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座談会

通訳・翻訳者リレーブログ

企業が新製品やサービスを市場に導入する前に、消費者座談会たるものを行うことで、一般消費者からの意見を聞き、製品開発、広告や宣伝のアイディアに役立てようとします。ターゲットとなる消費者により、対象者の年齢、性別、職業、趣味等は様々であり、従って商品により、通訳はありとあらゆる人達の、日常の会話を訳すことになるわけです。日常会話とあえていったのは、ビジネス環境で、あらかじめ準備されたプレゼンやスピーチではなく、なまの会話を訳すといった面で、それ以外の通訳業務とかなり異なる性質を持っているわけです。トレンド、思考形態等、色々な面からの情報収集として勉強になる場なのですが、言葉を仕事とする通訳の立場で考えてもなかなか興味深いものがあります。年齢層の高い方の表現と、若い人の表現の仕方はかなり異なるし、20代前半の人たちは、かなりフィーリングで、ものを言うところがありますし、流行の言葉となると一つの言葉で幾つもの感情を表現しているようです。正式な場では絶対にといって良いほど登場しないような言葉や表現を沢山耳にします。難しい語彙は辞書に頼ることができますが、感覚的なものの言い方はそうはいきません。どういう場面で、どんな気持ちの時にその言葉を使うかといったような状況把握をしてから、訳出しをする必要があります。そういえば、昨年、ハリーポッターのアスカバンの囚人のプロモーションで来日したルーパート君(ロン役)は、初来日や映画の感想など色々と聞かれた質問の答えのほとんど全てに対して“wicked”の一言で返事をしていました。“サイコー、ヤベー、cool, ”等、様々な感情表現は、全てこの一言さえあれば済んでしまうということで、彼にとってはかなり便利な言葉だったわけですが、担当の通訳の方は大変苦労しながら、適切な言葉を選んでいたのを覚えています。誰が、どんな場面で、誰に対してその言葉を発していたかを良く考えて訳す必要がある通訳にとっては当たり前の心得であっても、とっさにその場で適切な言葉を発するのは至難の業です。テレビ番組の収録などでは、いつも心の底から変なギャグや、絶対訳せないようなジョークは言わないで欲しいと思ってしまうのは、私だけでしょうか。とは言いながらも、言葉は時間とともに常に変化しているので、会話であれなんであれ少なくとも使われている言葉や表現は常に頭に入れておく必要があることは確かだと思ってます。

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記事を書いた人

大学在学中に通訳デビュー。外資系企業勤務を経て、フリーランス通訳者に。会議はもちろん、音楽、舞台、映画などの分野でもひっぱりだこ。クライアントからの指名率も高い。

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