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語られることのないマナー

昼顔

通訳・翻訳者リレーブログ

先日、帰宅早々、夫が「君ならどうする?」とある質問をしてきました。彼の勤め先で一番の長たる人物の女性秘書を探しており、その日は面接に立ちあったのだとか。面接室に入ると、先に部屋に通された女性がソファーに腰掛けていたので、面接官数名が彼女のもとに歩み寄り、まずは挨拶のための握手を求めたそうです。

「私ならソファーから立ちあがって、一度おじぎをして握手する際に目を見ながら両手で握手をするんじゃないの。」と答えました。

「そうだよな〜。今日面接した子はね、ソファーに座ったまま、全員を見上げる形で1人1人と握手したんだよ。」と当惑気味です。

別に「マナーがなっとらん!」と嘆いたり、怒ったりしているのではなく、少なくともプロトコールに関わる仕事に就くかもしれないその面接の場ではふさわしくない行動だったと思います。もちろん業界や職種、TPOが変われば、求められる対応も変わるものです。どういう状況であっても、周りを見て、且つ自分を客観的に捉える視点があれば、この類の問題は回避できるはず。

そのエピソードを聞いてかつて社内通訳者の面接に立ちあったことを思い出しました。

社内通訳者は長期契約となるため、フリーランスでの通訳と異なり、通常、通訳エージェントの方が候補者に付き添う形でまず面接がとり行われます。

ある意味、思い出に残るその方は、アメリカの某大学で通訳・翻訳を学び、卒業後そのままアメリカに残り、某日本企業の社内通訳者として数年間活躍されたとの経歴でした。

人事部長と私が待つ部屋にそのお二人が入られ、最初に「?」と思うことが…候補者がコート着用のまま面接室に入ってきたためなんです。もちろんエージェントの担当者はきちんとコートを脱がれて腕に持たれていました。

さて面接も無事に終了。「どうするのかしら?」と思っていたら、やはり面接室のその場でコートを着用。エージェントの方もおそらく自分よりも年上の候補者には注意できなかったのでしょう。

その後、人事部長から「自分は面接中の模擬通訳の質や訳出の出来は判断できないが少なくともコート一つとってみても一目瞭然。悪いですがあのような方では社長と一緒に社外に出せません」とのご判断でした。

日本は暗黙知の極めて高い文化です。はっきりと語られることがない分、確かにこの類の情報の共有化は難しい。

帰国子女だから、日本人じゃないからそういう細かい習慣は分からないと言いたくなる気持ちも理解できますが、私の周りには日本よりも外国で過ごした年数が長い人や日本企業に勤める外国人で、こういう語られることのないマナーをきちんと身につけている友人や同僚がいます。日本人以上に気を配り、習得していった経緯には本当に頭が下がります。

世に氾濫するマニュアル本の読破やマナー教室に通うことを勧めているのではないんです。その状況が度を超すと習ったマナーのみが絶対視され、最終的には対応力に問題が出てくるでしょう。

古い日本人体質!と見なされるんだろうなと思いつつ(苦笑)、どういう場所においても、人として少なくとも相手に不愉快な気持ちを与えないような配慮・気配りはした方が自分も生きやすくなるんじゃないでしょうか?

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記事を書いた人

昼顔

外資系金融、在ジュネーブ日本政府代表部での勤務を経て、外務省職員として採用。帰国後は民間企業にてインハウス通訳者としてキャリアを積み、現在は日英仏フリーランス通訳者として活躍中。昨年秋からはNYに拠点を移す。趣味は数年前から再び始めたバレエと映画鑑賞と美味しいモノの食べ歩き。

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