ普段は30ドルなのだから、仕方ない。

それでも相当良心的なところを選んだようで、ジョンの言うのに、$1600/night low end motelもあるとのことだった。なんやそれ。

日本発の日食ツアーも一応チェックしてみたが、観光付きで7泊100万から、2泊4日の超弾丸ツアー30万まで、法外といっていい値段設定になっていた。常識的な日程で、ほんの少しだけ観光がついた5泊7日のツアーでも40〜50万。

アマゾンの密林地帯に行くわけでもアフリカの奥地に行くわけでもない。ただのアメリカである(失礼)。日食中毒患者の足元を見る姑息な商売だ(失礼)。

今回、ただのアメリカ(失礼)とはいえ、現地に行くまでの足の問題もあり、ジョンとサラがいなければ、わたしもツアーに参加せざるを得なかっただろう。2人には感謝したい。(これを読んでいるわけはないが)

Written by

記事を書いた人

アース

金沢在住の翻訳者(数年前にド田舎から脱出)。外国留学・在留経験ナシ。何でも楽しめる性格で、特に生き物と地球と宇宙が大好き。でも翻訳分野はなぜか金融・ビジネス(英語・西語)。宇宙旅行の資金を貯めるため、仕事の効率化(と単価アップ?!)を模索中。

END