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嗚呼、日本語

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

在宅作業の合間に、昼食らしきものをとりながらぼんやりとテレビをつけていたら、浅間山荘事件を振り返る映像が流れた。カラー映像になって間もない頃の、ちょっと輪郭がぼやけたような色も不鮮明な画面の向うで、連合赤軍が立てこもる山荘に警察が突入した瞬間を伝える当時のニュース音声が流れた。
「今、県警が、窓ガラスを破った模様でございます。中からは、盛んに銃で応戦しており、あ、今、警察が中に突入した模様でございます。」
なんだかとっても丁寧で上品。
今ならもっと、カジュアルな言葉遣いだろう。
「今、県警が窓ガラスを割りましたねー。おっと中から銃撃音!あ、あ、今、警察が突入!突入です!」
こんな具合かな。
あまり緊迫した感じに聞こえない浅間山荘突入の瞬間の報道は、それでも、視聴率が空前の90パーセント台だったとか。今思うと、日本という国がもうちょっと均一で平和だったような、錯覚かもしれないけどそんな印象を抱いてしまう。そこに、件の上品なアナウンサーの喋り方がとてもマッチしている気がする。
「丁寧な言葉遣い」関連で最近の動きというと、「文化審議会」という政府の委員会(会長:阿刀田高さん)が最近、敬語の分類の見直しを図ったというニュースが今月の初め頃にあった。
使い方が乱れていて、敬語を難しいと感じる人が多いため、分類をより明確にして誤用を避ける方向にもって行きたいというのが文科省の意向だそうだ。
それで、今までは「尊敬語・謙譲語・丁寧語」の3つに分類していたものを、「尊敬語・謙譲語1・謙譲語2・丁寧語・美化語」の5つにするというのだ。
新聞の記事だけで実際の委員会の答申書を読んだわけではないせいか、この謙譲語1(自分がへりくだって相手を高く位置づける(立てる)敬語)と謙譲語2((丁重語)話し相手に自分側の行為を丁寧に話す敬語)の区別やその必要性、あるいは尊敬語と美化語の明確な区別などがどうも分かりにくい。「申し上げる」は謙譲語1で、「申す」は2なんだとか。「お名前」は尊敬語で、「お酒」は美化語。じゃあ「お電話」は?
学校教育への導入は今後検討していくそうだけど、こんなの子どもが混乱するだけ、という気がするのは私だけだろうか。
「ご注文は、以上でよろしかったでしょうか?」とか、「そちらのほうで、大丈夫でございます」は、どう分類すればいいのか。分類を5つにしたらこういう言葉遣いはなくなると本気で思っているのか。
敬語つながりでもう1つ言うと、先日、知人に宛てたメールで夫のことに言及しようとして、ふと思った。「『愚妻』って言うけど、『愚夫』って聞いたことがないな」と。「愚妻」は恐らく謙譲語2になるのだろうけど、他者に対して夫に言及する時は、目上に対しても目下に対しても多分「主人」が最も一般的な謙譲語的言い方だろう。すわ!男尊女卑だ!と騒ぎたいところだけど、「愚息」はあっても「愚娘」はなくて、言うとしたら「愚女」だとか、子どもはまとめて「豚児」だとか、あまり使われなくなっているような言葉も含め、ほんと、日本語は難しい。

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the apple of my eye

日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

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