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第5回 夜空を見上げて叫びたくなったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

このタイトルを書き出してみて、自分でも笑ってしまいました。夜空を見上げて叫びたくなることってあるのかなと。

でも、やり場のない想いって、発散する場所がないと、どんどん自分の頭や心に溜まってしまって、気分を重くしてしまうもの。

生活という小さな景色に息が詰まったら、やはり大きな星空の出番だと思うのです。というわけで、荒野に佇み空を仰ぎ見る詩人、エミリー・ブロンテ、この人の詩を紹介しなくてはなりません!

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AND FIRST AN HOUR OF MOURNFUL MUSING
By Emily Brontë

And first an hour of mournful musing
And then a gush of bitter tears
And then a dreary calm diffusing
Its deadly mist o’er joys and cares;

And then a throb, and then a lightening,
And then a breathing from above,
And then a star in heaven brightening —
The star, the glorious star of love.

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初めに ひとしきり物思いに沈む
エミリー・ブロンテ

初めに ひとしきり物思いに沈む
それから 苦い涙があふれて
それから 侘しい沈黙が訪れる
歓喜や苦悩に 絶望の霧がたちこめる

それから 鼓動 そして 稲妻
それから 聞こえてくるのは天の息遣い
そして 天上には星が輝く
星 煌く愛の星

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想像してみてください。夜ひとり荒野へ駆け出し、押し寄せる感情を抑えられず、わーっと泣く。それと合わせるかのように、一陣の嵐が訪れる。しかし、ふと見上げると雲が晴れ、星が輝いていた。

そんなことって、人生にあるのだろうかと思うかもしれません。

しかし、この流れ、「悩んで悶々としてたけれど、友だちに会って泣いたり笑ったりしていたら、気持ちがスッキリした」という流れと完全に一致していませんか!

詩の役割のひとつに、人間の心の動きを草花や雨風といった自然に重ね合わせること、があります。ものごとから連想するイメージを使って、直接的な言葉で表しにくい感慨や、自分の心の風景を自然の風景になぞらえて伝えるという方法です。

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この詩の流れを追っていくと、まず物思いからはじまります。悩みがあると、静かな時間はどうしても自分の中に降りていってしまう。

次に、思い通りにいかない悔しさ・もどかしさから、涙がこぼれる。

こうして悩んだり泣いたりしている自分の情けなさ、自分の事情が人には理解されない苛立ちに、黙るしかなくなる。こうしたモヤモヤした気持ちは「絶望の霧」となって立ち込めます。

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そんなとき、誰かのひと言や行動がきっかけとなって、閉じていた心を開いてくれることがあります。

その興奮が「鼓動」として、ひとが与えてくれるインスピレーションが「稲妻」として、力を与えてくれるように感じる。

「鼓動」という言葉が絶妙ですよね。半ば諦めて心も身体も動かなかった、そんな自分が再び生命力を取り戻す。自分の鼓動が世界に響いている感覚、人や社会の中で生きることの実感。それが、「息遣い」として感じられる。

こうして、スッキリと雲の晴れた心に「愛の星」が煌めく。ただの星ではなく「愛の星」というところが、最後までこの詩を劇的なものにしていますよね。

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「何か落ち込んでいたけど、元気をもらって、すごくスッキリした!」と言ってしまうと、あまりにも日常的なメッセージのひとつになってしまうのですが、わたしたちはそういった内容の歌詞に共感して、日々音楽を聴いたり歌ったりします。

詩も、同じように、自分の気持ちを代弁してくれたり、感情を増幅してくれたりするのです。だから、悲しいときには悲しい詩を歌い、優しい詩を鼻歌のように歌う、それでいいのだとわたしは思います。

エミリー・ブロンテ自身は、情熱的な作品とは対照的に、生まれ故郷で淡々と日々を送りながら、30歳でその短い生涯を閉じました。実体験が伴わなくても、想像力だけで広大で深遠な作品を残せること、こころの中ではどんな壁も越えられること。彼女の詩を読むたびに、そういった希望と勇気が湧いてきます。

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今回の訳のポイント

エミリー・ブロンテの詩は、悲痛や苦悩、意志や誇りといったキーワードが多く登場します。なので、彼女の詩を読んでいると、人生の暗い面と力強い面を表現する語句に多く出逢います。

今回の詩では、mournfulやdreary、deadlyなどの「悲しげな」というカテゴリーに入る単語が登場しました。日本語でも「悲痛な」「陰鬱な」「もの悲しい」「憂いの」「悲嘆の」など様々な類語がありますね。

硬い言葉で重厚感を出しても良いのですが、硬い言葉は日常的に馴染みがないと、言葉の意味がすっと心に届かない。すると詩との隔たりを感じてしまう気がします。難しくも楽しい言葉選びのプロセスです。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END