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仙人

通訳・翻訳者リレーブログ

英語で異なる言葉が続くのに、それを表す日本語の言葉が少ない現象、表現編です。文芸ものでは特に悩むことが強く、gentle、sweet、 tenderと続くともう降参です。さらにsoft、subtle、動詞や修飾する言葉との組み合わせにもよりますが、おおいかぶせるようにconsiderate、peaceful、delicate……そして、これが、すべてkissを修飾するとしたら、どうします? さらにその前段階として、brush lips lightlyってあったら……。確かに訳者の腕の見せ所だったりもしますが、うー、厳しい。
また、動詞の数が、英語と日本語では大きく異なり、たとえば「歩く」様子の違いを日本語は形容動詞や擬音・擬態語を使って「さっさと」「どすどす」「きびきび」+「歩く」のに、英語は動詞そのものに違った語を持ってくるので、その感覚をいかしたいと思うと、どうも擬音語の多い訳になってしまいます。
それから、英語をそのまま訳すと二重表現になるものも厄介です。regret laterは何の問題もないけれど「後で後悔」はバツです。よく悩むのはopen clearingで「開けた空き地」って二重? 空き地は開けてるから、空き地なのか、いや開けていない空き地もあるのか……ともかく、山の中などを歩いていて、ぱっと目の前が開けたところに出た、上部にも木が覆いかぶさっていないし、地面も下草だけで障害はない、そういう開けたところ、なわけでそれを数語でどう説明するべき?
最終的には、描かれた状況を丁寧に頭の中で再現し、それを日本語で一から説明するという作業がいちばんいいように思います。フランス語からイタリア語、ポルトガル語からスペイン語、英語からドイツ語みたいな訳はしたことがないのでわかりませんけど、どう考えても英語から日本語より簡単だろうって思うんですけど? あまりはっきりしたことは言えませんが、この労力差は翻訳料の違いにあまり表れていないような気が……。もちろん、日本語のほうが高額ではありますけどね。

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記事を書いた人

仙人

大学在学中に通訳者としての活動を開始。卒業後は、外資系消費財メーカーのマーケティング分野でキャリアアップ。その後、外資系企業のトップまでキャリアを極めた後、現在は、フリーランス翻訳者として活躍中。趣味は、「筋肉を大きくすることと読書」

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