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Piri Piri !

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

「アメリカ人が経営している Nandos というレストランで Piri Piri Chicken を頼んだら、スパイシーすぎて子どもが食べられなかった」という話をメル友のイギリス人から聞いて、「日本食レストランに行ったのね」と返事をしたら、「何でもかんでも日本の発明だと思っているのは日本人の悪い癖だ。カレーも日本人が発明したと思ってるだろう」と難癖をつけられた。「Piri Piri Chicken はポルトガル人が発明したんだ。カレーはインド人」だと。
 だ、だって、「納戸」って店で「ピリピリ・チキン」が「辛かった」って聞いたら、日本食レストランだと思ってもいいんじゃない? 少なくともガイジンが大好きな「テリヤキ・チキン」は日本人が発明したんだし。誰も curry を日本人が発明したなんて言ってやしない、でもカレー・ライスはどう考えても日本食でしょ。あんな小麦粉が入っててベトっとして、人によっちゃウスターソースかけて食べるようなメニューが、インドにあるかい?少なくとも牛肉や豚肉の入ったカレーなんて、ヒンズー教の人は食べないし。
 ピリピリ・チキンなんてのがポルトガル料理で有名だとは知らなかったけど、なんだか悔しいのでちょっとだけ調べたら、何さ、あんただって勘違いしてるわよ。piri piri はスワヒリ語で唐辛子を指す言葉なんだって。唐辛子は英語で chile /chili っていうくらいだから南米原産(厳密にはチリじゃなくてメキシコ)。コロンブスが持ち帰ったのが最初なんだって。それが1492年。植民地主義のポルトガルがそれを今度はアフリカ大陸の植民地へ持って行ったわけ。それがあっという間にアフリカで大人気になって、piri piri と言われるようになったの!
 ……などと、一気に反論してやったけれど。
 でも、日本語で「辛い」という意味の「ピリピリ」とか「ピリリ」とかの擬態語が、実はポルトガル経由のスワヒリ語から来ているのだろうか? 確かに、日本の種子島に最初にポルトガル人がやってきたのが、戦国時代の16世紀半ばだから、一緒に唐辛子も「これは piri piri だ」と言って持ってきたのかもしれない。実は唐辛子がどうやって日本に伝来したのかは、種子島の鉄砲ほど明確に分かっていないらしい。「唐辛子」っていうけど、「唐=中国」からきたから、というわけではなく、「唐」というのは単に「外国から来た」くらいの意味なのだそうだ。「南蛮辛子」という呼び名もあるほどで。でもまあ、「山椒は小粒でもぴりりと辛い」ということわざが落語「野崎詣り」にも登場するくらいで、日本にはずいぶん長く定着している「ぴりり/ぴりぴり」なのである。
 「ピリピリ」とか「ドキドキ」などを日本語では擬態語といって、英語では擬音語と合わせてonomatopoeia という。擬音語の方は「ワンワン」とか「シュッシュッポッポ」とか。日本ほど擬態語が豊富な国はない、と『犬はびよと鳴いていた』(光文社)の山口仲美先生は言う。山口先生によると、英語には350種類、日本語には1,200種類もの擬態語があるのだそうだ。確かに、英語にも擬音語は結構あるけど、音が出ない現象を音が出るかのように表している擬態語は、あまり思いつかない。外国人が日本語を勉強する時に、擬態語はかなり難しいハードルらしい。音が出ない沈黙状態を「シーン」と表現したり、黙って困りきっている様子を「冷や汗をタラタラ流して」と言ったり、気落ちした様子を「ガックリきている」などなど、ほんとに挙げるといくらでも出てくるが、英語に直すのは難しい。
 最近では、「ヒヤリハット」なんて言葉もできている。安全用語なのだそうだ。事故には至らなかったが「ヒヤリ」とか「ハッ」とした事例を、「ヒヤリハット事例」といったりする。これ、英語に直すと何か特別な言い方があるのだろうか。ネットでちょっと見たら、なさそうだったけど。near accidents case とか、near miss case なんて訳されている。「ヒヤリ」は chilly、「ハット」は alarming とか。企業の危機管理や安全対策用語として、今後広まっていくのかもしれない。生産管理用語の「カンバン」みたいに。えー、ちなみに、この chilly は chile /chili にひっかけたダジャレのつもりではございませんので、悪しからず。

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日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

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