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行き詰まり

仙人

通訳・翻訳者リレーブログ

先日NHKの日本語おもしろ塾というのを見ていたら、「一本」と「一筋」の違いを説明していました。さいきんブームの正しい日本語の使い方みたいな番組と違って、NHKのこの手のものは、言葉の成り立ちなどをいろいろに説明してくれるので、さすがNHKと感心することが多く、翻訳者として勉強になるし、また楽しいものです。
さて、「あなた一筋」で「あなた一本」ではないですよね。逆に普通は「○○大学一本で受験」とは言うけれど、「○○大学一筋」なんて、そういう人もいるでしょうが、ちょっとなあ、という感じです。一筋は長い年月をかけること、一本は選択肢の中でそれを明確に選び出すようなことだそうです。なるほど。また、涙や煙は一筋で、鉛筆や煙突は一本です。この場合、一筋は途中で途切れるようなこともあって線として明確ではないもの、一本は始点と終点がはっきりしていて、輪郭のある太いものなのだということで、川は一筋でも一本でもありえるけれど、一筋の川は日照りが続けば途絶えることもあるような小川、一本は国土省から一級河川とされるような太い川をイメージするらしいです。こういう定義づけを聞くと、ありがたいです。
「ひとすじ」は翻訳のときに悩まなくてもいいのに、悩む言葉のひとつです。一筋にしても一本にしても、こうやって説明しないとわからないような曖昧さを抱えています。a streak of tearsといったときに、他の部分と色の違う「縞」的な意味合いとか、「脈」的なものが、にゅにゅにゅ、と走っていく感じ、a ray of the sunであればrayの光線のイメージを、単に「ひとすじの」涙とか光線で表してしまうことに抵抗、とまではいかないのですが、ひっかかってしまうことがあり、なんとか自分で頭に描いた画像を伝えられないかと思います。「一筋」と同じぐらい単純な言葉で説明できればいいのですが、それは無理だし、えんえんと説明すると全体の流れを壊して、また原文とは違う映像になっていきます。さらにstreaksと複数になっていたりすると、途切れる感じのある「すじ」を使うのって本当は間違い? はらはら落ちる涙? とめどない涙? その涙の跡はどう説明すべき? あと、flutters of one’s heartbeatの鼓動の羽ばたき感とか、やり過ごしてもいいけれど悩みだすときりのない言葉が次々に出てきて、ふう、今日は行き詰っています。

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記事を書いた人

仙人

大学在学中に通訳者としての活動を開始。卒業後は、外資系消費財メーカーのマーケティング分野でキャリアアップ。その後、外資系企業のトップまでキャリアを極めた後、現在は、フリーランス翻訳者として活躍中。趣味は、「筋肉を大きくすることと読書」

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