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雑学の楽しみ

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

翻訳をしていて何が楽しいって、その筆頭に挙げたいのは「どうでもいい知識が増えること」じゃないだろうか。いや、専門分野の仕事で増える知識は「どうでもいい」ものではなく、絶対的に増やしたい、必要な知識だが、私は結構専門分野外の仕事も楽しくお引受してしまうほうなので、ザ・クラッシュの『ロンドン・コーリング』ができるまでの秘話だとか、スイスの高級時計パテック・フィリップは、ドイツの大作曲家ワーグナーもお気に入りだったとか、知っていたっていつの日か誰かとの雑談のネタになるかどうか……程度の雑学がちょこちょこ増えていく。
たとえば、2003年にアメリカで最も盗難にあった車種のトップ3が、1位:トヨタ・カムリ、2位:ホンダ・アコード、3位:ホンダ・シビック、と日本車で占められていたなんて話、ちょっとムフフと思うではないか。私はべつに国粋主義者じゃなくて、アメリカの車に乗らなければならない時期が昔あって、あの国の自動車の燃費がいかに悪いか、どれだけ地球環境を無視した作りになっているかを痛感していたからだ。ガソリンが安いのがいいんだか悪いんだか。「そーだそーだ、自国民が盗みたくならないような車なんてやっぱりダメよ、まじめにやれ、フォード!」なんて意味不明に勝ち誇る。
ジーンズの大人気ブランド『リーヴァイス』の前身が、単なる綿織物業者だったってご存知だろうか。ジーンズは、ネバダ州リノでとある洋服屋が客の木こりの女房から頼まれて作った作業用ズボンに、ポケットをリヴェットで留めることを思いついて生まれたものなのだという。それが口コミで大人気を博し、1人では生産が追いつかない、このままでは発案を盗まれてしまうと悩んだ洋服屋の主人が材料の仕入先リーヴァイ・ストラウス社に、助けてくれる代わりに権利を半分譲渡すると持ちかけたのだ。それが1872年。
まあこんな知識、知っていたってどうってことない。最近、お買い物券を使用したとはいえ、4万円近くもする高級ジーンズをつい衝動買いしてしまったという罪悪感が消えるわけでもない。せいぜい民法の某番組じゃないが自分の中で「へぇ」が積み重なっていくだけだ。でもいいじゃないか、仕事をしながら「面白!」と1人で心の中で呟けるのって。
たま〜に、ものすごくわずかな局面で役立つこともある。
先日、不動産関連の文書を訳した。どこやらのリゾート地の分譲別荘の案内書みたいなものだった。その別荘には infinity edge pool という設備があると、売り込みポイントとして書かれていた。どんなプールかと思ったら、プールの縁とプールサイドの高さを同じにしてあって、水がひたひたに入った状態のプール。どこからどこまでがプールなのか、境界(限界)がないように見えるから、infinity=無限ということらしい。高級リゾートホテルでは、このタイプのプールを備えていると謳っているところが多い。日本語では「インフィニティ・プール」と縮めて言ってしまっているみたいだ。
なんてことを知った翌週、今年の夏休みの旅行先を決めるために色々と資料を見比べていた。やっぱりあった、「当ホテルのインフィニティ・プールは……云々」という文句が。へへ〜ん、知ってるモンね、これって。
ま、ちっさいコトだな。

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記事を書いた人

the apple of my eye

日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

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