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第29回 天才的なひとに出逢ったとき思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

世の中には天才と呼ばれる人がいます。スーパープレーで見る人を魅了したり、できないと誰もが思っていたことをいとも容易く実現したり。

こうした人たちは、努力を努力とも感じず、ひたすらに自分の興味や課題に没頭し、気づいたときにはいつの間にか事を成していたという場合が多いです。

そんな風にして、天才が辿る達成の道のりを思う時に、思い出す詩があります。

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The Long Hill
Sara Teasdale

I must have passed the crest a while ago
And now I am going down—
Strange to have crossed the crest and not to know,
But the brambles were always grabbing at the hem of my gown.

All the morning I thought how proud I should be
To stand there straight as a queen,
Wrapped in the wind and the sun with the world under me—
But the air was dull, there was little I could have seen.

It was nearly level along the beaten track
And the brambles caught in my gown—
But it’s no use now to think of turning back,
The rest of the way will be only going down.

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丘を越えて
サラ・ティーズデイル

頂上は さっき通り過ぎてしまったみたい
そして 今は下り道
頂上を越えたのに気づかないなんて おかしな話
そんなことより 木苺がスカートの裾に絡まって歩きにくかった

午前中はずっと思ってたの どんなに嬉しいだろうって
女王様みたいに 誇らしげに頂に立ち
吹く風と陽の光を纏って 世界を見下ろしてみようって
でも 空気は重く 周りの景色だってあんまり見えなかった

山道でも何でもないところまで下って来てしまったみたい
スカートの裾には木苺が絡まってる
やっぱり頂上を確かめに戻ってみようかな いや もういいや
あとはずっと下っていくだけだから

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山には頂上があり、目標にはゴールがあります。しかし、そのプロセスそのものに没頭しているとき、もはや達成そのものには興味が無くなってしまうようです。

この詩では、頂上をいつの間にか越えてしまっています。また、その道程のどんな困難よりも、スカートに絡まる木苺の方が気になっています。

そして、達成の誇らしさといったものに捉われずに、自分のペースでずんずん進んでいく。

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与えられた計画や、信じられている定説といったものに捉われずに、自分の目に留まった素朴な疑問を突き詰める天才の姿を象徴していますね。

最も身近な天才は、子どもであるといつも思います。駅で行き交う電車をずっと見ていたり、パン屋さんでパンが窯に入れられたり出されたりされる様をじっと見ていたり、散歩中に水たまりに足を止めてずっとしゃがみこんだり。こうした天才を失って、大人になってしまうのは何とも残念ですね。

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天才にとっては、達成することそのものがゴールなのではなく、興味をひかれた事象の謎を解き明かすこと、自分なりの真実を手にすることこそが、その一意専心な探求の動機になってきます。

しかし、その旅路には終わりがありません。こうした人は、ある謎を解明する道半ばで、様々な謎に目を留めます。一見回り道をしているようにも思えるのですが、既存のルートでないところで様々なものを獲得していくのです。

目標達成だけを考えている人が見過ごしてしまうような、こうした小さな興味の種をたくさん抱えているので、人が一輪の花を咲かせるのに汲々としている間に、あっと驚くような花畑をつくりあげたりもするのです。

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今回の訳のポイント

山登りというメタファーは、人生という旅路を表現するのによく使われます。この詩からも、そのようなテーマを少なからず感じることができます。

しかし、この詩をチャーミングにしているのは何と言っても、But the brambles were always grabbing at the hem of my gown.「そんなことより 木苺がスカートの裾に絡まって歩きにくかった」ですね。

always+進行形で、少しネガティブなトーンを伝えることができます。裾に絡まる木苺がずっと気になっていたら、いつの間にか頂上も過ぎてしまっていた。

頂上はいつの間にか到達するもの、そんな天才の姿勢を、この一行が痛快に物語っていますよね。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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